「ああん? いってぇなぁ?」 かたわらに露出の激しい服を着た美女をはべらせている男の人が唸るように私を見下ろした。「ケガでもしたらどうしてくれんだよ?」 明らかに倒れてしまった私の方が被害があるだろうに、そんなことがあり得ないとでも言うように被害者のセリフを口にする男。「す、すみません!」 痛いのは明らかに私だったけれど、ぶつかったのも私の方だ。 それに、下手に反論してこれ以上怒りを買うわけにはいかない。 大人しくしているのが一番良いはずだ。 でも、この黎華街に住むガラの悪い連中はそうやってやり過ごそうとする人間にも容赦はしない。「あら? この子街の外から来た子じゃない?」 男にしなだれかかっている美女が面白そうに言った。「こんな時間までこの街にいるなんて、襲われたいのかしら?」 クスクスと優美に笑う女性は、ただただ面白そうな目をしている。 嘲笑うとか、馬鹿にしているとかでもない。 ただ、楽し気なんだ……。「へえそうかい。じゃあ期待に応えてやらねぇとなぁ?」 そう言って男と美女に付き従っている二人の男性が私に近付いてくる。 マズイ! 謝ってないで逃げるべきだった!? 判断を間違えた。 そう思ったときには腕を掴まれ引き上げられていた。「こっちに来いよ。可愛がってやるからさ」 「ちがっ! やだ!」 男たちが出てきた路地裏に引き込まれそうになって抵抗するも、引きずられてしまう。 そんなとき――。「その子に触らないでくれるかなぁ?」 頭上から、つい一時間ほど前に聞いたばかりの透き通るような声が聞こえた。 男達も私もそろって声の方を見上げる。 すぐ近くの建物の屋根の上に、彼はいた。 ネオンの明かりが金糸の髪に当たり、さっきよりもなおキラキラと輝いている。 私達を見下ろすその顔には酷薄(こくはく)な笑みが浮かべられていた。「っ! あんたはっ――」 「総長なんて言ったら殺すよ?」 表情は笑顔のまま。 先回りして発された言葉は不穏しかない。 まるで世間話でもするかのような気軽さでその言葉を使う紅夜さん。 屋根から身軽に飛び降りてきて、私の掴まれている腕を掴んだ。「なあ、触らないでくれるかって言ったんだけど?」 「え? あ」 男は怯み、慌てて私から手
Last Updated : 2025-05-13 Read more