光紀は車のドアを閉め、書類を持ってマンションに入った。書類を伶のデスクに差し出しながら言う。「寒河江社長、こちらはご依頼の原稿です。明日には投稿できます」伶はそれを数ページめくり、軽くうなずいた。「今夜の十二時を過ぎたら投稿してくれ」それは莉子との記事で、小林家と寒河江家の関係を取り持つような内容だった。双方が接触しているが、関係を明言しているわけではない。こうすることで、悠良への疑いを完全に晴らすことができる。光紀は軽くうなずいた。「では、先に失礼します。小林さんが外で待っています」「ああ」光紀はマンションを出ながら首をかしげる。寒河江社長が本当に小林さんに好意を持っているなら、正直に伝えればいいのに。どうしてこんな裏方の手間までかけるのか。わざわざ書類を届ける名目で彼女を迎えに行かせるなんて。寒河江社長は口には出さないが、長年そばに仕えていればわかる。あの書類には電子版もあるのに、それを送るだけで済むところを、わざわざ自分を走らせた。気持ちは明らかだった。外に出た光紀は、悠良に軽く会釈する。「お待たせしてすみません。行きましょう」「ええ」悠良は胸をなで下ろした。光紀に会えたおかげで、帰る方法も見つかった。車に乗ると、光紀はペットボトルの水を差し出した。「どうぞ」悠良は先ほどケーキを食べたせいで口の中が甘ったるかった。伶の家では遠慮して言い出せなかったが、差し出された水はまさに恵みの雨のようだった。手を伸ばして受け取る。「ありがとうございます」キャップをひねって二口ほど飲むと、乾いていた喉がようやく潤った。光紀は彼女を市街地まで送り、スターライト広場には既に葉が待っていた。悠良は車を降り、光紀に礼を言う。「村雨さん、今日は本当にありがとうございました」「いえいえ、お気になさらず」冗談じゃない。彼女を無事に送り届けなければ、何かあったとき寒河江社長が黙っているはずがない。光紀を見送り、悠良は葉の方へ向き直った。葉はLINEで少し聞いただけで、詳しい事情は知らない。悠良は笑顔で駆け寄り、自然に彼女の腕に手を絡めた。「行こう。葉の新しい家を見せてあげる」「え、ほんと?本当に家を私に貸してくれるの?しかもあんな安い
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