悠良は、史弥に揺さぶられるまま、唇の端を冷ややかに吊り上げた。声色は驚くほど平坦で、感情の起伏など微塵も感じられない。「じゃあ、教えてよ。史弥はいったい、どんな人間なの?」七年間も共に過ごした男。日常では細やかに気遣ってくれ、命さえ投げ出す覚悟があるかのように見えた男。でも、それすらも偽りだったのかもしれない。彼女はもう訊こうとすら思わなかった。あの日、何があったのか。史弥は絶対に答えない。最初から隠すと決めた人間が、今さら真実を明かすはずがないからだ。それでも、胸の奥底では、まだわずかに知りたかった。自分を救ったのが史弥でないなら、いったい誰だったのか。思いつく限りの顔を思い浮かべても、答えは出ない。史弥の胸に、目の前の悠良が知らない人のように映った。「悠良......一体どうしたんだ。最近、何かあったなら話してくれ。一緒に乗り越えるって、最初に約束しただろ?」だが、悠良にはもう吐き出す気力すらなかった。言ったところで、何になる。彼女は肩を震わせ、史弥の手を振りほどく。「別になんでも。でも、もう疑うのをやめて」冷ややかに視線を逸らし、説明する気もなく背を向けた。史弥は、その無関心な態度に奥歯を噛みしめ、顎の筋がぴくりと浮く。胸の奥の怒りが、一気に込み上げた。彼は足早に近づき、再び悠良の腕を掴む。「悠良!はっきり言え!」「離して!」怒りというより、手首を強く握られる痛みに思わず声が出た。さっきの痛みが、まだ残っているのに。しかし、史弥の怒りはもう理性を覆い尽くしていた。二人は引き合い、押し合い――悠良は必死に抗う。その手を、史弥が不意に離した瞬間、力が抜けた彼女の身体は、後方へと大きく傾いた。「悠良!」史弥が手を伸ばす。だが、もう間に合わない。悠良の後頭部が、尖った石に強くぶつかる。鋭い痛みが頭を貫き、視界が真っ暗になる。彼女の身体は、ぐったりと地面に崩れ落ちた。その音を聞きつけ、中にいた人々が慌てて駆け出してくる。「悠良!どうしたんだ!?」血の気の引いた顔で孝之が駆け寄る。地面には赤い血が広がり、雪江は口元を押さえて悲鳴をあげた。「血......!孝之、血が出てるよ!」孝之は震える手で悠良を抱き
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