〈side Takito〉「それで、まだ半分以上ローン残ってたのに、あの時計渡してきたってわけ?」 紗加はあきれ顔で言った。「いや、怖そうなおばちゃんが食ってかかってくるから、信じてもらうにはそのぐらいしなきゃと思って」「あきれた。今ごろ、質屋の店頭に並んでたかもしれなかったわね。あなたの大事な〝オーシャンクロノグラフ〟」「いや、そんな子じゃないからさ。えーと、文乃ちゃん、は」「ずいぶん自信満々だこと」 「なんか、目を見てたら感じるもんがあったんだよ。ピピピって」「まあ、でも結局、あなたの勘に狂いはなかったってことか」今日は土曜日。あの教会で文乃を見つけてから6日。昨日、待ちに待った電話がかかってきた。彼女は絶対来ると信じていた。 何故だかわからないが自信があった。しとやかで汚れを知らない聖女。 聖歌隊の衣装で歌っている文乃の印象だ。 すっと伸びた背筋が美しかった。そういう雰囲気の子には最近めったにお目にかかれない。近ごろは、素人でもモデルみたいに綺麗な子が多いけど、整えた外観とは裏腹に内面にはどろどろした欲望が煮えたぎっているのを感じることも多い。あれが欲しい、これが食べたい、あんな男と付きあいたいっていう欲望だ。
Last Updated : 2025-06-23 Read more