Tous les chapitres de : Chapitre 1201 - Chapitre 1210

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第1201話

......それから、詩乃は空になったお椀をシンクに入れると、コップに水をいれて、部屋へ戻っていった。しかし、彼女が部屋に戻ると、予想外のことにも浩平はまだ座っていた。彼女が渡したパジャマは、手もつけられずにベッドの脇に置かれたままだった。「お兄さん、まだ着替えてないの?」そう言って、詩乃はドアを閉め、近寄ってコップをベッドサイドテーブルに置いた。すると、浩平は彼女を見つめて、「喉が渇いた」と呟いた。そう言われて詩乃はコップを彼に渡した。「お水よ、飲んで」浩平はそれを受け取ると、「ありがとう」と言った。そして彼が顔を上げて水を飲むと、喉仏が上下に動いたので、詩乃はそばで立ち尽くし、その様子思わず見とれてしまったのだ。照明の下、半裸の浩平の体は眩しいほど白く、引き締まった筋肉は、まるで完璧な彫刻のようだった。詩乃は見ているうちに、思わずごくりと唾を飲み込んだ。なんだか自分も体が熱くなるのを感じようになってきた。詩乃は慌てて背を向け、クローゼットへ向かってパジャマを手に取った。「飲み終わったら着替えて、早く寝てね。私、シャワー浴びてくるから」そう言って、彼女はパジャマを抱えてそそくさとバスルームに入っていった。バスルームのドアが閉まった瞬間、浩平はポットを置いた。閉ざされたドアを見つめるその深い目線に、かすかな笑みが浮かんだ。......詩乃はもうお腹が大きくなっていたので、普段は髪を洗うのは浩平に任せていた。でも今夜は浩平が酔っていて手伝ってもらえなさそうだったから、自分でシャワーを浴びることにした。十分ほどして、バスルームのドアが開いた。詩乃がネグリジェ姿でバスルームから出てきた。ベッドの方を見ると、浩平はまだ座っていた。詩乃は少し驚いて浩平を見た。「お兄さん、まだ寝てなかったの?」「あなたを待ってた」そう言われて、詩乃の胸の鼓動が、訳もなく少し速くなった。「先に寝ててって言ったのに。お酒飲んだから眠いはずだよ、早く横になって」「あなたに服を着せてもらうのを待ってたんだ」詩乃は疑問に思った。浩平はこめかみを押さえた。「ひどくめまいがして、自分じゃ着られないんだ」詩乃は彼を見た。「そんなにしっかり座ってるのに......」「手伝いたくないのか?」詩乃
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第1202話

この時部屋の明かりは消され、ベッドサイドのオレンジ色の小さなランプだけが灯っていたのだった。そして、着てから数分も経っていないシルクのネグリジェは、もう無造作に床へと脱ぎ捨てられていた。暖かいオレンジ色の光が、ベッドに絡み合う二つの影を照らして、光と影が揺れ動いた。そして詩乃は浩平に抱き上げられ、くるりと向きを変えると、二人は向かい合わせになり、彼女は再び、彼の膝の上に座らされてしまったのだ......こうして詩乃のネグリジェの肩ひもが華奢な肩から滑り落ちると、胸元が緩み、滑らかな生地が、細い腰にそってはだけていた。そして詩乃の前では、男が頭を下げたまま、熱く湿った吐息が、彼女のうなじをなぞっていくのだった。浩平は今夜確かにお酒をたくさん飲んだ。でも、我を忘れるほど酔ってはいなかった。シャワーを浴びたのは、体の火照りを冷ますためだ。帰り道、浩平は詩乃の肩にもたれかかっていた。アルコールの匂いにまぎれた彼女の甘い香りに思わず酔いしれてしまったのだった。特に、ぎゅっと抱きしめられた時、彼女の柔らかい指先が何度も無意識に頬や額をかすめて、彼の全身を熱くさせたのだ。でも、その一方で浩平は自分のことを心配する詩乃の姿を見るのは嬉しかった。だから、わざと酔ったふりをしていた。部屋に送り届けられた後、浩平はベッドに横になった。でも、体の火照りはますます強くなるばかりだったから、ついに耐えきれなくなり、起き上がってバスルームに向かった。冷静になるために、彼は冷たいシャワーを浴びなければならないほどだったのだ。でも、体の熱がまだ冷めないうちに、詩乃がまた自分を煽ってきた。浩平は詩乃が妊娠していることを気にしていた。妊娠中期なら大丈夫だとは言われていたけど、万が一を考えると怖くて。だから、できるだけ我慢しようと思っていたんだ。なのに、詩乃の澄んだ無垢な瞳と目が合うと、彼の自制心はあっという間に消え去ってしまった。浩平は自分が少し意地悪だと思った。わざと詩乃を誘惑して、ドキドキしながらも戸惑っている彼女の姿を見ると、心の中ではいつも得意な気持ちになれたからだ。そして改めて、愛というのは、本当に簡単に人の理性を失わせてしまうものなんだな、と思った。なにせ、詩乃の前では、自分の自慢の理性も自制心もすべて、原始的な衝動と独占欲に駆
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第1203話

