Semua Bab ロート・ブルーメ~赤ずきんは金色の狼に食される~: Bab 41 - Bab 50

57 Bab

研究者①

 日が高いうちに見ても、やっぱり魔女の家っぽい。  ポツンと建っている叔母さんの家は、昼に見ても黒さが際立っていた。 ピンポーン インターフォンを鳴らしてもしばらくは何の反応もない。  二度目でやっと叔母さんの声がした。『……なぁに……? こんな早くから……』 寝てたんだろうか、声がかすれている。  でも早くからって……。「美玲、美桜を連れてきたぞ? あと、もう昼近い」 『んー? 紅夜? って……美桜!』 やっと覚醒したのか、私の名前を呼んだところで声がハッキリしたものになった。  バタバタと玄関近くに音が聞こえてきて、勢いよくドアが開けられる。  そのドアにぶつからないよう、紅夜がさりげなく引き寄せてくれた。 そんな仕草に不覚にも心臓を跳ねさせたけれど、出てきた叔母さんの姿にギョッとする。  髪はぼさぼさで寝ぐせがひどい。  眼鏡は急いで引っかけてきただけなのか少しずれている。  そして服装が……。「お、叔母さん!? なんて格好で出てきてるの!?」 彼女は、大き目のスウェット一枚を着ているだけだった。  大き目だから胸元が結構開いてて下着が見えかけてるし、年の割に綺麗な美脚も惜しげもなくさらされている。 ちょっ! 紅夜も見てるのに! 焦る私だけれど、叔母さんも紅夜も気にしていないみたいだった。「美玲、またそんな恰好で寝てたのか? そろそろ風邪ひくよ?」 「あー。そう言えば寒くなってきたわね」 え? ええ?  何か慣れてる?「じゃあ美桜置いてくぞ? 俺はちょっと用事あるから」 と、紅夜は私を押しだした。「ちょっと待ちなさい! あなたにも話はあるのよ!?」 私の肩を掴みつつ、叔母さんは逃げるように去って行く紅夜に呼び掛ける。  知り合いだとは思っていたけど、何だか思っていた以上に親しい様子。「……」 なんか、モヤッとする。  叔母さんは年が離れているし、紅夜は私の“彼氏”だし……。  気にすることないのは分かってるんだけど……。 二人って、本当にどんな関係なの? 気になって気になって仕方がない。  だから、家の中に案内されて飲み物を出されると開口一番に聞いてしまった。「叔母さんと紅夜って、どんな関係なの?」 「……」 聞かれた叔母さんは見開いた目をパチクリ。  そして何だか嬉しそうにフ
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研究者②

「それはそうと、そんな風に知りたがるなんて……本当にあなた達付き合ってるのね。二日前に紅夜があなたとそういう関係になったって報告しに来た時は本当に驚いたわ」 「ほ、報告!?」 わざわざ報告にまで来たとか……紅夜は何を考えて……!? 恥ずかしくて非難するようなことを考えてしまったけれど、続く叔母さんの言葉で私のためだと知った。「美桜が自分の部屋に泊まることも多くなるだろうから、姉さんへの口裏合わせを頼むって言われて……複雑な気分だったわ……」 言葉通り複雑そうに目をそらされる。「母親代わりとして紅夜に協力してあげたい気持ちと、可愛い姪っ子を狼に差し出すような気持ちとがあって……。ねえ美桜? 紅夜はちゃんとあなたに優しくしてる?」 「……うん、優しいよ」 「そう……」 私の答えを聞いて、叔母さんは心から安堵したような表情を浮かべた。「紅夜は事情があってこの街から出られないわ。それは私達が原因でもあるから……。美桜が紅夜にとって救いになってくれるなら嬉しいわ」 「私《達》?」 何故か頼られてしまって照れる。  でもそれよりもその言葉が気になった。  紅夜が街から出られない原因が、他の誰かのせいでもあるってどういう事?「私と、あの子の養父になった人よ」 その言葉に、紅夜が言っていた父親だったらいいと思う人というのがその養父のことかもしれないと思った。「その原因とか理由って、まだ教えてはもらえないのかな? 地下の花畑を管理しているからってだけが理由じゃないんでしょう?」 「え?」 いずれは教えてもらえるだろうとは思っているけれど、やっぱり知りたいと思う気持ちは変わらない。  だから聞いたんだけど、叔母さんは明らかに表情を変えた。  驚愕で唇がわなないている。「地下の花畑を……見たの? 紅夜が連れて行ったの?」 「え? う、うん。さっき見せてもらってきたんだけど……」 ダメだったんだろうか? 戸惑っていると、叔母さんが焦りを滲にじませた表情で近付いて来て私の両肩を掴んだ。「ロート・ブルーメを見てきて、あなたは大丈夫だったの!?」 「え?」 「まさかこんなに早く連れて行くなんて……紅夜は何を考えて……」 「お、叔母さん?」 叔母さんの変化についていけない。  大丈夫って、花を見に行っただけなのに……。「ねぇ、どうし
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研究者③

