いっそ、この機会に冷静に対策を考えるべきだ。明日香は少しずつ、落ち着きを取り戻していった。彼女は優芽利を一瞥する。その瞳に、冷たい光が走った。記者たちは浴室へ殺到する。鍵がかかっていると分かると、数人が一気に体当たりし、扉をこじ開けた。――だが、目に飛び込んできた光景は、またしても全員を固まらせた。s怜央は確かに浴室にいた。ただし、服を着たままバスタブに浸かっていたのだ。扉が開いた瞬間、冷気が顔面を殴った。浴室は異様なほど冷え切っている。思わずくしゃみが出た記者までいた。「ハ、ハックション!」冷水に一晩浸かっていたせいで、怜央の顔色は透けるほど白い。さっきまで目を閉じていたが、物音に反応し、ゆっくり瞳を開けた。浴室の入口に群がる記者を見た瞬間、暗い目に陰のある冷光が宿る。「出ていけ」声は低く、掠れていた。極度の衰弱で迫力なんてない――はずなのに。記者たちは一斉に肩を震わせ、息まで止まった。カメラを向けることすら躊躇する。忘れかけていたのだ。たとえ怜央の立場が揺らいでいても、彼は当主の器の人間だ。手段は苛烈で、敵に回した者にろくな末路はない。記者たちは顔を見合わせ、そそくさと部屋から消えていった。薬の効きが切れてきたのを感じ、怜央はようやく立ち上がる。凍えるような水が服を伝い、床へ滴り落ちた。長く浸かりすぎたせいか、全身の筋肉は硬く痺れている。足元もふらつき、まともに歩けない。そのとき、そっと腕を支える手があった。優芽利は俯いたまま、怜央の目を見られない。後ろめたさが滲んでいる。「……お兄さん」怜央の黒い瞳が、彼女へ落ちる。冷たく、容赦がない。刃みたいだった。彼は短く吐き捨てる。「携帯」優芽利は逆らえず、自分の携帯を差し出した。怜央の手は死人みたいに冷たく硬い。番号を押す指すら、思うように動かない。――そのとき、もう一方の義手が役に立った。機械の腕で、淡々と番号を入力する。コールはすぐ繋がった。怜央は冷えた声で告げる。「記者を処理してくれ。あと、俺と明日香に関する噂は一切、耳に入れたくない」横で見ていた明日香の瞳に、複雑な色が浮かぶ。怜央は自分に触れなかった。しかも情報は、先回りして押さえ込んだ。責任を取る気配もない。自分を娶ろうとする様子も、微塵もない。本
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