ハリーは知っていた。夜が生きてさえいれば、自分の地位など、必ず彼女の下だということを。この一生、どうあがいても夜には敵わない。彼が放つ光は、夜の存在だけでかき消される。――だが、幸いだった。夜は、早くに死んだ。彼女の死を知らされたあの日、ハリーは空を仰いで笑い声をあげた。天すら自分の味方をしてくれたのだと思った。もう誰にも、自分の上に立たせはしない。夜の死後、彼のキャリアは一気に爆発的な伸びを見せた。ワーナー先生以外に、ハリーの前に立ちはだかれる者は誰もいない。ヴァイオリン界で無双状態となり、ついに彼を超える者は現れなかった。彼は痛快だった。自由だった。そして――夜に見せつけたかった。「今の俺は、もうおまえの届かない場所にいる」と。ハリーはつねに高みから世界を見下ろし、誰も眼中に入れなかった。敗北という感覚すら、この数年で忘れていた。だが今。このヴァイオリンを目にした瞬間――胸の奥に、かつて味わった重圧がぶり返す。遠ざかってゆく星の背中を見つめながら、ハリーの瞳には冷たい光が宿った。......錯覚だろう。星の年齢は、当時の夜よりさらに若い。自分に敵うはずがない。――いや。あの娘は、奏よりも才能がある。一瞬でも芽を伸ばす隙を与えてはならない。自分が存在する限り、夜と星――あの母娘が陽の目を見ることは、永遠にない。ライトが灯り、星の姿が舞台にあらわれた。頭上から降り注ぐ光が、彼女の纏う空気ごと柔らかく照らしあげる。その手にあるヴァイオリンは、きらめく光を反射し、鮮やかに輝いた。そして、観客席に近い審査員たちはその瞬間、息を呑み、思わず姿勢を正した。「まさか......夏の夜の星!」「夜が生前使っていた夏の夜の星だ!」「夏の夜の星......?彼女と夜さん、一体どういう関係なんだ?」「ネットの噂だと......夜の娘らしい」「そりゃあこれだけ弾けるわけだ......夜の娘だって?」夏の夜の星は、あまりに有名だった。夜はこのヴァイオリン一本で、数え切れないほどの強敵を打ち負かした。夜の死後、十桁を超える金額で買いたいという者もいたが、所有者は譲らなかった。その後、夏の夜の星は徐々に表舞台から姿を消し、ときお
Baca selengkapnya