「義兄さんから貰ったって喜んでいたもんね、美桜。……でも、そのシルバーリングも紅夜にとっては同じくらい大切なものだから……持っていてあげて?」 優しいその笑みは、きっと母親のもの。  実の親じゃなくても、多分似たような感情があるんだなって思えた。「確か、父親から貰ったものだって言ってたっけ」 「正確にはね、紅夜の母親がもらったものを私が作り直してもらって紅夜に渡したの。女性もののペンダントだったから、石だけバラして知り合いの宝飾店に頼んでね」 「そうなんだ」 だから見てすぐに紅夜のものだって分かったんだね。「それにしても、紅夜は本当にあなたが好きなのね。独占欲丸出しじゃない」 いつもの調子を取り戻した叔母さんはそう言って笑う。  身内に言われるとムズムズして恥ずかしい。「やっぱり、そう見える……?」 それでも確認したのは、その独占欲がちょっと嬉しかったからで……。  周りから見てもそう見えるのか知りたかったから。「見えるわね。でもあなたもそれでいいって思ってるなら問題ないでしょう?」 「う……」 バレバレだった。「でも本当に良かった。もしかしたら紅夜狼に無理やり食べられちゃったのかもって可能性もあったから」 冗談めかして言う叔母さんに、私も笑う。「フフッ……紅夜ね、私を赤ずきんに見立ててたのよ?」 「赤ずきん? 童話の?」 「そう。私が赤ずきんで、紅夜が狼」 「……ってことは私はおばあさん? それはちょっと抗議させてもらいたいところね」 ムッとする叔母さんにまた少し笑ってしまう。  確かにおばあさんと言うにはまだまだ若々しい。「あとは……じゃあ猟師は誰になるのかしら?」 キャラクターに当てはめようとする叔母さんは当然のようにそう言った。  そんな彼女に私は微笑んで伝える。「猟師は、いないよ」 「え?」 「赤ずきんは狼に食べられておしまい。元になった言い伝えと同じくね」 私の言葉に、叔母さんは幾分真剣な眼差しになる。「……助けはいらないってこと?」 「うん」 静かに、でもハッキリ言った私に叔母さんは「はあぁ」と大きくため息をつく。「……巻き込みたくは、なかったんだけどな……」 意味深な呟き。  でも、顔を上げたときには何かの覚悟を決めていた。「赤ずきんのおばあさん
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養父①

