「外で働けるって、ほんといいことよ。自分で稼げるし、男に養われてるなんて馬鹿にされる筋合いもないもの」買い物かごを手にした店員の言葉に、翔太はふと母の姿を思い出した。薬膳を作り、彼の体調に合わせて献立を考えてくれる――その一つひとつの光景が、胸の奥に浮かぶ。「......ママ、ごめんね」彼は小さくつぶやいた。星は首を振り、柔らかく微笑む。「もういいの。さ、野菜はこれで十分。次はお菓子のコーナーに行きましょ。翔太の好きなもの、いくつか選んで」三人はカートを押しながら、お菓子売り場へと向かった。その後ろを、一定の距離を置いて神谷雅臣がついていく。――奇妙な感覚だった。かつて雅臣にとって、女と買い物に出かけるというのは、時間の無駄以外の何物でもなかった。だが今は違う。面倒だと思うどころか――むしろ、星と一緒に買い物を続けていたいと思っている自分に気づく。買い物を終え、外に出る。仁志は、車で二人をマンションの前まで送った。星は買い物袋を抱えながら、いつもの穏やかな声で言う。「今日はありがとう。仁志ももう休んで。無理しないでね」食事に誘うことはしなかった。このまま誰かに見られれば、また雅臣に口実を与えるだけだ。仁志はすぐに悟り、淡々とうなずく。「分かりました。何かあれば、いつでも連絡してください」それだけ告げると、彼は車を走らせ去っていった。仁志の車が角を曲がって消えたその瞬間――雅臣が、ようやく姿を現した。「翔太」「パパ?まだ帰ってなかったの?」翔太が目を丸くする。雅臣は星の手元を見て、手を差し出した。「それ、俺が持つよ」星は一歩下がり、彼の手を避けた。「結構よ。ありがとう」「でも、その手でヴァイオリンを弾くんだろ。あまり重いものを持たない方が――」星の声が、その言葉を断ち切った。「この五年間、私は毎日こうして暮らしてきたのよ。手がどうにかなったことなんて一度もないわ。そんなに繊細な指じゃないの」そう言って、ふっと笑う。「――それより、あなたは小林さんの荷物でも持ってあげたら?私には必要ないもの」翔太がそのやり取りを聞いて、慌てて口を挟んだ。「パパ、大丈夫だよ。僕が
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