55話 目的地は何処? 「おい、大丈夫か?」 どこからか声が聞こえてくる。ピクリと体を震わせると、瞼が連動するように反応する。ぼやけた背景は、目が馴染んでくるとすんなり受け入れる事が出来た。長い夢を見ていた気がする。何か大切な事を忘れているような気がするけど、現実に戻った僕は、気のせいだけで留めた。「意識はあるな、よかった」 長い間会う事がなかった杉田が目の前にいる。涙で真っ赤になっている瞳が印象的だった。いつも冷静な彼がここまで感情を示すなんて、何事だろうと考えながら、彼の腕に抱き抱えられた。「火が回る前にここから出るぞ」 記憶が改竄されている事に気づかずに、目の前にある物事こそが真実だと疑う事はなかった。窓から飛び降りようとする杉田に待つように言うと、一瞬止まる。「タミキがいるんだ。ここに……早く助けないと」 タミキの名前を聞いた杉田は唇を強く噛んでいく。今までの自分の行動が引き金となり、僕を危険な目に合わせてしまった事が、引っかかっているようだった。僕の知っている彼なら、タミキを助けに行こうとするだろう。しかし、長い年月を一人で過ごしてきた彼は、前のように振る舞う事を忘れてしまっていた。「杉田ってば」 僕の言葉を振り解こうと顔を背けると、指差す炎の先から逃げるように、飛び出した。ガシャンと窓ガラスの残骸が砕けると、僕の希望も壊れていく。泣きながらタミキを叫び続ける僕を、背負うと逃げれないように、力をグッと入れた。 こんな形で彼と離れるなんて想像もしなかった僕は、ただただ涙を流し続けた。 彼は僕の事を考えていた 何が一番笑顔に出来るのかと 自分では役不足になる事を 理解していた彼がいる ある程度走っていると僕達を待ち構えるように車が目の前に停められた。運転席から声をかけられると、杉田は頷き、力が抜けた僕を後部座席へと放り込んだ。 僕が抵抗しないように、一人の青年が乗っている。彼に重なる形で崩れると、にっこりとした笑顔が見えた。
Terakhir Diperbarui : 2025-07-02 Baca selengkapnya