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第五章 第145話 一切の希望を捨てよ

مؤلف: 輪廻
last update آخر تحديث: 2025-09-26 11:00:02

涙の王国、巨大要塞パルマノーヴァ──

要塞内部では王女サロメの秘術により、聖教会の土地から逃げてきた信者たちの背を食い破り、蝿の王ベルゼブブが続々と羽化している。

要塞内部へと帰還した聖ゲオルギウスは、偶然その場に居合わせた赤い靴の少女カレンに、主君たるアザゼルの居場所を問うた。

「カレン──陛下は何処に?」

自分と同じ目線まで腰を落とし、穏やかな声音で尋ねてくる聖ゲオルギウスの手を握ると、カレンは鼻歌交じりに彼を要塞の奥へと誘った。サロメに香水でも付けて貰ったのか、彼女が身動きする度に、髪や衣服から仄かに甘い匂いが漂った。

「こっちだよ──私が案内してあげるね」

軽やかにステップを刻みながら、カレンは聖ゲオルギウスの手を引いて奥へ奥へと進んでゆく。静寂が支配する要塞内に、カレンの履いている赤いパンプスの踵の音と、聖ゲオルギウスの軍靴の音のみが響く。

「──何時も思うが、ここは途轍もなく広いな。私がまだ人間として生きていた頃は、斯様な巨大な建造物など何処にも見当たらなかった」

「ねー、迷子になっちゃうよねぇ。ゲオルギウス、何時も迷子になってるもんね?」

「ふっ……そうだな。カレンが居てくれなかったら、私はずっと迷子のままかもしれんな」

自分の方が先に人ならざる者として蘇生しているためか、カレンは聖ゲオルギウスに対し、まるで姉のような態度で接してくる。聖ゲオルギウスもまた、そんなカレンを微笑ましく思っており、彼女が背伸びして姉のように振る舞う度、それを見て温かな気持ちになった。

聖教会からは聖者に認定されてはいるが、彼が聖者認定されたのは、実は処刑された後のことである。彼が人間として生きていたのは、まだ聖教の教えが今のように統一されていない時代……当時主流の教えを信仰する者たちによって彼は異端認定され、若くして処刑されるという凄惨な末路を辿っていた。

それ故に、彼は聖教と信仰対象たる天空の神ソルを激しく憎悪しながら死んだ。蘇生して直ぐ、アザゼルに忠節を尽くすことを誓ったのもそれが理由だった。

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