Share

第396話

Author: 栄子
北城に戻ると、綾と要は空港から出てきた。

すると、ちょうど拓馬が要を迎えに来た。

要は綾に尋ねた。「先に送っていこうか?」

「雲水舎に帰る」綾は時間を確認してから言った。「もうすぐ夕食の時間だし、もし時間があれば、安西さんと一緒に雲水舎で食事してから帰らない?」

要は眉を上げた。「さっき電話に出ていたが、優希からか?」

綾は苦笑した。「ええ、あの子は私があなたと一緒にいるって知って、任務を言ってきたのよ。あなたを連れて帰るようにって」

「誰かが待ってくれるというのはいいものだな」要は温かい笑みを浮かべて言った。「それじゃあ、あなたが任務を遂行できるように、彼女のところに報告しに行ってあげよう」

綾は微笑み、三人は車に乗り込んだ。

30分後、拓馬は車を雲水舎の庭に停めた。

車の音を聞いて、優希と安人が駆けつけて来た。

綾は車から降りるとすぐに安人を見かけたので、少し驚いた。

「安人くん、一人で来たの?」

安人は首を横に振り、家の中を指差した。「彩おばさん」

彩が出てきて、綾を見て微笑みながら説明した。「社長がここ数日忙しいので、私も安人くんとずっとホテルの部屋にいるのが退屈でしたので、それで厚かましく安人くんを連れてお邪魔しにきました」

綾は安人の頭を撫でて微笑んだ。「あなたと安人くんが来てくれるのは、いつでも歓迎ですよ」

つまり、克哉が来なければいい、ということだ。

彩は綾と克哉の間に何があったのか知らなかったが、何度か会っているうちに、綾は根に持つような人ではないと分かっていた。

きっと、自分の上司が何か悪いことをしたのだろう。

しかし、自分は雇われている身なので、上司の私生活にあまり関わるべきではない。自分にとってもっとも最優先すべき事は安人の面倒を見ることだ。

安人は綾と優希が好きなので、安人を連れてき、この親子と交流させれば、彼のためにもなるそう彩は思ったのだ。

そして、彩は近づいてきて、要に会釈した。「北条先生」

要は最近、安人の脾臓と胃の調子を整えるのを手伝っていたので、彩とはよく話をしていた。

「安人くんの寝汗は改善しましたか?」

「だいぶ良くなりました!」彩は微笑んだ。「北条先生に教えていただいた方法のおかげで、安人くんはもう布団を蹴飛ばすこともなくなりました。以前はいつもカエルのようにうつ伏せで寝ていま
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第401話

    柚は困った顔で言った。「綾さんは、悠人くんを追い出さない限り、二度と優希ちゃんを連れて帰ってこないと言っているようです」「あの女の子なんて、碓氷家には必要ないから!帰ってこなくていいわよ!」「でも、碓氷さんは悠人くんを一時的に南渓館に帰ってもらうようにするつもりです。悠人くんはとても悲しんでいるのですが、碓氷さんを怒らせたくないから、無理して承諾したんです」「あの子、馬鹿じゃないの?!」遥は、すっかり呆れて言った。「悠人は碓氷家の初孫よ!今の碓氷家には、男の子供は悠人だけなのに、どうして出て行かなきゃならないの?今、二宮は悠人を追い出すだけで済むけど、そのうち海外に追いやられてしまうかもしれないじゃない!もし悠人が海外に送られたら、それはもう追放も同然よ!」遥は、言えば言うほどどんどんヒートアップしていた。「碓氷家ほどの財産がある家系を目の前にして、二宮はきっと悠人を追い出して、それから誠也との間にまた息子を産んで、その子を碓氷家の後継者にしようとしているのよ!」柚は口を押さえ、驚いた様子を見せた。「綾さんがそんなことをしますか?でも、彼女はそんな人じゃないような気がするのですが......」遥は冷たく笑った。「彼女のことどれだけわかるの?」柚は首を振った。「綾さんと話す機会はあまりないのですが、今回帰ってきてから悠人くんへの態度がひどいんです。家にいる間、悠人くんは彼女と話すことさえ怖がっていました。見ていて本当にかわいそうで......」「所詮は義理の母だから」遥は皮肉っぽく言った。「その義理の母が実の母親である私よりも悠人に優しくできると思うなんて、あなたも誠也も考えが甘すぎるのよ!二宮が何だっていうのよ!彼女の息子が死んだのも彼女自身の責任じゃない!疫病神なんだから。自分の両親も息子も不幸になったのよ。待ってなさい、今度子供ができてもきっとまた早死にするだけさ!」柚は、この人のことを陰でこんなにも悪く言う人が、普段は優しくて、心の優しい遥だとは信じられず、ただ唖然とするしかなかった。その恐ろしい表情は、ホラー映画に出てくる怨霊よりも恐ろしかった。こんな女性だから、誠也も見限ったのね。柚は心の中で軽蔑しながらも、顔にはださず、心配した様子でため息をついた。「私も悠人くんを4年間育てました。正直なと