 街の出入り口まで送ってくれた紅夜はどんな問題が起こったのかちゃんと話してくれた。  もしかしたら理由も知らされずに帰されてしまうのかと思っていたので、それは良かったと思う。「三日前、美桜達を襲った男がいるだろう?」 「うん。確か会合でその中の一人が逃げたって……」 「ああ、よく覚えてたな」 「そりゃあ……」 ただでさえ私は忘れることはあまりないし、あの時のことは紅夜が本気で怒ったことでもあったから記憶は鮮明だ。  ましてつい昨日のこと。忘れるわけがない。「しかもよりにもよってリーダー格の奴が逃げたらしくてな。まだ街のどこかに潜伏してるみたいなんだ。美桜が人質に取られたらたまらないから、今日は帰ってくれ」 私の手を引きながらそう説明してくれた。「そっか、分かった。……ちゃんと話してくれてありがとうね、紅夜」 お礼を言って、了承する。  ちゃんとした理由が分かっていれば、不満はない。  でも紅夜は不満があったみたいだ。  出入口近くになって足を止めると、明らかな不満顔で見下ろされる。「……今晩だって、本当は離す気なかったってのに」 その言葉は私の予想通りで、嬉しく思う反面体力が持たないとすぐに判断する。  きっとその通りになったら、早々に白旗を振りたくなっただろう。 そう思った。「今日は我慢して? 私はもう紅夜の彼女なんだし、連絡先も交換したでしょ? ……電話、いつでもして良いんだよね?」 「ああ、俺は学校とか縛られてるものはないからな。地下に行ってるとき以外は大体つながるから」 「良かった……」 一昨日は連絡先の交換もしていなかったし、悶々と過ごすことになった。  次に会えるのは一週間後だろうけれど、前みたいに焦がれて会いたくてと気をもむようなことにはならなそう。  少なくとも、声は聞けるから。 今思えば、前回は散々な別れ方だったと思う。  お互い会いたいと思っているのに連絡先すら交換していないし、紅夜は賭けをしようなんて言い出すし……。  しまいには、悪いオトコに掴まった自覚あるのか? なんて聞いて来るし……。「美桜?」 少し考え込んでしまった私に、紅夜は呼び掛ける。「……紅夜は、どうして賭けなんて言い出したの?」 少しだけ迷ったけれど、疑問を口にしてみた。  多分、今なら答えてくれるんじゃないかと
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養父②

 名残惜しかったけど、その日は紅夜と別れてそのまま家に帰った。  寂しい気持ちはあったけれど、夜には紅夜の方から電話をくれた。  お互いに会いたいね、と話しながらおやすみの挨拶をする。 通話を切ると、途端にまたさみしさが忍び寄って来た。  全く、これじゃあどっちが溺れているんだか……。 自嘲しながら、右手のシルバーリングを見つめる。  お父さんには悪いけど、交換しなくて良かったかもしれない。  このシルバーリングが、紅夜とのつながりを目に見えて教えてくれるから。 私が紅夜の彼女なんだって証。  そっと口づけて、私は眠りに落ちて行った……。*** 休みも開けると、本来の日常が戻って来る。 紅夜と出会ってまだ一週間も経っていないというのに、私の心はあの街に置いて来てしまったんだろうか?  普段通りに過ごせていると思うけれど、心ここにあらずといった気分。 その乖離を戻してくれたのは、やっぱり事情を知る日葵だった。「美桜、今日は放課後予定ある? ちょっとカラオケにでも行かない?」 「え? ……予定は特にないけど……」 それでも遊ぶ気分にはなれなくて断ろうとすると、日葵は自分の右手の薬指を指差す。「ちょっと、話したいこともあるしさ」 その仕草でハッと気づく。  今は学校だからシルバーリングはつけていない。  でも持ち歩いてはいるし、紅夜に言われた通り学校が終わるとすぐにつけるようにしていた。 きっと日葵は私が学校を終えてからつけるのを見ていたんだろう。  そうだ、紅夜のこととか話さないと。 私自身も日葵に話すことがあることを思い出し、「うん、分かった」と返事をする。 でも、話を聞いていたらしいクラスメートが「なになに?」と入ってきた。「カラオケ行くの? イイね! みんなで行かない?」 本人は悪気はなかったんだろう。  ただ、いつも通りみんなで楽しく遊ぼうと思っただけ。  それと、私達が話をしようって言ったところを聞いていなかっただけ。 だから普段通り楽しそうにみんなに声を掛けようとする。「あ、あのね……」 日葵が眉尻を下げて困った顔で話しかけようとした。  でも楽しそうなクラスメートに気が引けるのか、ハッキリ言えないみたい。 だから――。「ごめんね、今日は日葵とちょっと大事な話があるんだ」 私が、そう口
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養父③

