航平は呆然としたまま、床に散った破片を拾い集めた。指先がわずかに震え、瞳孔も、小さく揺れていた。星は、こんな航平を見たことがない。胸の奥に罪悪感が一気に押し寄せた。「航平……大丈夫?」航平はうつむいたまま、顔が見えない。しばらくして、擦れた声だけが返ってきた。「……大丈夫だ」星は、仁志をかばうように言いかける。「航平、仁志もわざとじゃ――このオルゴールは……」床の欠片を見て、言葉を探した、その瞬間。仁志が先に口を開いた。「鈴木さん、ご安心ください。僕が修復します」さらりと、息をするみたいに続ける。「もし無理なら、その彫刻家を探して、同じものを作り直させます」航平は内心で笑った。――同じ?これは一点ものだ。二度と同じものなんて作れない。そのとき、航平の視線がふと星のデスクへ移った。以前、彼が落としてしまい、花びらを数枚散らした薔薇がある。薔薇はプリザーブドフラワーになって、いまはオフィスでいちばん目立つ場所に飾られていた。星はその視線に気づき、ほんのわずか目を揺らす。そして自然な動きで一歩前へ出て、さりげなく航平の視界を遮った。「航平、もうすぐお昼だし……私、おごる。食べに行こう」航平はまぶたを伏せる。「……うん」こんな直後に、星が仁志まで連れて昼食に行けば、それこそ空気が読めなさすぎる。星は仁志へ向き直った。「仁志、お昼は先に一人で食べてて。私は航平と外で食べるから」仁志は引き止めない。「分かりました。何かあれば連絡ください」そのやり取りが、航平にはひどく目障りだった。――上下関係の会話じゃない。長く付き合ってる恋人同士みたいに、呼吸が合いすぎている。星と航平が出て行ったあと、仁志は床一面の破片を見下ろし、目を細めた。深い瞳が、底のない闇みたいに沈む。彼は破片を一つ残らず集め、袋へ入れた。そして十分後、その袋を提げてビルの下へ降りる。そこには雅人がタクシーの中で待っていた。仁志は袋を渡す。「調べて。オルゴールに余計なものが入ってないか」雅人は受け取り、短く答えた。「了解です」タクシーが動き出した、その直後。背後から、柔らかく澄んだ声がした。「仁志」振り返ると、明日香がゆったりと歩いてくる。上品な笑み。けれど気取った感じはない。長く会っていなかった旧友みたい
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