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第400話

    誠也は心が痛んだ。悠人の頭を撫でながら、「綾には少し時間が必要なんだ。君の母さんのせいで、まだ君と向き合えないんだよ」と言った。「分かってる。綾母さんのことは責めないよ」悠人は涙を拭いながら言った。「僕は大丈夫。綾母さんが帰ってきてくれるなら、新しい家に住まなくてもいい」「これは一時的なものだ」誠也は喉仏を上下させながら言った。「悠人、安心しろ。綾母さんは冷たい人じゃない。しばらくすれば、きっと気持ちが変わる。そしたら、また家族みんなで一緒に暮らせる」悠人はとても悲しかった。しかし父親がそう言った以上、素直に従わなければならないことを分かっていた。柚に、父親をがっかりさせてはいけないと言われていたからだ。もう、自分を心底から可愛がってくれる綾を失ってしまったから、これ以上、父親まで失いたくない。悠人は力強く頷いた。「お父さん、心配しないで。僕は良い子にするよ」......柚は信じられない思いだった。誠也は綾を家に連れ戻すために、悠人を家から追い出そうとしているのだろうか?でも、そんなことがあっていいのだろうか?それに、綾はどういうつもりなんだろう?誠也と離婚すると言っていたのでは?なぜ急に、誠也にそんな要求をするのだろうか?もしかして、綾は自分を騙していたのだろうか?柚は諦めきれなかった。やっとの思いで、悠人と誠也の信頼を得たのに、ここで身を引くなんて。綾が本当に戻ってきたら、この家に悠人の居場所はあるのだろうか?誠也が悠人を可愛がっていたとしても、もし綾がまた子供を身ごもり、男の子を産んだら、悠人は見捨てられるかもしれない。ダメだ。悠人にこの家から出て行かせるわけにはいかない。何か良い方法を考えなければ。柚は考えを巡らせ、そして、ふと、ある計画を思いついた。-翌日、柚は悠人を学校に送った後、満月館へ向かった。彼女は行く前から、悠人のことで相談したいとラインで遥に連絡していたのだ。遥は、新しいドラマの主演の座を降ろされてしまった。会社の社長は、彼女の手の怪我を理由に、彼女の役を若美に取って代わらせたのだ。遥は今、伝統楽器に少しトラウマを感じていた。主演を若美に取られたことは少し悔しいが、もう伝統楽器に触れなくていいと思うと、ホッとした。手の怪我もすぐには治らない。

