Tous les chapitres de : Chapitre 1 - Chapitre 10

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第1話

「ママ、まだここにいちゃだめ?」娘は雨宮星羅(あまみや せいら)の首に抱きつき、涙ながらに訴えた。「今日、パパがレインボーのオルゴールをくれたの。パパって呼んでも怒らなかった。パパ、私のこと好きになったみたい。パパのこと、大好き。パパと離れたくない」星羅は娘のもちこの期待に満ちた瞳を見つめ、真実を告げることができなかった。榊柊也(さかき しゅうや)は娘を愛していない。ましてや妻である自分も、この家庭も愛していない。あの時、柊也は初恋の人との結婚を控えていた。しかし、結婚式当日、彼の恋人は他の男と姿を消した。柊也がどんなに引き留めようと、彼女は振り返らなかった。自暴自棄になった柊也は、参列者の中から星羅を選び、その場で彼女と結婚したのだ。しかし、結婚して5年、二人はずっと別々の部屋で寝ていた。ある日、柊也は酒に酔った勢いで、星羅と一夜を共にした。その後、星羅は妊娠した。柊也の母は星羅に中絶手術をやめさせ、子供を産ませた。この一件で、柊也は星羅をひどく憎み、生まれた娘にも冷たく当たった。娘は生まれてから半月間、集中治療室に入院していたが、彼は一度も見舞いに訪れることはなかった。娘を抱き上げることもなく、ミルクを吐いて窒息しかけた時でさえ、見て見ぬふりをした。実の父親でありながら、赤の他人よりも冷たかった。今夜、柊也の元カノが離婚して帰国した。普段はもちこに無関心な柊也だったが、娘を抱くと何度も頬にキスをし、娘にはレインボーのオルゴールをプレゼントした。「ママ、聞いて!パパがくれたオルゴール、流れてるのは『愛しき我が子』の曲なんだよ!」もちこは音楽に合わせて踊り、嬉しそうに笑った。「パパがくれた曲、私の一番好きな曲!パパはきっと私のこと、好きになったんだよね?」星羅が答える間もなく、もちこは家族写真を持って駆け寄り、訴えかけてきた。「ママ、見て!パパが私を抱っこして、1歳の誕生日写真撮ったんだよ!パパは私のこと、愛しているんだよね?見て!パパ、すごく嬉しそうに笑っている!」星羅が黙っていると、もちこの瞳の輝きが消え、涙が頬を伝った。「ママ、パパは毎日たくさん手術をして疲れているから、私に笑いかけてくれないし、抱っこもしてくれないんだよね?私のこと嫌いなわけじゃないんだよ
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第2話

翌日は、星羅の結婚記念日だった。彼女は離婚協議書を作成し、明後日港市を発つ飛行機のチケットを予約した。午後、彼女は幼稚園にもちこを迎えに行った。中央広場を通りかかると、彼女は思いがけず、柊也が片膝をついて元カノの佐藤沙耶(さとう さや)にプロポーズしているところを目にした。周囲には人だかりができ、噂話で持ちきりだった。「榊先生、佐藤さんを本当に愛しているのね。4000万円もする指輪を買ってあげたんだって!」「ええ、榊先生は、佐藤さんと同じ大学に入るために、わざわざ彼女のレベルと合わせて入学試験受けたそうよ。それに、彼女が他の男と駆け落ちしたにも関わらず、ずっと彼女の帰りを待っていたなんて、まさに一途な愛ね!」「本当に美男美女でお似合いだわ。二人の子供が見てみたい、きっと可愛い子供に違いない!」星羅は左手の薬指の結婚指輪を見つめ、苦笑いした。彼女の結婚指輪は、かつて柊也が沙耶のために買ったものだった。サイズが少し大きいのに、彼は一度も新しい指輪を買い直すと言ってくれなかった。それなのに、今、彼は沙耶に4000万円もする指輪をプレゼントしたのだ。彼女が思い上がっていたのだ。彼の代わりに親孝行をし、心を込めて美味しい料理を作れば、少しは彼の愛を得られると信じていた。娘の素直さで、彼の心を温め、家族への愛情が芽生えることを期待していた。しかし、現実は残酷だった。柊也にとって家はただの宿泊施設で、彼女が栄養バランスを考えて作った食事を何度も捨てた。娘が抱っこをせがむ眼差しを無視し、冷たく「近づくな」と突き放した。彼は娘を愛していなかった。もちろん、自分のことを愛したことも一度もなかったのだ。星羅は、若い頃からの柊也への片思いに囚われ、目を覚まそうとしなかった。なんて愚かで、子供じみた考えだったのだろう。「ママ、あのおばさんにプロポーズしてるの、パパみたい!」もちこの驚きの声が、星羅を現実に引き戻した。彼女は慌てて娘を抱き上げ、その場を去ろうとしたが、沙耶に呼び止められた。女は星羅をじろじろと眺め、ためらいがちに言った。「柊也、あなたは私を怒らせるためだけに、別に誰かと結婚したわけではないって言ってたじゃない。どうしてこの子の顔、あなたとそっくりなの?この子は、あなたの……」柊也
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第3話