「え? そうだったの? そっか、それで愁一兄さんあんなに強く来るなって言ってたんだ」 身内だからという理由かもしれないけれど、大切に思われてるのは事実だ。  その事実に、日葵の口元がほころんだ。 良かった。  日葵がこれだけ想ってる相手だもん。  うまくいって欲しいなって私も思う。「そっか。じゃあ、今はもう一つの心配事に集中しないとね」 気持ちを切り替えてそんなことを言う日葵に首を傾げる。  まだ何かあるんだろうか。「心配事?」 聞くと、軽く目を見張った日葵に聞き返される。「まさか美桜、忘れてないよね?」 そう聞くってことは私にも関係あることみたいだ。 何かあったかな……? ピンと来ていない私に、日葵は呆れた眼差しを向けた。「……期末テスト。そろそろ一週間切るよ?」 「……」 きまつ、てすと……。 私の頭の中に無かった単語に、数秒固まってしまう。  つまり、すっかり忘れていた。「……ヤバイ、忘れてた」 いや、正確には覚えていたけどそれどころじゃなかったから。「美桜、他は大丈夫だけど数学は散々だもんね」 日葵の言う通りだった。 記憶力が良い私は、ほとんどの教科は大体高得点を取れる。  でも、数学だけはそうはいかない。 公式はしっかり覚えていても、どの問題に当てはまめるかなどが出来なくて意味がない。  複雑な計算になると、その時点でこんがらかってくる。 結局のところ、私が得意なのは記憶力だけなんだ。 どうしよう。  今からなら間に合うかな? 事前に勉強しておかないと赤点もあり得るくらいだから、ちょっと本気でまずい。「一週間あるなら……多分大丈夫……」 自分に言い聞かせるように呟く。  日葵が言ってくれて良かった。  じゃなかったら本当にギリギリになってから思い出してただろうから。「じゃあこの土日は勉強会でもする?」 でも、その日葵の提案には頷けなかった。「あ、ごめん。多分土日は黎華街に行くから……」 「え? でも今は危険なんでしょ?」 「うん、でも週末までには何らかのカタをつけるって言ってたから、行く予定にしておいた方が良いかなと思って」 「……テスト勉強より男か」 「うっ」 そのまんまなので言い返しようがない。「あーいいなぁ。私も会いたい……」 そう寂しそうに呟く日葵が私と重な
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養父④

 翌朝、学校に行くとすぐに愁一さんに会えるよと日葵に教えた。  買い出しも、二人で行ってちょっとしたデートをして来ると良いよ、とも。「いいの? 本当に? ありがとう美桜!!」 よっぽど嬉しかったのか、日葵はその勢いのまま私に抱き着いてきた。  喜ぶ彼女に、私も良かったと嬉しくなる。  そうして二人そろって浮かれた放課後。「おう、来たか」 黎華街の出入り口の辺りに、黒いロングコートを着た愁一さんが待っていた。  そんな姿がスタイリッシュで、ただでさえイケメンなのに大人のカッコよさを感じる。  そういうところだけが理由じゃないだろうけど、日葵が好きになるの分かる気がするなぁと思った。「って、日葵も来たのか?」 紅夜は日葵のことは何も言ってなかったんだろう。  日葵を見た愁一さんは本気で驚いていた。「はい、二人に買い出しお願いしたいんです」 「……」 お願いすると、軽く目を細められる。 謀ったな? そんな言葉が聞えた気がした。  別に謀るなんてほどのことはしてないんだけど、愁一さんにとっては似たようなものだったのかもしれない。 でも、そんな態度の愁一さんに日葵が当惑する。「あ、ごめんね愁一兄さん。私が会いたいって言ってたから美桜が一緒に買い出し行って来ればいいよって言ってくれて……嫌だったかな?」 自分が嫌がられているんだろうって思っちゃったのか、日葵は目に見えてションボリと落ち込む。  そんな日葵を見て、愁一さんは諦めたように軽く息を吐いた。  困り笑顔を浮かべているので、少なくとも日葵が嫌がられている様には見えない。「違ぇよ。何も伝えられずに仕組まれた感じが嫌なだけだ」 そう言って日葵の頭にその大きな手をポンと乗せる。  それだけで日葵の表情が恋する乙女のものへと変わった。「で? 何を買って来ればいいんだ? あんたはどうする?」 私に向き直った愁一さんが聞いてきたので、私はここで待っていることを伝えた。「買ってきて欲しいものはメモを日葵に渡してるので」 「分かった。ちゃんと待ってろよ? 一人で黎華街に入ったら俺が紅夜に半殺しにされる」 冗談っぽく言うので「分かってます」と笑って返したけれど……冗談だよね? 二人を見送って、どうやって時間を潰そうかと考える。  とりあえずすぐ近くのコンビニで飲み物を買っ
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養父⑤