そして、眩しい光に目を細めながら、浩平は腕の中の女を見つめては、口角を少し上げ、彼は身をかがめて詩乃の柔らかい髪にキスをした。時間を見ると、朝の7時半だった。まだ早い時間だ。浩平は静かにベッドから出ると、パジャマを羽織ってバスルームへと向かった。それでも、身支度をする音で詩乃は目を覚ましてしまった。詩乃が目を開けると、ちょうど浩平がバスルームから出てくるところだった。彼女は一瞬きょとんとして、二人の視線が交わると、昨夜の出来事が詩乃の頭を駆け巡った。すると、彼女の頬も耳も、あっという間に真っ赤になった。それを見て、浩平はにっこり笑うと、詩乃の隣に腰掛けて、彼女の鼻をつまみながら尋ねた。「体の調子はどう?」「も、もう聞かないでよ......」詩乃は恥ずかしくてたまらなかったので、布団を顔まで引き上げると、目だけをのぞかせて、しょんぼりと彼を見つめた。そんな目で見つめられて、浩平は思わずごくりと喉を鳴らした。彼は目を閉じて、そっとため息をついた。どうやら好きな人が妊娠中だと色々と大変だな、と浩平はこの時つくづく感じていた。でも、詩乃は初めての妊娠で分からないことだらけだ。だから、夫である自分が、彼女以上にしっかりしないといけない。そう思って浩平は詩乃の顔をみて、真剣な顔で説明した。「昨夜はあなたがすごく感じやすかったみたいだから......ごほん、体のことを心配して言ってるんだよ」そう言われて詩乃は、ますます顔を赤らめた。「大丈夫......」彼女は恥ずかしさのあまり、蚊の鳴くような声で答えた。自分でもどうしてか分からない。妊娠してから、なんだかすごく敏感になったみたい。昨日の夜も......もう、考えちゃダメ。「もう起きる!」そう思って、詩乃は布団をめくりあげて起き上がった。浩平は彼女が恥ずかしがり屋なのを分かっていた。それにこう見ると、顔色も良く元気そうなので安心した。「朝ごはん、何食べたい?花梨さんに言って用意してもらうよ」「いつもと同じでいい」詩乃はスリッパに足を通し、バスルームへと向かった。浩平は彼女の後ろ姿を見つめ、口元をゆるめた。そして、彼は自分の鼻先を指でなぞって、焦る必要はない。これから時間はたっぷりある。赤ちゃんが産まれれば、二人で過ごす夜はいくら
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第1204話