リビングの時計が12時を指しても、柊也は帰ってこなかった。いつもの結婚記念日と同じように、星羅は一人で、たくさんの料理が並んだテーブルの前に座り、夜が明けるのを待っていた。昔なら、彼女は何度も電話をかけ、一緒に過ごそうと彼に頼んだだろう。だが今は、もうそんな惨めな思いをしたくなかった。どうせ、柊也はこの結婚を何とも思っていない。自分と娘のことなど、どうでもいいのだ。星羅は箸で、美味しそうな酢豚をつまんだ。しかし、口にした途端、苦くて飲み込むことができなかった。5年間の結婚生活と同じで、苦しくて、辛いだけで、少しの甘みも感じられなかった。彼女は料理をゴミ箱に捨て、荷造りを始めた。携帯の写真フォルダから、柊也の写真を全て消した。結婚写真をハサミで切り刻んだ。庭に植えてあった、彼のために育てたひまわりを、根こそぎ引き抜いた。全てが終わると、彼女は疲れ切った体で2階に上がり、もちこを寝かしつけようとした。ベッドに横たわる娘の顔が真っ赤で、口元には血がついているのを見た。星羅は嫌な予感がした。急いで娘を連れ、榊総合病院の救急外来に向かい、教授である木村先生の診察を受けた。医師が聴診器を当てようとしたその時、外から聞き慣れた声が聞こえてきた。「木村先生は、今日は何番の診察室ですか?」「ママ、パパの声みたい!」もちこのうつろな目に光が宿った。咳き込みながら、嬉しそうに言った。「私が病気だって知って、見舞いに来てくれたの?」「よかった、制服のままで。もっと見てくれるかな。昨日、パパ、『制服姿、可愛いね』って言ってたから」星羅は、そんなはずはないと思った。しかし、もしかしたら、彼が娘の心配をして来てくれたのかもしれない、という淡い期待も抱いてた。娘はこのところ、咳と発熱を繰り返していた。柊也の母は、何度も星羅に電話をかけ、娘の容態を尋ねられ、そして柊也にもっと娘のことを気遣うようにと言いつけていた。星羅が振り返ると、驚いた顔の柊也が目に入った。彼は幼い女の子を抱いていた。後ろに立つ沙耶が穏やかな口調で言った。「柊也、莉央は少し咳をしただけで、そんなに大騒ぎするようなことではないわ。木村先生は忙しいのよ。重症患者を優先しなきゃいけないんだから」「沙耶、咳は侮れないぞ。高熱が出
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第4話

