本来なら一緒に手を出すつもりだった金融界の大物も、この光景を目にして喉を鳴らし、反射的に数歩後ずさった。鮮血が、磨き上げられた大理石の床を赤く染めている。正道の瞳孔がきゅっと縮まり、大声で叫んだ。「誰か来い!早く医者を呼べ!」廊下から慌ただしい足音が響き、オフィスは一瞬にして混乱に包まれた。だが星は、まるで部外者であるかのように、その場に静かに立ち尽くしていた。ほどなくして救急車が到着し、石油王もそのまま病院へと搬送された。金融家は混乱に乗じて姿を消し、先ほどまでの尊大な態度は、跡形もなく消え去っていた。――この女、ここまで狂っているとは。車で突っ込むことができるのなら、銃を向けることだって躊躇しないだろう。私生児一人の命と引き換えに、自分たちの命が助かるなら、これほど割のいい話はない。後になって正道が「明日香には精神的な問題がある」とでも言い出したら、自分たちは犬死にだ。先ほどまで二人は、正道からある程度の譲歩を引き出してから和解するつもりでいた。だが今となっては、和解など不可能だ。金融家は去り際に雲井グループのビルを一瞥し、その瞳に冷たい光を宿した。……明日香から、朝陽が見つかったという知らせを聞いた忠と翔も、思わず驚いた。「明日香、様子を見に行った方がいいんじゃないか?」「うん。雲井グループを一通り見終わったら、朝陽さんのところへ行くわ」そんな会話を交わしながら、三人はエレベーターの方へ向かっていた。すると、何人もの社員が慌てた様子で、エレベーター前へ走っていくのが目に入った。翔は眉をひそめた。「やけに慌ただしいな......何かあったのか?」忠が誰かを捕まえて聞こうとした、その瞬間、顔面蒼白の秘書が駆け寄ってきた。「た、忠様、大変です!星野さんが......社長のオフィスで発砲し、石油王が撃たれました!」忠は耳を疑った。「......何だって?」秘書は半泣きになりながら、同じ言葉を繰り返した。星を正道のオフィスまで案内した後、業務の打ち合わせで別の秘書室へ向かい、戻る途中で銃声を聞いたという。駆けつけると、石油王が血の海に倒れていた。――自分が連れて行った相手が撃たれた。下手をすれば、自分の命まで危うい。三人は言葉を失っ
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