光紀の顔が一瞬こわばった。「寒河江社長、どうしてまたそんなことを?私はずっと小林さんと一緒にいましたし、会社にも入っていません。本当にこの件とは無関係です」伶は身を少し傾け、骨ばった指先で手の中のペンを回した。「別に君がやったとは言ってないだろ。そんなに慌てて」その言葉に光紀は、自分が焦りすぎていたのだとようやく気づいた。すぐに気を取り直す。「申し訳ありません。寒河江社長に誤解されたくないので、つい......」伶の視線は鷹のように鋭く、光紀を射抜いた。その眼差しはまるで深淵のようで、気を抜けば一瞬で奈落に落ちそうだった。「光紀、君は長い間ずっと俺についてきた。俺の性格もよく知っているはずだし、何を一番嫌っているかもわかっているだろ」「はい」伶はこれ以上試す気はない様子だった。「これが最後の機会だ。光紀がどう答えようと、これ以上問い詰めることはしない。ただし、よく考えてから答えろ」光紀は、今夜の数時間だけでまるでジェットコースターに乗せられたような気分だった。心臓は落ち着く暇もない。とくに、こんな状況で選択を迫られるなんて、どちらを選んでも苦しい。だが、自分の犠牲が伶の難局を乗り越える助けになるのなら、迷う理由はなかった。そう考えた途端、体中に再び勇気が満ちた気がして、彼は背筋を伸ばし、力強い声を出した。「社長、何度聞かれても答えは同じです。この件は私とは無関係ですし、小林さんである可能性もありません。マンションを出てからずっと彼女と一緒で、片時も視線を外したことはありませんでした。もし私たちが手を組んだと疑っていらっしゃるなら、それは絶対にあり得ません。そんなことにどんな意味があるでしょう。目的は何ですか」伶は無言のまま、光紀の言葉を聞き終えると、それ以上は追及しなかった。「会社に残って、引き続き調べておけ。俺は先に帰る」光紀がすぐに尋ねる。「寒河江社長、それじゃこのプロジェクトは......」「問題がなければ、進めろ」「よっしゃ!」光紀は思わず歓声を上げそうになった。どう転んでも、結果が望む通りならそれでいい。それにもう印鑑も押されている。いまさら誰が字を真似したかなど、こだわっても意味はない。この時点で契約を取り消せば、伶は巨額の違約金を背負
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