番組スタッフの対応は迅速で、ものの数分で荒井が琵琶を抱えて戻ってきた。荒井は琵琶を遥の前に差し出し、「桜井先生、頑張ってください!」と声をかけた。目の前の琵琶を見つめる遥は、どうすればいいのか分からず、立ち尽くしていた。綾は遥を見て、かすかに口角を上げた。「桜井先生、みんな期待してるんだから、がっかりさせないでくださいね」その言葉を聞いて、遥は綾の方を向いた。綾は少し微笑み、挑発するように遥を見つめた。わざとやってるんだ。遥は拳を握りしめた。しかし、みんなの前では冷静さを保たなければ。遥は唇を軽く上げて、柔らかな声で言った。「すみません、今日は体調が良くなくて、うまく弾けないと思うので、お恥ずかしいですが......」その言葉を聞いて、みんな少しがっかりした様子だったが、遥の体調が悪いのであれば、無理強いはできない。「桜井先生が体調不良とのことなので、仕方ないですね」と藤木先生が言った。洋平も少し残念そうだったが、理解を示した。「ええ、体調が悪い時はゆっくり休むのが一番です」「ちょっと失礼します」要は手を上げた。みんなが一斉に彼の方を見た。遥も例外ではなかった。白いシャツを着た要は、温厚な雰囲気で、落ち着いた声だった。「実は、私はM市の伝統音楽にとても興味があるのですが、なかなか触れる機会がありませんでした。私の知る限り、M市の伝統音楽の五音音階は古代の五音『宮、商、角、徴、羽』に対応しているそうですね」要は遥を見て、紳士的に尋ねた。「桜井先生、五音音階の指使いについて、教えていただけませんか?」遥は驚いた。M市の伝統音楽の五音音階を習い始めてまだ三日しか経っていない。文子が隣で見守っている時でさえ、間違えてしまうのに、ましてや今......綾は穏やかに微笑んで言った。「桜井先生、五音音階は基本中の基本ではありませんか?北条先生がそんなに興味があるなら、教えてあげたらどうですか?」「私も習いたいんです!」と若美は遥にいたずらっぽくウィンクをした。「ただの五音でしょう?桜井先生に負担をかけるほどのことじゃないですよね?」「私は......」遥はうつむき、考えをめぐらせた。すぐに決心がついた。立ち上がり、「では、お恥ずかしいですが、少しだけ......」と言った。
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