緊急治療のおかげで、もちこの高熱はようやく下がった。星羅は、買ってきたお粥を娘に食べさせた。娘は食欲がなく、食べようとしなかった。すると、もちこは何かを思い出したように、お粥を飲み込みながら、小さな声で言った。「ママ、明日、子供の日で、私、舞台で『四羽の白鳥の踊り』を踊るんだよ。パパに電話して、見に来てもらえないかな?」星羅はお粥の入ったうつわを持つ手をそっと止めた。「そんなに、彼に見てもらいたい?」「うん、すごく……」もちこは悲しそうな目で言った。「初めて舞台で踊るんだよ。パパにお願いして見に来てもらうのも、これが最後だし……」「キラキラ輝いてる私を、覚えていてほしいの。私のこと、忘れないでほしいの」星羅が何も言わないので、もちこはがっかりして首を振り、涙をこぼした。「もういいの……やっぱり、こんなこんなわがまま、言っちゃだめだよね……」「もちこ、あなたのお願いは、少しもわがままなんかじゃないわ」星羅は胸が痛み、携帯を開いて柊也にメッセージを送った。【明日、子供の日で、娘の発表会があります。来ますか?】メッセージを送信したが、いつものように返信はなかった。もちこは星羅の携帯の画面をじっと見つめていた。メッセージが届くたびに、彼女は期待に胸を膨らませたが、内容を見ては、がっかりしてうつむいた。夜が明けても、返信は来なかった。「パパ、見に来てくれないのかな……」もちこは激しく咳き込みながら、明るく振る舞って見せた。「忙しいんだよね。手術がいっぱいあるし。仕方ないよね、パパのせいじゃないもん」娘のしっかりとした姿を見て、星羅は胸が締め付けられた。何か慰めの言葉をかけたいが、何も思い浮かばなかった。昨夜、娘が高熱を出して苦しんでいるというのに、柊也は冷たく、娘を優先して診てくれようとはしなかった。悲しみに耐えながら、それでも父親をかばう娘の姿が、星羅には痛々しくてたまらなかった。「ママ、悲しまないで。ママが見に来てくれれば、それでいいよ!」もちこは星羅の首に抱きつき、言った。「ママがいれば、それで十分だよ」星羅は娘の小さな顔を優しくキスした。「頑張ってね、もちこ。ママは応援しているわ」もちこは元気づけられ、無理をして、お粥を一杯とサクランボをいくつか食べた。星羅は、点滴を受けている
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第5話

星羅は娘を連れて病院を出た。先生から言われていた通り、明日の発表会に必要なリボンとお菓子を買いに、スーパーへと向かった。星羅がお菓子を選んでいると、娘が駆け寄ってきて、興奮した様子で言った。「ママ!パパがエルサの人形選んでたよ!明日のプレゼント、買ってくれてるのかな?」星羅は娘の視線の先を見た。柊也がエルサの人形セットを選んでいた。普段は冷たい彼が、優しく微笑んでいた。しかし次の瞬間、棚の奥から莉央が飛び出してきて、彼の足にしがみつきながら、「榊パパ!」と叫んだ。そのあと、沙耶がヨーグルトを手にして近づいてきた。星羅は急いでイヤホンを取り出し、娘につけさせ、視界を遮りながら言った。「プレゼントはもらえるわ。もう遅いから、帰ろう」その夜も、柊也は帰ってこなかった。星羅の腕の中でもちこは、まだ空が暗い内から目を覚ました。レインボーのオルゴールを鞄に入れ、星羅に頼んでお団子頭にティアラをつけてもらった。家族の絵を描き、柊也に渡そうと思っていた。しかし、幼稚園の前でいくら待っても、柊也は来なかった。代わりにやってきたのは、綺麗に着飾った沙耶と莉央だった。莉央はキラキラと輝くエルサモチーフのドレスを着て、自慢げに言った。「このドレス、榊パパが特別にオーダメイドしてくれたものよ!200万円もしたのよ!私がエルサのこと好きだって知って、100着も作ってくれたの!どれも可愛いんだ!」「ママ、思い出した。莉央ちゃん、この間、転校してきた子だ。パパ、すごく彼女の事を可愛がってる……いいな……」もちこは悲しそうに言った。星羅は胸の苦しみをこらえ、何も言わなかった。同じ年頃で、同じエルサが好きな二人。一人は柊也に溺愛されている。もう一人は、彼にとって触れたくない存在で、子供の日に一度たりともプレゼントをもらったことはなかった。星羅の様子がおかしいと感じ、もちこは言葉を詰まらせた。「パパ、忙しいから来れないんだよね……」星羅は娘に嘘をつくことにした。用意しておいた人形を取り出して言った。「パパは来れないけど、プレゼントは買ってくれたわよ」もちこの暗い表情が明るくなった。「見て!パパも私のこと大好きなんだよ!エルサの人形、買ってくれたんだ!」莉央の周りにいた子供たちが、もちこの持っている人形を見て、
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第6話