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第399話

    夜8時半、誠也は西園寺館に戻った。悠人は宿題を終えたところだった。車の音を聞き、顔を上げて柚に言った。「お父さんが帰ってきたみたいだね?」「ええ」柚は悠人の頭を撫でて微笑んだ。「下に降りて、お父さんに会いに行こう」「うん!」悠人と柚が1階に降りると、誠也はすでにソファに座っていた。「お父さん!」悠人は誠也の目の前に駆け寄った。眉間を押さえていた誠也は、動作を止め、顔を上げて悠人を見た。そして、軽く口角を上げた。「宿題は終わったのか?」「うん!」悠人は眉をひそめた。「お父さん、どうしたの?仕事で疲れてる?」「大丈夫だ」誠也は隣の場所を軽く叩いた。「少しの間、隣に座っていてくれ」悠人は頷き、誠也の隣に座った。柚が近づいてきて、微笑みながら言った。「碓氷さん、デザートを作ったんだけど、今すぐ持ってきますね。悠人くんと二人で少し食べてから、上に上がって休んだらいかがでしょうか?」誠也は眉間を揉み、軽く返事をした。柚は振り返り、嬉しそうにキッチンへ向かった。「お父さん、綾母さんと優希はいつ家に帰ってくるの?」誠也は悠人を見て、手を伸ばして頭を撫でた。悠人の質問には答えずに尋ねた。「宿題は疲れたか?」「大丈夫だよ。小学生なんてこんなもんでしょ」誠也は悠人を複雑な表情で見つめた。この前、遥のことで誠也は初めて悠人を叱った。しかし、次の日には冷静になり、少し後悔していた。夜、家に帰る時、悠人の機嫌を取るためにプレゼントを買った。ところが、悠人の方から謝った。二度と遥に会わないと約束してきたのだ。悠人の素直さに、誠也はさらに申し訳なく思った。悠人が自ら謝ることができたのは、柚のおかげだと分かっていた。しかし、誠也は悠人が心に不安を抱え、繊細な子供であることも理解していた。特に綾が家を出て行ってからは、柚が一緒にいても、先生は母親には敵わない。悠人は心のどこかで、両親が揃っていた頃の幸せな状態に戻りたいと願っているのだ。しかし、そんな幸せな日々は、もう戻ってこないのだろうか?誠也は目を閉じ、心の中で葛藤した。ぼんやりとした意識の中で、懐かしい声が聞こえてきた気がした――「誠也、遥が妊娠したんだ。ほら、見て。これが超音波の写真。この小さな影が、俺と遥の子供なんだ」「女の子だった

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第398話

    「悠人はまだ子供だ。どこに送れというんだ?」「それは私が心配することではない」綾は他人事のように言った。「綾、たとえ意地を張っているにしても、そんなことを言うべきではない」「息子が死んだのよ。桜井に殺されたのよ。私が意地を張っていると思うの?」誠也は彼女を睨みつけた。綾は冷笑し、「誠也、今までのように道徳感を押しつけたって無駄よ。あなたにはお金が腐るほどあるし、柚先生だって悠人の面倒を見られるでしょ?」と言った。「彼女はただの先生だ。母親同然にはなれないだろう?」「だったら悠人を桜井の元に返して。私の息子は一人だけよ。だけど、その息子はもういない。しかも、あなたが私の意志に反して彼を碓氷家の墓地に埋葬したのよ!誠也、私があなたを恨まずにいられるわけがないでしょ」誠也は一瞬、言葉を失った。綾は悲しみを押し殺し、冷たく言った。「そんな困った顔をしないで。悠人に苦労させたくないなら、私と優希を解放すればいい。そうすれば、あなた達親子は仲良く、気楽に暮らせるだろうし、私が悠人に何かをしでかす心配もしなくて済むから」「綾、本気なのか?」「冗談を言っているように見える?実際のところ柚先生がいるじゃない、悠人には母親が必要なら、彼女はまさに適任よ。彼女と結婚すれば、悠人には母親ができるし、あなたにも都合のいい妻と家政婦ができるだろうから、一石二鳥でしょ」綾は冷ややかに言った。誠也は彼女をじっと見つめた。それを聞いて、輝は口に含んだお茶を吹き出した。要は冷静にティッシュを輝に差し出した。輝はティッシュで口元を拭き、要に寄り添って小声で言った。「綾は本当に頭に血が上っているみたいだな」要は軽く唇をあげた。「彼女は自分が何をやっているかちゃんと分かっているさ」「綾、言ったはずだ。彼女は悠人の先生でしかない」「私は真剣に彼女を推薦しているのよ。とにかく、悠人がいる限り、私と優希は戻らない。どちらか選んで」綾は冷淡な表情で言った。綾に一歩も引く気配がないのを見て、誠也の顔色はますます険しくなった。「綾、悠人はまだ子供だ。自分の生まれは選べない。遥のような母親がいることを、彼自身も望んではいない。子供を責めるべきではない!」「これでも十分大目にみてるつもりなんだけど。じゃなかったら、息子のことを思うと、彼を絞