ほどなくして、音々は、車をグレースヴィラへと入れた。三人が車から降りると、音々のスマホが鳴った。相手は輝からだった。「悠翔が泣いてるぞ!早く帰ってこい!」すると、電話の向こうから、かすかに悠翔の泣き声が聞こえてきた。音々は目を細め、呆れたように言った。「輝、私を呼び戻す口実でまた悠翔を泣かせたでしょ。帰ったらただじゃおかないから!」「だとしても、こいつが悪いんだ!」輝は毒づいた。「毎日、弟、弟ってうるさいんだよ。縁起でもない!」「......まだ一歳にもなってないのよ!弟って言えるだけでもすごいじゃない。これ以上何を望むっていうの?!」「妹って教えたのに、ぜんぜん言わないんだ!こいつはわざとやってるんだ!だからお仕置きをしてやったんだ!」そう言われて、音々はこめかみを押さえた。「待ってなさいよ。今すぐ帰って懲らしめてやるから!」そう言って電話を切ると、音々は詩乃と浩平に一声かけ、車で走り去った。一方で、浩平の秘書である山下健二(やました けんじ)がすでにすべて手配を済ませていた。健二が面接して雇った住み込みの使用人は、「清水さん」と呼ばれていた。そして、浩平は、専属の運転手も雇うよう健二に指示していた。自分が撮影で家を空ける時、詩乃が外出しやすいようにするためだ。そこで使用人の清水は朝早くに買い物を済ませ、今はキッチンで忙しく立ち働いていたのだった。車の音が聞こえると、彼女はコンロの火を止めて出迎えに来た。健二が二人を紹介すると、清水は浩平と詩乃に丁寧にお辞儀をした。「旦那様、奥様、お帰りなさいませ。夕食の支度をしております。あと三十分ほどでご用意できますので」「ああ、頼む。妻とすこし家を見て回ってくるから」「はい、かしこまりました」清水は頷くと、キッチンへ戻って作業を続けた。片や、健二は、浩平と詩乃を二階へと案内した。「こちらが主寝室です。ご指示通り、寝具は妊婦さんや赤ちゃんに刺激の少ない、有名ブランドのものを選びました。ウォークインクローゼットのマタニティウェアも有名ブランドで揃え、クリーニング済みです」浩平は詩乃の手を引いて主寝室に入り、部屋をぐるりと見渡して満足そうだった。そこは暖色系の内装に、可愛らしいテイストが散りばめられている、いかにも詩乃が好みそうな部屋だった
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第1205話

下手をすれば、この子も諦められていたのかもしれない......そう思うと、詩乃は俯いて、少し膨らんだ自分のお腹を撫でた。そして、改めて一度はこの子を諦めようとしたのだと思うと、詩乃の胸は罪悪感でいっぱいになった。でも、よかった。自分と赤ちゃんは、本当にラッキーなのだ。人生で浩平に出会えてこうしていられただけでも、詩乃は十分すぎるくらい幸せだと思えた。......それから、浩平と詩乃が北城に戻って三日目。今日は、詩乃が検査を受ける日だ。二人は出産を佐藤グループ病院ですることに決めていて、音々と丈が、あらかじめ病院に話を通しておいたのだった。検査の日は朝ごはんを抜かなきゃいけないから、浩平は朝早くから詩乃を病院へ連れて行った。浩平もまた子供の父親として、出産に向けた準備を沢山してきたから、妊婦の中にはこの検査で気分が悪くなる人もいると知っていたのだった。だからこの日彼は、自分で運転するんじゃなく、運転手に送迎を頼んだのだった。でも詩乃は、ブドウ糖を飲むときに少し気持ち悪くなったくらいで、あとは特に問題なく検査を終わらせることができた。そして、特別な配慮のおかげで、検査結果もすぐに出た。産婦人科の医師は検査結果を見ると「問題ありませんよ」と言って、妊娠中期の注意点をいくつか伝えた。そして、次回の検診の予約も済ませるとこれで今日の検診は無事に終わりだ。産婦人科を出ると、詩乃は浩平の腕に自分の腕を絡め、もう片方の手は、いつもの癖で、少し膨らんできたお腹に添えながら言った。「ねえ、この子、男の子だと思うようになってきたの」それに浩平も詩乃に視線を向けて聞き返した。その深い目線には、いつものように優しい光をたたえていた。「どうして?」「だって、毎日胎動がはっきりしてるの。それに、何回かポンポンって蹴ったらすぐに静かになるし。妊婦さん向けのアプリで他の妊婦さんがあげたスレッドに書いてあったんだけど、男の子の胎動はそういうものだって」そう言われて、浩平は困ったように笑った。「そういうのって、人それぞれじゃないのか?」「当たるかどうかは分からないけど、でも、私の直感は信じてる!」詩乃は浩平を見上げた。「絶対に、あなたにそっくりな子を産むんだから!」「どうして、そんなに俺そっくりの子にこだわるんだ?」浩平は不思議
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第1206話