「柊也、この子が莉央のオルゴールを盗んだのよ!莉央を転園させて。こんな子と一緒にいさせたら、莉央まで悪い子になってしまうわ」沙耶は眉をひそめて言った。「榊先生、私の娘はオルゴールを盗んでいません!証拠もあります!」星羅は柊也を見つめ、彼からの説明を待っていた。しかし、柊也は彼女の視線を避け、周囲を見回しながら、焦った様子で言った。「莉央はどこだ?怪我はしてないか?」「榊パパ、ここ!」莉央が駆け寄り、もちこを指差して憎々しげに言った。「もちこが、パパがくれたベッカのオルゴール盗んだの!警察呼んで、もちこを捕まえて!そんな悪い子に、舞台で踊る資格なんてない!」柊也は莉央の顔を心配そうに覗き込み、焦った様子で言った。「足は痛くないか?手を怪我してないか?」「榊パパ、私は大丈夫」莉央はもちこをちらりと見て、嘲るように言った。「でも、泥棒は顔に怪我してブスになっちゃった。ざまーみろ!」もちこの目に涙が溜まった。「おじさん、私のオルゴールはパパがくれたの!私は盗んでない!」彼女の言葉に、周囲の人々がざわめいた。「莉央ちゃんがコレクションしているベッカのオルゴールは、どれも高価なものばかり。子供なら誰でも欲しがるわよ。きっと、もちこちゃんが盗んだに違いないわ」「もちこちゃんはパパがくれたって言ってるけど、今まで一度も、パパが迎えに来ているのを見たことがないわ。嘘に決まってる」「もちこちゃんは体が弱くて、よく学校を休んでいるし、お母さんは治療費で大変だって聞いたわ。オルゴールを売れば、何万円かになるものね」星羅は目を伏せ、苦い思いを隠した。夫がいるというのに、まるでシングルマザーのように生きている。挙句の果てに、泥棒呼ばわりにされるなんて!なんて滑稽で、皮肉なことなんだろう。周囲の言葉にもちこは憤慨し、叫んだ。「私にはパパがいる!外国でお医者さんしてるの!すごいお医者さんなの!このオルゴールは、パパが送ってくれたの!」それを聞いて、沙耶は眉をひそめた。「嘘をつくのは良くないわよ。そのレインボーのオルゴール、私の娘の持っているベッカのものと全く同じ。200万円もするのよ!私にはわかるの!」柊也は、みすぼらしい姿のもちこを一瞥し、わずかに動揺した。しかし、次の瞬間、彼は胸の痛みを押し殺し、何事もなかった
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第7話

星羅は驚いてように保健室に入ってきた男を見つめ、冷ややかに言った。「何しに来たんですか?」柊也は何も言わず、秘書に何かを合図した。秘書はオルゴールを差し出した。柊也は「もちこ、新しいオルゴールを買ってきたよ。気に入ってくれるかな?」と言った。もちこは目をこすりながら、戸惑ったように言った。「ママ、夢みたい……」「パパが、新しいオルゴールくれるなんて!」「夢じゃないわ」星羅はオルゴールを開けて娘に渡した。「曲を流してみよう」オルゴールから流れるピアノの曲に合わせて、もちこは踊り始めた。目に涙が浮かんでいた。「ありがとうございます、、おじさん。大切にしますね」娘が感激して涙ぐんでいるのを見て、柊也は少し迷った後、低い声で言った。「もちこ、莉央がセンターで踊りたいと言っているんだ。それに、今日は顔に怪我をしているから、センターは無理だろう?莉央に譲ってやってくれないか?」彼の言葉に、星羅の顔から笑みが消え、もちこの目にも涙が浮かんだ。娘の怪我を心配して来たのではなかったのだ。ただの取引のために来たのだ。なんて冷酷で、皮肉な状況だろう。「わかりました、おじさん」もちこは冷めた声で言った。オルゴールの白いタッセルを撫でながら、もちこは激しく咳き込んだ。柊也は思わず眉をひそめ、何か言おうとした時、ポケットに入っていた携帯が鳴った。沙耶からだった。「柊也、莉央が鼻血を出したの!早く来て!」柊也は慌てて部屋を出て行った。彼が部屋を出ようとした時、星羅が呼び止めた。「あなたに荷物を送りました。明日の朝、必ず開けてください……」柊也は彼女の言葉を遮り、苛立った様子で言った。「もう、俺に物を送るな!必要ない!」星羅は冷ややかな視線を隠し、黙っていた。彼女が送ったのはプレゼントではなかった。サイン済みの離婚協議書だった。……星羅はもちこと一緒に会場に戻り、席に着いた。娘は先生に連れられて、舞台裏へ行った。列の先頭に立つ莉央は、客席にいる柊也と沙耶に手を振り、得意げに言った。「榊パパ、夢を叶えてくれてありがとう!」その言葉を聞いて、星羅は、列の後ろの方にいるもちこがよろめきそうになっているのを見た。星羅は胸が痛み、立ち上がって娘に手を振った。「もちこ、頑張って!あなたが一番よ!」もちこ
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第8話

