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幕間 第135話 軍神、若人たちを教育す

Auteur: 輪廻
last update Dernière mise à jour: 2025-09-14 11:00:07

翌日──

キリエはエコーと共に、屋敷の庭で午後のティータイムと洒落込んでいた。視線の先では、槍を構えたエリゴールと剣を構えたシェイドが対峙しており、両者ともに凄まじい威圧感を放っている。

エリゴールが未来視し、セラフィナはそう遠くないうちに必ずや黄泉路より帰還すると言ってくれたお陰で、幾分か気は楽になり、屋敷内に立ち込めていた陰鬱とした空気は払拭されつつある。ナベリウスやエコーも再び笑顔を見せるようになり、キリエもまた笑顔を取り戻していた。

「──さぁ、お手並み拝見と行こうか。何処からでも掛かって来ると良い」

「──目に物見せてやるよ。お望み通り、な」

物騒なことを言っているが──何のことはない、単なる実戦形式の稽古である。エリゴールが死天衆に次ぐ地位にある実力者にして槍の名手であることは、ハルモニア国民の多くが周知している事実。それ故、貪欲に更なる強さを求めるシェイドは、彼に稽古を申し込んだようである。

一気に間合いを詰める両者から目を離し、キリエはガーデンテーブルの上に置かれた手紙を手に取る。それは、墓標都市エリュシオンの統治者アイネイアスと、その秘書官アリアドネから送られてきた近況報告であった。

今も尚、復興の只中にあるエリュシオン。家を焼け出された者たちのために炊き出しや寝床の提供を、アイネイアスを始めとする貴族たちが率先して行っているらしい。帝都アルカディアからも、ハルモニア皇帝ゼノンの名義で日々大量の物資と支援金が運び込まれており、少しずつではあるが着実に復興の道を歩んでいる……手紙には、そう書かれていた。

セラフィナが死に瀕していることは、既にアイネイアスやアリアドネの耳にも入っているようで、彼女の一日も早い回復と、キリエたちの心身を案じる文章で、手紙は締め括られていた。アイネイアスたちも頑張っているのだ、自分たちも頑張らねば──そう、気を引き締めさせられる。

「──良きお顔を、していらっしゃいますね」

紅茶を優雅な所作で口に含みつつ、エコーはキリエを見てにこっと笑う。

「はい──墓標都市エリュシオンの長たるアイネイアス
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