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・Chapter(18) 再会

last update Last Updated: 2025-07-01 22:11:51

「そうです、お久しぶりです」

その瑞穂の様に、杉浦マイは口元に手をあて、クスクスと笑った。

「いや、久しぶりって言う程でもないんだけどね。

ってか、まさかこんなトコロで会えるなんて思ってもいなかった」

「あっ、私の職場って、すぐそこなんですよ。

それで、この店の前を通りがかったら、たまたま瑞穂さんの顔が見えたから、つい……」

「あっ、そうなんだ」

瑞穂は返すと、アイスコーヒーを手に持ち、杉浦マイと二人で、テーブル席へと移動した。

「マイさん、仕事何してるの?」

アイスコーヒーを飲みながら、瑞穂が杉浦マイに訊く。

「旅行代理店です。

ココの駅ビルを出て、すぐそこのホテルの下に職場があるんですね。瑞穂さんは?」

「アタシは商社。

職場はココじゃないんだけど、乗り換えがこの駅だから、たまに寄り道して、この店で一時間くらいコーヒーとかカフェオレを飲みながら、本を読んで帰ってるんだ。

BOOK・OFFも近くにあるしね」

「へー」

「あっ、マイさん。なんか注文したの?」

杉浦マイの前には、冷水と紙おしぼりのみが置かれているのみであった。

「大丈夫です。

さっき、お店に入ると同時に注文したんですよ。

もう少ししたら、来ると思うんですけど」

果たして、杉浦マイの言葉通り、程なくしてアイスカフェオレがウェイトレスによってテーブル席に届けられた。

「あのバーベキュー、以来だね」

「そうですね」

杉浦マイは口元を緩めると、アイスカフェオレを一口飲んだ。

「アレから、あのバーベキューで繋がった人と、連絡を取り合ったりしてる?」

「……殆ど、してないですね」

杉浦マイは、苦笑いを浮かばせた。

「何人か男の人にLINE聞かれて教えたんですけど、殆どそれっきりです。

古田さん、くらいかな?

先日、ご飯を食べに行こう、って誘われて、行ったくらいですね」

「へぇー」

杉浦マイの言葉に瑞穂は表面上は平静を装っていたが、古田の意外な一面に驚きを覚えていた。

「瑞穂さんは?」

「はい?」

「いえ、あのバーベキューで繋がった人と、何かしら連絡を取り合ったりしてます?」

攻守交代、とばかりに、杉浦マイは同じ質問を瑞穂に対してしてきた。

·

「ないねー」

瑞穂は苦笑しながら、首をひねった。

「一人、池山って人だったかな。

『俺、LINEやってないから、メアド教えて!』って言われて、その人とメアド交換させられた
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