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第397話

    この探偵は遥と頻繁に連絡を取っているようだ。誠也は遥がおとなしくしている人間ではないことを知っていた。しかし、今は遥に構っている暇はなかった。遥が自分に写真を送りつけてきたのは、綾と自分の仲を裂こうとしているのも分かっていた。こんな浅はかなやり口に構っているべきではないのは分かっている。しかし、あの写真のことを無視できなかった。綾と要が一緒にいるところを想像するだけで、胸の中に言いようのない怒りがこみ上げてきた。そして、ついに我慢できなくなり、清彦に綾の行動を調べさせた。調べてみて初めて分かったのは、この一週間ずっと綾は要と一緒にいたということだ。番組収録は三日間の予定だったが、収録が終わった後も二人は一緒に地方へ行ったらしい。そして北城に戻ってきてからも、綾は要を家に招き入れたのだ。誠也は要を睨みつけた。要は手に持った湯飲みを置いて、誠也を見上げた。「碓氷さん、そんなに見つめて何か言いたいことがあるんですか?」輝は舌打ちをして、要に言った。「彼はあなたに『頭がおかしいのは治るのか?』って聞きたいんだよ」要は一瞬動きを止め、眉を少し上げて誠也を見た。誠也は要に近づき、輝を冷ややかに見やった。誠也は輝の挑発には慣れているから気にも留めなかった。綾にとって輝は弟みたいな存在でしかないことを、よく分かっているからだ。しかし、要は違う。要には底知れない何かを感じていた。その穏やかで無害そうな外見の下に、自分が調べても分からない別の顔を持っているような気がしていた。誠也は要を睨みつけ、冷たく言った。「北条先生、私と綾は離婚しません。だから、彼女に近づかないでください」要は軽く微笑んだ。「碓氷さん、誤解されているようですが、綾とはただの友達です。それに、離婚するかどうかは、碓氷さんだけで決められることではないでしょう?」「綾?」誠也は拳を握りしめた。「誰があなたに彼女をそんな風に呼んでいいっていいました?」要は微笑んだ。「もちろん、彼女本人です」それを聞いて、輝は要をちらりと見た。要は最初から最後まで穏やかで上品な態度を崩さなかった。冷たく威圧的な誠也とは対照的に、彼はいたって穏やかだった。しかし、そのほんわかとした穏やかさがまたじわじわと人を苛立たせるのだろう。輝は唇を結び、誠

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第396話

    北城に戻ると、綾と要は空港から出てきた。すると、ちょうど拓馬が要を迎えに来た。要は綾に尋ねた。「先に送っていこうか?」「雲水舎に帰る」綾は時間を確認してから言った。「もうすぐ夕食の時間だし、もし時間があれば、安西さんと一緒に雲水舎で食事してから帰らない?」要は眉を上げた。「さっき電話に出ていたが、優希からか?」綾は苦笑した。「ええ、あの子は私があなたと一緒にいるって知って、任務を言ってきたのよ。あなたを連れて帰るようにって」「誰かが待ってくれるというのはいいものだな」要は温かい笑みを浮かべて言った。「それじゃあ、あなたが任務を遂行できるように、彼女のところに報告しに行ってあげよう」綾は微笑み、三人は車に乗り込んだ。30分後、拓馬は車を雲水舎の庭に停めた。車の音を聞いて、優希と安人が駆けつけて来た。綾は車から降りるとすぐに安人を見かけたので、少し驚いた。「安人くん、一人で来たの?」安人は首を横に振り、家の中を指差した。「彩おばさん」彩が出てきて、綾を見て微笑みながら説明した。「社長がここ数日忙しいので、私も安人くんとずっとホテルの部屋にいるのが退屈でしたので、それで厚かましく安人くんを連れてお邪魔しにきました」綾は安人の頭を撫でて微笑んだ。「あなたと安人くんが来てくれるのは、いつでも歓迎ですよ」つまり、克哉が来なければいい、ということだ。彩は綾と克哉の間に何があったのか知らなかったが、何度か会っているうちに、綾は根に持つような人ではないと分かっていた。きっと、自分の上司が何か悪いことをしたのだろう。しかし、自分は雇われている身なので、上司の私生活にあまり関わるべきではない。自分にとってもっとも最優先すべき事は安人の面倒を見ることだ。安人は綾と優希が好きなので、安人を連れてき、この親子と交流させれば、彼のためにもなるそう彩は思ったのだ。そして、彩は近づいてきて、要に会釈した。「北条先生」要は最近、安人の脾臓と胃の調子を整えるのを手伝っていたので、彩とはよく話をしていた。「安人くんの寝汗は改善しましたか?」「だいぶ良くなりました!」彩は微笑んだ。「北条先生に教えていただいた方法のおかげで、安人くんはもう布団を蹴飛ばすこともなくなりました。以前はいつもカエルのようにうつ伏せで寝ていま

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status