航太と咲玖は、数人のボディーガードを連れて、梨野川の別荘のゲートまで直接やって来た。梨野川の別荘のセキュリティは二重になっていた。一つはエリア全体の統一システムで、もう一つは各戸独立のセキュリティシステムだ。我妻家は、H市でトップの財閥だ。ここ数年は勢いが落ちていたけれど、少し前に浩平から多額の資金援助があったおかげで、美紀がおこした騒動も無事収束することができて、今やもとの経済界で無視できない存在の立ち位置に戻っていたのだった。だから、航太が名刺を提示すると、警備員は本人確認をしてから彼らを敷地の中へと通した。すると2台の高級車が敷地内に入り、グレースヴィラへと向かった。そして数分後、2台の高級車はグレースヴィラの前に停まった。航太の秘書が車を降り、警備員に名刺を渡した。「詩乃様にお会いしに来ました。車内には会長ご夫婦がおられます」それを聞くと、警備員はすぐに言った。「申し訳ありません。旦那様から、中島さんと隣の二宮社長以外の方がお見えの場合は、必ず先に取り次ぐようにと申し付けられております」それを聞いて、秘書は眉をひそめた。「うちの会長ご夫婦は詩乃様の実のご両親ですよ。しかも、浩平様の養父母であり、今や義理の親でもあります。詩乃様に会うのに、許可が必要だとでも言うんですか?」それを言われ警備員も困惑した表情を浮かべた。その時、後部座席の窓がゆっくりと下がり、車内から航太が秘書に尋ねた。「どうなっているんだ?」秘書は車に駆け寄り、腰をかがめて説明した。「会長、警備員の話では、まず取り次いで許可をいただかないと中には入れないとのことです」それを聞いた航太は顔を曇らせた。「ふざけるな。俺が自分の娘に会いに来るのに、警備員ごときの顔色をうかがえと言うのか?」「落ち着いて」そう言って、咲玖がバッグからスマホを取り出した。「私が詩乃に電話するから」......一方で、家の中では、詩乃が昼寝から目覚めたところだった。二階から下りてくると、清水が彼女に気づき、笑顔で言った。「奥様、お目覚めですか?」「うん」詩乃は清水ににっこりと微笑んだ。「旦那様が、奥様はH市のマンゴープリンがお好きだとおっしゃっていたので、動画を見て作ってみたんです。常温にしておきましたが、召し上がってみますか?」「ええ、お願い」詩乃は急
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第1207話

一週間で曲が3曲売れて、たいした額じゃないけど、一人で暮らしていくには十分なお金にはなった。あと何曲か売れたら、この都市を出て暮らそうと詩乃は思っていた。しかし予想外に、その一週間後に咲玖から電話があって、浩平が帰ってきたから、実家でご飯を食べようと言われたのだ。詩乃は本当は帰りたくなかった。でも、浩平には会いたかった。彼ならきっと力になってくれるだろうと思ったからだ。こうして結局、彼女は実家に戻ることにした。まさか、それが罠だとも知らずに。あの日、浩平はひどく酔っていて、使用人に支えられて部屋に戻った。そしたら咲玖から彼に、酔い覚めのスープを持っていくようにと言われたのだ。今にして思えば、どうにも腑に落ちないことばかりだった。それにあとから浩平に聞いた話と合わせると、あの夜の出来事は家族によって仕組まれたものだと詩乃はほぼ確信できたのだ。自分が強硬な態度で入江家との縁談を断っていたから、両親は焦った。それに加えて、ちょうどその頃、浩平も家を出て独り立ちしようとしていたから、いっそのこと、養子だった彼を婿にしてしまおうという魂胆だったのかもしれない。そう思うと、詩乃は両親への失望はもちろんだけど、それ以上に浩平のことが不憫でならなかった。もし自分のせいでなければ、浩平ほどの実力がある人が、こんな家に縛られる必要なんてなかったはずなのに。詩乃は考えれば考えるほど腹が立って、咲玖からの電話に出なかった。本当は、咲玖に期待していた。生まれた時から離れて暮らしていたけど、やっぱり実の母親だから。仲の良い親子になりたかったし、親孝行だってしたかった。この二十数年、咲玖にも苦労があったはずだから。でも、そんなささやかな期待も、咲玖の冷たい態度ですっかり打ち砕かれてしまった。しかし、彼女が電話を切ったそばから、また咲玖から着信があった。詩乃はそれにイライラを募らせた。その時、家の固定電話に警備員から連絡が入った。詩乃が受話器を取ると、警備員の声がした。「奥様、こちらに数名の方がお見えになりまして、奥様のご両親だとおっしゃっているのですが......お会いになりますか?」「私の両親?」詩乃は眉をひそめた。「何人で来たの?」「車が二台です」と警備員は答えた。「わかった」詩乃は言った。「少しだけ待っててもらうよ
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第1208話