「どうしたんだ、沙耶?」柊也が近づいてきて、星羅の姿を見ると、表情が曇った。「雨宮さんが、莉央がもちこちゃんの居場所を知っていて隠していると、わけのわからないことを言って莉央を責めるのよ!自分自身の子供の面倒も見られないで、人に責任転嫁するなんて、信じられない!」沙耶は憤慨した様子で言った。「榊先生、莉央ちゃんが持っていた白いタッセルは、もちこのオルゴールについていたものなんです!もちこがいなくなる前、莉央ちゃんは必ずもちこに会っているはずです!」星羅は真剣な顔つきで訴えた。「子供がいなくなって3時間も経っているんです!どういうことかわかりますか?一刻も争う事態なんです!」柊也の表情が変わった。彼はしゃがみ込み、莉央の手を握って尋ねた。「莉央、正直にパパに話しなさい。もちこちゃんに会ったのか?」「ううん!見てない!」莉央は目を泳がせながら言った。「白いタッセルは……芝生で拾ったの……」「嘘をついているんでしょう!娘のオルゴールのタッセルは、私がしっかり固定したんです!落とすはずがありません!一体どこで拾ったんですか?」星羅は怒鳴った。「早く言ってください!」「雨宮さん、娘は拾ったと言っているんです!いい加減にしてください!これ以上、デタラメを言うなら、園長先生に言いつけますよ!」沙耶は不満そうに言った。星羅は娘を探すのに必死で、彼女と口論している暇はなかった。すぐに警察を呼んだ。警察を見て、莉央は柊也の後ろに隠れ、震える声で言った。「榊パパ、怖い……あの人たちを追い払って!」柊也は眉をひそめ、真剣な声で言った。「莉央、もう一度聞くぞ。もちこちゃんに会ったのか?」「本当に見てないもん!」莉央は涙を浮かべて言った。「お嬢ちゃん、その白いタッセルを私たちにください」鈴木刑事が真剣な表情で言った。「もちこちゃんが行方不明になって3時間も経っています。一刻も争う状況なんです」莉央はまるで汚らわしいものでも触ったかのように、すぐに白いタッセルを警察に渡し、柊也に早く行こうとせがんだ。柊也は莉央に応じながら歩き出し、ふと立ち止まり秘書に指示を出した。「全員を呼んで、子供を探させろ!」それを聞いて、沙耶は驚き、莉央も不満そうな顔をした。星羅は彼女たちの様子を気にする余裕もなく、警察犬の後をついて、舞台裏の教室棟
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第9話