 私達はそのまま隆志さんの車の近くまで行って、ガードレールに寄りかかるように立った。  話したいと言うんだからすぐに何か聞かれると思ったのに、隆志さんはまた黎華街の出入り口を見つめ始める。  その感情の読み取りづらい目に、少しだけ懐かしいものを見るようなものが宿ったように見えた。「……隆志さんは、どうしてここでただ街を見ているんですか?」 彼からの質問がないので、私から聞いてみることにする。  前も煙草を吸いながら街を見ているだけだったから。「え? ああ……あの街の主な権限はもうとっくに紅夜に渡したからね。元の権力者がそうそう中に入るわけにもいかない」 黎華街の権限……。  そう言えば、叔母さんはこの人が黎華街を買い取ったと言っていたっけ。「それでも、“私”がこの街を見捨てたわけじゃないことを示す必要があってね。念のため、時間のある時にこうして街を見張るようにしているんだ」 示す?  誰に? 慎重に聞かなきゃならないことだと思って、すぐには口に出来なかった。  そうしていると、今度は逆に質問をされる。「その花のリボンは、紅夜から貰ったものなんだよね?」 「え? あ、はい」 黎華街に行くときには必ずつける赤いリボン。  紅夜の女である証の花の部分に触れながら答えた。「それはね、私が紅夜に渡したんだ。紅夜にとっての太陽を見つけたら、渡すといいと言って」 「そう、なんですか?」 特にその辺りを疑問に思ったことはなかったけれど、渡すのならどちらかと言うと叔母さんの方かと思ったから普通に驚いた。「ああ……。私にとっての紅夜の母がそうだったように、紅夜にもそんな相手が見つかると良いと思って……」 「……」 つまり、隆志さんは紅夜のお母さんのことが好きだったんだ……。「……でも、まさかそのシルバーリングも渡してるとは思わなかったな」 と、私の右手を見ながら複雑そうな笑みを浮かべる。「……確かこれは紅夜のお父さんのものだって……」 「らしいね」 幾分素っ気ない様子で隆志さんは答えた。「私だってお互いの誕生石を使ったネックレスを贈ったのに……。あれはどこにやってしまったんだろうね。紅夜の父だと名乗り出もしない男から貰ったものは息子に渡すほど大事にしているみたいなのに」 「……」 なんだかすねているみたいだった。  正直
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束の間の……①