詩乃は、何も説明する気になれなかった。彼女はどうしても一人で両親と顔を合わせたくなかったのだ。以前なら一人でも平気だった。でも、今は違う。お腹に赤ちゃんがいるのだ。両親が今回やってきたのは、きっとお腹の赤ちゃんが目当てだということも分かっていた。彼女はすでに浩平から、もし男の子が生まれたら、その子は我妻家の跡継ぎとして成和の養子に出すと父と約束したのだと聞いていたのだから。もちろん、それは浩平の単なる時間稼ぎだけど、父は疑り深い性格なのだ。それに彼は昔、目的のためなら手段を選ばず、我妻家の跡継ぎの座を手に入れてきたのだから跡継ぎ問題となると、さらに慎重かつ強引になるに決まっている。たとえば、今日このタイミングで北城にやってきたのも、絶対に偶然ではないはずだ。きっと、浩平がいないことを事前に調べて、人を連れて直接乗り込んできたのだろう。だけど、男の子だろうと女の子だろうと、この子を両親に渡すつもりなんて、詩乃には毛頭なかった。「入江家との縁談を断ったら、我妻家とは縁切りだと、そう言ったのはあなたたちの方でしょ」詩乃は二人をまっすぐ見て、毅然とした態度で言った。「今さら会いに来たのだって、娘の私に会いたかったからじゃないはず。私がまだあなた達をお父さん、お母さんと呼ぶのは、育ててもらった恩があるからよ。でも、お兄さんが60億円も渡したはずよ。それで手切れ金としては、十分だったじゃないかしら」「この親不孝者が!」それを聞いて航太は勢いよく立ち上がって怒鳴りつけた。「浩平に養ってもらってるからっていい気になるな!もう金輪際我妻家とは関わらないつもりか!俺によくもそんな口が叩けるな!」「私の言ったことに、何か間違いでも?」「この!」航太は怒りにまかせて、詩乃に殴りかかろうと手を振り上げた。「奥様!」ちょうどお茶菓子を運んできた清水が、その光景を見て、慌てて駆け寄った。急いでお盆を置くと、詩乃の前に立ちはだかった。「どうか落ち着いてください!奥様は妊娠されているんですよ!お腹の赤ちゃんに何かあったら大変です!」その言葉に、咲玖も立ち上がった。航太の腕を引いてソファに座らせた。「落ち着いて。詩乃は妊娠しているのよ。彼女は精神的に不安定なんだから、分かってあげないと」航太はその言葉を聞くと、冷たく鼻を鳴らした。「お
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第1209話