「星羅、莉央の代わりに謝る」柊也は真剣な表情で言った。「莉央はまだ幼くて、何もわかっていない。悪気はなかったはず……」「ロッカーに閉じ込めて、鍵をかけたのが悪気じゃないって言うんですか?」星羅は眉をひそめて聞き返した。彼が何かを言おうとした時、携帯が鳴った。彼は電話に出た。数秒後、彼の表情は硬くなり、焦った声で言った。「沙耶、落ち着いてくれ!事情を説明するから、莉央とどこにも行くな!すぐ行く!」「もちこちゃん、後でまた来るからな」そう言うと、彼は救急隊員に車を止めるよう指示した。「おじさん、行かないで……」柊也は少し黙った後、ドアを開けて出て行った。「ちょっと用事があるんだ」「おじさん!」もちこは彼を呼び止め、一言一句、噛み締めるように言った。「さよなら」柊也は振り返り、泣き出しそうな娘の目を見て、少し間を置いて言った。「必ず病院へ見舞いに行くからな!」救急車のドアが閉まり、外の音は聞こえなくなった。星羅は意識を失った娘を抱きしめ、涙を流した。「もちこ、泣かないで。ママがいるわ。ずっと、愛しているわ」病院での懸命な治療のおかげで、もちこは一命を取り留めた。星羅は娘を抱きしめ、声を上げて泣いた。まるで全世界を抱きしめているようだった。もちこは咳き込みながら、病室の入り口の方を見て、弱々しく尋ねた。「おじさん、まだ来ないの……」星羅は胸を痛んだ。柊也が来ていないことを娘に伝えるのが辛かった。「さっき電話したら、もうすぐ来るって言ってたわ。もう一度聞いてみるね」彼女は少し離れた場所に移動し、柊也に電話をかけると、莉央の声がした。「もしもし?だれなの?」星羅は一瞬言葉を失い、尋ねた。「柊也はどこですか?」「タレを取りに行ってる」莉央は、勝ち誇ったように言った。「さっき、早く病院にもちこちゃんを見舞いに行きなよって言ったのに、『莉央も怖かっただろう?美味しいものでも食べて元気出そう』って、無理やり鍋に連れて来られた。もう、しょうがないんだから」星羅が何か言おうとした時、受話器の向こうから沙耶の声が聞こえてきた。「雨宮さん、あなたがた親子が柊也の妻と娘だってことがバレて、柊也は慌てふためいたわ、明日、あなたに離婚を切り出すって約束しましたのよ。わたしの身代わりごときが、子供を産んだからって妻の座が手
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第10話

鍋屋で、莉央のために肉を茹でていた柊也は、もう一度星羅に電話をかけた。しかし、何度かけても電話がつながらない。彼女は、彼とお揃いの電話番号を変えたのか?今までずっと変えようとしなかったのに?病院へ行かなかったことを怒っているのか?最後に見た娘の弱々しい姿を思い出し、柊也は不安になった。彼は秘書に指示した。「病院に電話して、もちこちゃんが集中治療室から出たか確認しろ」しばらくして秘書が戻ってきた。顔面蒼白だった。「榊先生……鈴木先生によると……もちこちゃんは呼吸不全で亡くなったそうです……雨宮さんは、娘さんの遺体と共に……帰ってしまった……」「何だと!?」柊也は驚愕した。「そんなはずはない!俺が病院を出た時、まだ息をしていたはずだ!」秘書は彼の顔色を窺いながら、恐る恐る言った。「鈴木先生によると、もちこちゃんは亡くなる直前、ずっと榊先生の名前を呼んでいたそうです……雨宮さんも、榊先生に電話を掛けましたと……」彼は携帯を確認したが、星羅からの着信はなかった。「榊パパ、さっき、知らないおばさんから電話があったよ。携帯の操作、わかんなくて切れちゃった。もちこ、大丈夫かな?」男が黙り込んでいるのを見て、莉央は不安になった。「ロッカーに閉じ込めたのは……ちょっと意地悪したかっただけなの……パパを取られたくなかったから……榊パパ、もちこに取られるのが怖かったの。もちこ、私より勉強もできるし、ダンスも上手だし、先生たちにも好かれてるし……ごめんなさい、榊パパ……怒ってないよね……」「柊也、莉央はまだ4歳よ。悪気はなかったの」沙耶は彼の沈黙を破ろうと、優しく言った。「もう、あなたがあの女と結婚していたことを責めたりしないわ。私も莉央も、もうどこにも行かない」柊也は沙耶の言葉に反応せず、足早に店を出て行った。彼は病院へ駆けつけ、救急医に詰め寄った。「もちこちゃんはどこだ?案内しろ!」「榊先生、残念ながらもちこちゃんは呼吸不全で亡くなりました」医師はカルテを差し出した。「雨宮さんは死亡診断書を受け取り、娘さんのご遺体と共に帰って行かれました」「そんなはずはない!救急車の中ではまだ息をしていた!お前たちは星羅とグルになって、俺を騙しているんだ!」柊也は怒鳴った。「誰か!子供を探せ!」6時間後、秘書たちは病院
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