彼女は指先で髪をかきあげた。波の音に混じって、男の低い声が聞こえた。「今夜、お前の部屋に届ける。その時になれば、分かる」綾はそれ以上聞かずに、振り返って向かい側の駐車場へと歩いて行った。誠也も彼女に続いて振り返り、その姿を目で追った。すらりとした後ろ姿。海風が彼女の長い髪を乱し、スカートの裾を揺らしていた。彼は黙って視線をもどした。......ホテルに戻ると、誠也は電話を受け、車で出かけた。丈は一緒に行かず、星羅と綾の部屋の前まで来て、ノックをした。星羅がドアを開けた。「佐藤先生、何かご用ですか?」「綾さんの具合はどうですか?診ましょうか?」星羅は眉をひそめた。「あなたは外科の先生なんだから、内科は専門外でしょう?」丈は言った。「おじいさんが漢方先生で、私も小さい頃から少し勉強しました。脈診くらいならできます」漢方の脈診。そんなの、絶対駄目に決まってるじゃない。星羅は冷たく断った。「綾のことは私が一番よく分かっています。お構いなく」そう言って、星羅はドアを閉めた。ドアの外で、丈は閉ざされたドアを見つめ、眉をひそめた。星羅の反応は......少し過剰じゃないか?彼は顎に手を当て、考え込んだ。-午後3時になったばかりなのに、綾はひどく眠くて、すぐにまた眠ってしまった。しかし夢の中では、またもや自分の足元に溜まるほど出血が止まらずにいたので、思わず驚愕し飛び起きた。部屋は薄暗く、ベッドサイドの小さな常夜灯だけが点いていた。彼女が目を覚ましたのに気づき、別のベッドでゲームをしていた星羅はスマホを置いた。「起きた?」「うん」綾は額に手を当てると、冷や汗でびっしょりだった。星羅は部屋の電気をつけた。部屋がすぐさま明るくなった。綾が起き上がると、ベッドサイドのスマホが振動した。誰かがメッセージを送ってきた。開いてみると、ウェディングドレスの写真が数枚。誠也と遥の。「何見てるの?」星羅は彼女がスマホを見つめているのを見て、覗き込むと、急に怒り出した。「うわっ、目に毒!なんだこれ!早く消して!胎教に悪い!」綾は言葉に詰まった。星羅はスマホを奪い、すぐに写真を消した。「絶対、遥が送ったんだよ!ホント最低!今、彼女のSNSを見たの!9枚の写真に、【穏
Read more