数日の時が過ぎた。それは癒しというにはあまりに短く、忘却にはあまりに長い時間だった。屋敷の空気にはまだあの夜の影が沈殿していた。廊下を渡る兵たちの靴音は硬く、窓辺に差す光もどこか冷たく感じられる。布に染み付いた血の痕跡は既に片付けられていたが、人の心に残る記憶は容易に拭えなかった。兵士たちの視線にも、常に緊張と痛みの色が混じる。その空虚を抱えたまま、リリウスは庭へと足を運んでいた。足取りはまだ覚束なく、体も軽いめまいに揺れていたが、それでも外へ出ずにはいられなかった。どうしても確かめたいものがあった。柘榴の若木がそこに立っている。あの夜、血と狂気の中でも風に揺れ、葉音を奏で続けていた若木。変わらずにそこにある姿は、残酷なほどに健やかで、それでいて慰めでもあった。小さな水差しを手に、リリウスは枝先へ静かに滴を落とした。水は土に吸い込まれ、わずかな湿り気が根元を潤す。葉は陽を受けて微かに光り、幹はまだ細いながらも確かに大地に根を張っていた。その姿を見つめるたび、胸の奥がずきりと疼く。「……この子は、戻らない」誰に告げるでもない独白。声にしなければ心が崩れそうで、言葉にしてようやく自分の痛みを受け止められるような気がした。「でも……未来は、ある。今日だって、こうして来た……」震える声で、腹にそっと手を置く。そこにもう命はない。それでも温もりの記憶は確かに残っている。夢の中で笑っていた幼子の声が、まだ耳に残っていた。そのとき、背後で気配がした。振り向けば、カイルが立っていた。陽光を背に受けて立つその影は大きく、揺るぎない壁のようだった。「リリウス」低く、確かに呼ぶ声。リリウスは小さく笑おうとしたが、唇が震え、声は出なかった。「僕は弱いね……守れなかった。夢で、あの子にまた会おうって言われたのに、それでも……」言葉は途切れ途切れに掠れ、喉が詰まる。けれどカイルは歩み寄り、迷わずその肩に手を置いた。「弱くなんかない」短く、鋭く。その目には烈しい決意が宿っていた。「弱かったのは俺だ、リリウス。これからは絶対に……何があろうと、俺が守る」その言葉は刃のように真っ直ぐでいて、同時に焚火のような温かさを持っていた。胸の奥にほんの少し、光が差す。涙が溢れそうになったが、リリウスは必死に堪えた。柘榴の枝が風に揺れ、日差しを散
Last Updated : 2025-09-14 Read more