 その後は特に会話することも出来ず、タイムリミットになった。  日葵と愁一さんが買い出しを終えて戻ってきたから。「美桜、お待たせ」 「あ……。ううん、買い出しありがとう」 「いや、っていうかこの人は……」 愁一さんが隆志さんに気づく。  いぶかし気な――と言うよりは、何かを思い出そうとしている表情で見つめている。「ああ、愁一くんだね。久しぶり。いつも紅夜が世話になっている」 二人は会ったことがあるみたいだ。  でも、愁一さんの様子を見ると数えるほどって程度みたいだけど。「っあ、隆志さん。すみません、すぐに思い出せなくて」 「いや、年に一度少し会う程度だ。忘れても仕方ないよ」 謝る愁一さんを隆志さんは笑顔で許す。  でも年に一度って、紅夜と会うより多いんだね。  なんとなく、非難したい気持ちになった。「じゃあ私はそろそろ行かなくては。君……たしか美桜さんだったね。ありがとう、話せて良かった」 「……はい」 「また会ったら今度は君や紅夜のことを教えてくれ。それじゃあ」 「っ! ……はい、またいつか」 私が教えるより、紅夜に会いに行ってあげて。  そう口に出してしまいそうなのを呑み込んで、さようならの挨拶をする。 そうして車に乗り込んだ隆志さんを見送ると、愁一さんがふぅ……と息を吐いた。「まさか今日来てたとはな」 明らかに緊張していたという様子。  あんな優しそうなのに、そこまで緊張するような人だろうか?「紅夜の養父なんですよね? あの人。そんなに怖い人なんですか?」 優しい顔と怖い顔を持つ紅夜と同じように、隆志さんも怖い部分があるのかもしれないと思いなおして聞いてみる。「いや、怖いというかな……。まあ、ある意味怖いが……」 要領を得ない言い方に首を傾げる。「あの人自身は優しい人だよ。でもな、経済界でもかなりの地位があって……怒らせたら何をされるか分からないってところが怖いかな」 「ああ……」 なんとなくは分かった。  街を一つ買い取ったくらいだからかなりのお金持ちだろうとは思っていたけれど、私の想像を超えるほどの人だったらしい。「でもそんな人と年に一度は会ってるんでしょう? 愁一兄さんって何かすごいね」 会話に混ざりたくて仕方なかったんだろう。  今まで黙っていた日葵がここぞとばかりに話しかけてきた
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束の間の……②

 街の中に入ると、会いたかった人が迎えに来てくれていた。  日もすっかり落ちて、遠くの空がかすかに赤紫色をしている時間だからかフードはかぶっていない。 街の灯りに照らされた金の髪がいつかのようにキラキラと輝いていた。  でも、その表情にはその時のような冷たさは感じられない。  私に向けられる目はどこまでも甘く優しかった。「紅夜!」 思わず駆け寄る私を紅夜は両腕を広げて受け入れてくれる。「美桜っ」 人目もはばからず、抱き締め合って互いの存在を確かめた。  今回は電話は出来て声は聞けたけれど、その分ぬくもりが恋しくて寂しかった。  それに何より、一週間が長すぎた。  だから、そのまま唇を落としてくる紅夜を受け入れる。  人目があることも忘れて目を閉じた。 それを思い出したのは、「美桜、大胆……」という日葵の呟きを耳が拾ってからだ。  丁度唇が離れた瞬間で、紅夜のキレイな青い瞳に自分の顔が映っている事が急に恥ずかしくなった。「あ……あわわっ」 「ック、美桜はホント可愛いな」 それに比べて、と紅夜は日葵の方を睨む。「あんた、邪魔すんなよ」 「ひっ!」 紅夜にとっては軽く睨んだだけのつもりだっただろう。  でも、トラウマになっていそうな日葵には鬼の形相に見えたのかもしれない。  明らかに怯えていた。 でも、すかさず愁一さんが日葵をかばう様に前に出た。「紅夜、お前俺の大事な女怯えさせんなよ。それにほら、さっさと食材受け取れ。イチャつくのは部屋でしろ」 愁一さんの言葉に、私は軽く目を見開いた。  今、日葵のことを大事な女って言った?  身内としてって意味かも知れないけれど……でも、ただの身内に使う言葉じゃないよね? 愁一さんの陰になっていて見えないけれど、きっと日葵は嬉しそうな顔をしていると思う。  これは後で話を聞かせてもらわないとね。 なんてちょっとドキドキしていると、紅夜は私から離れる
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