彼女は再び伶の背中の包帯を外し、傷の手当てをやり直した。悠良はしゃがんだ拍子に、うっかり犬のおやつのビスケットを踏んでしまったことに気付かない。犬はそれを前足で何度か弄ったが、うまく取れず、悠良は伶の傷の処置に集中していて犬の動きには気付かなかった。薬を塗ろうとしたその瞬間、背後から突然強い力で押され、悠良の体は勢いよく前に倒れ込む。人は倒れる瞬間、無意識に支えを求める。だが悠良の手が伸びた先は、なぜか伶の脚──結果、彼女の体はそのまま彼の背にぴたりと重なった。伶は微動だにせず、ただ視線だけを横に流す。「薬を塗るだけなのに、抱きついてくるとは予想外だ」悠良の頬が一気に真っ赤になり、頭が真っ白になる。数秒後、慌てて弁解した。「わ、私じゃないです、この子です!さっきこの子が私を押したんです!」伶は無意識に犬の方へ視線を向けたが、部屋のどこにも犬の姿はない。彼は悠良に眉を上げて見せる。悠良は思わず眉をひそめた。逃げ足、早っ。証拠はもうなく、自分の言葉だけが頼りだ。「ほんとにわざとじゃないです!そもそも、わざわざ抱きつく理由なんてありません!」伶は当然のように問い返す。「抱きつくのに理由が要るのか?」悠良は一瞬、言葉を失った。この男と話すのは、本当に疲れる。伶という人間は、人の説明など聞こうとしない。彼の中では、これは彼女が近付こうとするための策略──それで決定してしまうのだ。悠良はため息をつき、もう諦める。「信じるか信じないか、好きにしてください」伶の喉から、低く掠れた笑いが漏れる。落ち着いた響きの中に、不思議な色気が滲む。「じゃあ......なんで俺のここに手があるんだ?」その言葉で悠良はようやく気付く。自分の手が、無意識に彼の太腿のあたりに置かれていたことに。しかも場所が場所だけに、余計に気まずい。悠良は火が付いたように手を引っ込め、白い耳たぶが真っ赤に染まり、体温が一気に上がった。もう言い訳もできず、黙々と傷の処置を続けるしかない。処置が終わる頃には、悠良は息が上がり、まるで重労働をした後のように唇を半開きにして小さく呼吸していた。伶はその微かな息遣いを聞き、口を開く。「おい、悠良ちゃん、ちょっと控えろ」悠良は拳を握り、
Read more