「もし男の子だったら、あなたを実家に連れて帰って、そこで出産させることになるわね。だって、生まれた子は成和の養子にするんだもの。手続きもH市の方が都合がいいでしょ」咲玖は詩乃を見て、微笑んだ。「いや、採血なんてしない!」詩乃は恐怖に顔を歪め、伸ばされた手を避けた。「私の血を勝手に抜かないで!ここは北城よ。そんな好き勝手なことはさせないから!」「ちょっと採血するだけよ。あなたと赤ちゃんを傷つけたりしないから、怖がらないで」咲玖はそう言うと、傍にいたボディーガードに目配せをした。するとボディーガード二人がすぐに前に出た。そして、採血キットを持った医師も近づいてきた。「詩乃様、ほんの少し静脈から血をいただくだけで、ご協力いただければ、すぐに終わりますから」「いやよ!」詩乃は清水の後ろに隠れた。「清水さん、助けて!採血なんてさせないで!」「奥様、ご心配なく。私がお守りします!」清水は両腕を広げて詩乃の前に立ち、迫ってくる人たちを睨みつけた。「勝手な真似は許しません!言っておきますが、旦那様は奥様とお腹の子の安全のために、とっくにこの家中に監視カメラを巡らせていますので、あなたたちが入ってきてからの言動は、すべて録画されていますからね!」その言葉を聞いて、航太と咲玖は顔色を変えた。二人のボディーガードと医師もためらい、航太の方に視線を向けた。そこで医師が探るように尋ねた。「会長、どうなさいますか......」航太が視線を巡らせると、案の定、壁の隅に監視カメラがあるのが見えた。しかし、もし今日このまま引き下がれば、次にこの家に入るのはもう難しくなるだろう。彼にはそれが分かっていた。こちらの意図がバレてしまった以上、もう後には引けない。航太は歯を食いしばり、腹を括った。「少し採血するだけで、何の罪になるというんだ?俺たちは、君の実の親だぞ。採血なんてどうってことないんだから、君に断る権利はない!」航太はそう言うとボディーガードを睨みつけた。「何をぼさっとしている!こいつを押さえつけて採血しろ!」その言葉に、二人のボディーガードが動き出す。一人が力ずくで清水を引き離し、もう一人は、身を翻して二階へ逃げようとした詩乃を捕まえた。「あなたたち、それでも人間のすることですか?うちの奥様は妊婦なんですよ!何てことをするんですか..
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第1210話

「あら、随分と盛り上がってるじゃない」凛とした声が、ドアの方から聞こえた。声のした方にみんなが振り返った瞬間、車のキーが飛んできて、見事にかかりつけ医師の後頭部に命中した。「ゴンッ」という鈍い音。医師は後頭部に痛みを感じ、よろめきながら後ろに倒れ込んだ。するとその手にしていたものも床に落ち、試験管から鮮血が飛び散った。音々が入ってきて、平然と手を叩いた。「ぶっ飛ばされたくなければ、とっとと失せな。私が手を出したら、あなたたちが這いつくばるまでやめないよ」2人のボディーガードは、音々のただならぬ気迫に圧倒された。たった今のキーの一撃だけで、腕に覚えのある者なら、音々が相当な使い手だと一目で分かった。もし本気でやり合ったら、二人がかりでも彼女には敵わないだろう。しかも、外にはボディーガードがもう2人いるはずなのに......「外の二人なら、もう片付けといたよ」音々は鼻で笑った。「その筋肉はお飾りなわけ?二、三発殴ったら、あっさり倒れちゃった。これ、私の名刺。あなたたちも私の道場で鍛え直したら?まとめて来てくれるなら、団体割引をしてあげてもいいわよ!」投げつけられた名刺は、ボディーガードの一人の胸に当たって、床に落ちた。ボディーガードがうつむいて見ると、そこには【中島道場】と書かれていた。航太と咲玖は黙り込んだ。二人は、音々が首を突っ込んでくるとは思ってもみなかった。以前、音々の素性が明かされた時、二人は彼女を我妻家に引き留めようとしたが、音々はそれを頑なに拒んだ。航太は内心、とても残念に思っていた。当時すでに音々は輝と結婚しており、岡崎家も彼女を受け入れていたから、もし音々が我妻家に戻れば、岡崎家との縁戚関係が成立し、航太が当初目論んでいた通りになるはずだった。しかし、音々はとっくに航太の魂胆を見抜いていた。だから、彼女はあの事件を解決した後、関係を断つための書類を手に直接乗り込んで行き、航太と咲玖に署名を迫ったのだ。航太と咲玖はもちろん、音々という娘をそう簡単にあきらめるつもりはなかった。しかし、彼らは音々を甘く見ていたのだ。音々は、航太の若い頃のスキャンダルから会社の財務明細まで、すべて握っていたから、航太はどうすることもできず、妥協するしかなかった。そして、あの時去り際に、音々はそ
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