だが、伶はそうは思っていないかもしれない。なにしろ、あの赤いドレスの女は確かに艶やかで魅力的だった。女の自分でさえ、見た瞬間に目を奪われるほどだった。一つの視線だけで、全身に電流が走るような感覚を与える。そんな女、どんな男が好きにならないはずがない。もしかしたら、伶はすでにこっそり会っているかもしれない。伶は背筋をまっすぐに伸ばし、悠良が包帯を巻き終えたのに気づくと、横に置いていた服を手に取り着始めた。「別に、君のことを嫌いとは言ってないけど」悠良は彼の突拍子もない冗談にはもう慣れていて、気にも留めずに軽く言い返した。「寒河江さんに嫌われるほど落ちぶれていませんから」伶はくっきりした指でスーツの最後のボタンを留め、低い声で言った。「どうだろうな」悠良の頭の中は、どうすれば早くご飯を作って、機嫌の良いうちに自分のお願いを切り出せるかでいっぱいだった。服の裾を叩いて立ち上がると、「冷蔵庫に食材ありますか?」と聞いた。「あるよ」自分では料理しないが、掃除に来る家政婦が毎日食材を買って冷蔵庫に補充しているのだ。伶には「食べないけど、買い揃えておきたい」という癖があり、冷蔵庫がぎっしりしているのを見るのが好きだった。悠良が冷蔵庫を開けると、案の定、食材でびっしりだった。彼女は何種類か選び、キッチンへと入って調理を始めた。伶はエプロン姿で忙しそうに動く悠良の後ろ姿を見ながら、突然スマホを取り出してその背中を撮影し、友人たちとのグループチャットに送った。そのグループには気の合う数人しかいない。鷲澤千里(わしざわ せんり)がすぐに驚きのスタンプを送ってきた。【ちょ、待ってよ。この子誰?なんか見覚えあるんだけど】陽川琥太郎(ようかわ こたろう)も同じく驚きのスタンプをつけて。【うそだろ?伶さんが送ってきたのか?女の子の写真を?ありえん、奇跡じゃん】名嘉真柊哉(なかま しゅうや)も感嘆符を何個も連打。【思い出した!!!この人は、あの人だ!!】琥太郎【まともに話せ】柊哉【まだ分かんないのか?】琥太郎【知ってんの?】千里も同調【言われてみれば、誰かに似てる気がするんだよな。でも思い出せない】柊哉がしばらく考え込んだ後、急いでタイプした。【思い出した!この子って
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