「雅臣、まずは顔を拭いて」清子が差し出したタオルに、雅臣は首を振った。「俺は平気だ。それより、星に渡してやってくれ」清子の笑みが、ほんの一瞬だけ凍りつく。けれどすぐに取り繕い、星のほうへタオルを差し出した。「星野さん、どうぞ。風邪をひいたら大変よ」星は淡々と受け取り、「ありがとう」と短く言って、濡れた髪と頬を拭った。全身が雨で冷え切っている。タオルなど、ほんの気休めにしかならなかった。シートに身を沈めた瞬間、体の芯から寒気がこみ上げ、思わずくしゃみが出る。助手席の清子が、さも気遣うような声をかけた。「星野さん、よければ私の上着を貸しましょうか?」星はふと眉を動かした。――さっき彼女を見たとき、ワンピース姿だった。上着なんて着ていなかったはず。ということは、いま身に着けているのは......星の視線が静かに清子へと移る。彼女の肩には、見覚えのある男物のジャケットがかかっていた。星の唇がわずかに弧を描く。冷ややかで、ほとんど笑っていない笑みだった。出会ったときは突然の雨に混乱していて、なぜ雅臣がここにいるのか考える暇もなかった。だが――こうして見ると、彼は清子とワーナー先生を送迎していたのだろう。その程度のこと、いまさら詮索する気にもなれなかった。星は柔らかく言った。「......そうね。じゃあ、借りるわ」清子の瞳の奥に、一瞬、濁った光が走る。それでも表面上はにこやかに微笑み、雅臣に向き直った。「雅臣、星野さんが寒そうにしてるから......あなたの上着を貸したいの。いいかしら?」「構わない」彼の短い返答に、清子は作り笑いを浮かべながら上着を星へ差し出した。「星野さん、こんな大雨の中どうしてここに?ワーナー先生に会いに来たのかしら?もしそうなら、私に言ってくれれば良かったのに。私たち、一応顔見知りでしょう?ワーナー先生への伝言くらいなら喜んで――万が一、あなたに何かあったら、ワーナー先生にも私にも責任があるわ」その言葉に、ワーナー先生がちらりと星を見たが、すぐに視線を戻し、沈黙を守った。星は静かに口を開く。「......小林さん。私とワーナー先生が同じ場所にいるだけで、ワーナー先生に会いに来たって
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