ちょうどその時、康二の携帯が鳴った。着信表示を見た彼は顔色をわずかに変え、足早に脇へ寄って電話に出る。「もしもし、品田さん……ええ、澤田です……何ですって?どういうことですか?HRKグループが出資を撤回すると?どういうことですか?」康二の声には明らかな動揺と困惑がにじんでいた。「……原因が川崎遥香さんの件にあると?はい、彼女なら今こちらにおります。承知しました、ご安心ください。絶対に彼女に不利益は与えません。必ずこちらで責任をもって対処いたします」電話を切ると、康二の額には冷や汗がにじんでいた。彼は足早に遥香のもとへ戻り、先ほどまでの厳しい表情も不機嫌な色も、跡形もなく消え失せていた。「ああ、川崎さん、本当に申し訳ありません!すべて誤解だったのです、誤解でして……」彼は何度も手を振りながら、態度を一変させる。「川崎さんは今回のコンテストにとって欠かせない重要な出場者です。歓迎してもしきれないくらいですよ。どうぞ、こちらへお進みください!」この突然の変化に、場内の誰もが呆気にとられた。先ほどまで遥香を追い出せと声を張り上げていた連中は顔を見合わせ、何が起こったのか見当もつかずにいる。柚香の笑みは凍りつき、目は今にも飛び出しそうだった。どういうこと?HRKグループ?何の会社?なぜ遥香を庇う?どうして、この女だけがいつもこんな強運に恵まれるのか。柚香は遥香を射抜くように睨みつけ、その瞳には嫉妬と怨嗟が渦巻いていた。遥香もまた戸惑っていた。心の中には疑問が渦巻いていたが、いまの状況が自分に有利なのだけは間違いなかった。遥香は胸の内に渦巻く思考を抑え込み、康二に軽くうなずいた。「ありがとうございます」そして、顔を真っ青にして震えている柚香や、周囲の訝しげな視線など一切気に留めず、胸を張って会場へと歩を進めた。誰が自分を助けてくれたにせよ、この機会を無駄にはしない。この大会は必ず勝ち取ってみせる。会場の中は人でごった返し、趣向を凝らした美術品が所狭しと並んでいた。遥香は自分のブースを見つけると、ヒスイで彫られたハスキー犬を最も目立つ場所に、そっと大切に据え置いた。照明の下で愛嬌たっぷりの彫刻の犬は、周囲に並ぶ古風で雅致な作品群とは鮮やかな対照をなし、多くの人々の好奇の視線を集めていた。会場の隅の目立
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