史弥は今、かつて悠良に向けていた態度を、ほかの女に向けている。その事実は、ただ虚しかった。悠良は顔色ひとつ変えずに席に座り、残っている計画書に淡々と手を入れていた。「オアシスプロジェクトは私が契約したわけでもなければ、私が担当していたわけでもない。私が外れるほうが筋が通ってるのよ」葉は納得がいかない様子で口を尖らせ、代わりに憤った。「それなら最初から入れなきゃいいのに、今さら追い出すなんて......外でどんな風に噂されるかわかってるでしょうに」「葉、一つ頼まれてくれる?」悠良は恨み言を口にするような人間ではない。どんな状況でもまず考えるのは解決策だった。終盤に差しかかった計画書をきちんと仕上げるまでは、気を抜けない。葉は当然、悠良が何を考えているかなど知る由もなかったが、手伝いが必要と言われれば力になりたい気持ちはあった。「言ってよ、遠慮なんかいらない。あなたがいなかったら、私今頃会社に戻れてなかったんだから」「今から会議室に行って史弥に提案してきてほしいの。史弥本人から寒河江社長に電話をかけさせるように勧めるのよ。内容は、二社間でチームビルディングを兼ねた交流会を開きたい、と伝えること。このプロジェクトの推進に役立つし、外で噂してる人たちの口も塞げるから、これはオアシスプロジェクトにとってプラスになるってね」それを聞いて葉は怯えた。「え......私みたいなただの一般社員がそんなこと提案するなんて......火の中に飛び込めって言ってるようなもんじゃない?」「白川社長と寒河江社長がどんな関係か、私もよく知ってる。あの二人は水と油でしょ?」悠良は落ち着き払った声で答えた。「大丈夫よ。史弥は感情に流されるような人じゃないから。この提案は会社とプロジェクトのためになるって、きっとわかってるはず。二社がいがみ合ったままだと計画は遅れるだけだし、それは彼も望んでないわ」冷静な悠良の態度に、葉はつい感心してしまった。ほかの女だったら、今の状況に激昂するだけだろうに、悠良は淡々と打開策を練っている。「さすがね......やっぱり私、ついてきてよかった」そう言って葉は唇をきつく結び、頷いた。「わかった、任せて。行ってくるよ」「ありがとう。いい知らせ待ってるわ」葉はまるで決死の覚悟を決
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