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Lahat ng Kabanata ng その色は君への愛の証: Kabanata 11 - Kabanata 20

21 Kabanata

第11話

「本条刑事! あの……僕、何でも協力しますんで、犯人捕まえてください! お願いします!」僕はそう言って頭を下げた。「そう言ってもらえるのはうれしいわ。でもね、危険だから一般人を捜査に加えることはできないの。ごめんね」本条刑事がきっぱりと言った。彼女の言葉はもっともだし、僕にできることなんてないのかもしれない。それでも、このままじっとなんてしていられない。「でも……!」と、僕は食い下がった。「君が通う高校周辺の巡回は強化するし、捜査はきちんとします。それと、君の登下校時に部下を護衛につけましょう」だから、ここは引いてほしいと、本条刑事が真面目な声音で言った。ここまで言われてしまっては、引き下がるしかなくて。僕は、渋々ながらもうなずいた。「情報提供、ありがとうございました。それじゃあ、これで」と、本条刑事は伝票を持って立ち上がる。「あ、先輩! 支払いはあたしが!」母さんが慌てて言うと、「ここは私が払うわ。また今度、お茶しましょう」と、本条さんは笑顔で去って行った。「何だか、かっこいい人だね」本条刑事のスマートさに、僕はそうつぶやいた。「そうだね」と、母さんがまぶしそうに目を細めながら言った。きっと、学生時代に彼女に憧れた人は大勢いただろう。たぶん、母さんもその1人なのだと思う。出入口を眺める母さんのまなざしを見て、僕はそう思った。「さてと、あたしたちも帰ろうか」母さんにうながされ、僕はうなずいた。帰宅して夕食を終えた僕は、バッグからブレスレットを取り出す。(どうか、本宮さんの意識が戻りますように)ブレスレットを握りしめて祈った。* * * *翌日。僕が家を出る時間に合わせて、スーツに黒いジャケットを着た男性がやってきた。その男性は、森脇(もりわき)謙吾(けんご)と名乗り、出迎えた僕と母さんに警察手帳を見せる。昨日、本条刑事が言っていた彼女の
last updateHuling Na-update : 2025-07-03
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第12話

「ごめんなさい、いきなり泣いちゃって」しばらくして、落ち着きを取り戻した僕は、本宮さんと森脇刑事に謝った。「謝らなくていいよ、それだけ安心したんだろうから。ですよね、本宮さん?」と、森脇刑事が本宮さんに同意を求める。「ええ。それに、謝らなきゃいけないのは、俺の方だしな。ごめんな、心配かけて」と、本宮さんが優しく僕の頭をなでる。久しぶりの感覚に、止まったはずの涙がにじんでくる。僕は、乱暴に涙を拭って、「本当だよ! めっちゃ心配したんだからな!」と、強い口調で言った。本宮さんは、真面目な声音でもう一度謝って頭を下げる。「でも、本当に無事でよかった」そう言って僕が微笑むと、本宮さんも優しい笑顔を見せた。「優樹君、あのことはいいのかい?」状況を見守っていた森脇刑事に言われて、僕は本来の目的を思い出した。「そうだった! 本宮さんを刺した犯人、捕まったよ!」「本当か!? それにしても早いな……」と、本宮さんは目を丸くしている。「優樹君のおかげです。彼の最大限の協力で、容疑者を逮捕できました」と、森脇刑事が告げる。「優樹が……。そうですか、ありがとうございました」本宮さんが森脇刑事にお礼を言うと、「いえ。お礼なら、優樹君に言ってあげてください。今回の功労者ですから」と、森脇刑事が言った。本宮さんはうなずいて、「ありがとな、優樹」と、僕の頭をなでる。それがとてもうれしくて、僕は思わずにやけてしまった。「それはそうと、本宮さん、いつ退院できるの?」本宮さんのぬくもりを感じながら、僕はそうたずねた。「いつになるかな? とりあえず、傷口が塞(ふさ)がって、体力がある程度戻ってからになると思うけど」と、答える本宮さん。彼の焦げ茶色の瞳には、なぜそんなことを聞くのかという疑問が浮かんでいた。「実は、ちょっと計画してることがあってさ。それには、本宮さんの参加が絶対条件なんだよね」僕は、具体的なことは伏せてそう言った。勘のいい本宮さんのことだから、すぐに気づいてしまうだろう。だとしても、それはそれでよかった。多少なりとも楽しみにしてもらっていた方が、僕としてもうれしかったりする。「それは、楽しみだな。じゃあ、退院日が決まったら連絡するよ」「うん! 森脇刑事も来てくださいね!」「え、俺も? いいのかい?」「もちろん! 主
last updateHuling Na-update : 2025-07-04
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第13話

僕と父さんが会場のセッティングをしていると、来客を告げるドアベルが鳴った。直後、「こんにちはー!」と、元気のいい声が聞こえる。振り向くと、遼が紙袋を持ってやってきた。「遼君、いらっしゃい。君も本宮君の退院祝いに?」と、父さんが出迎える。うなずく遼は、紙袋を持参している。本宮さんへのプレゼントだろう。「遼、早くない?」時計を確認すると、午前9時40分になったところだった。「いや、なんとなくじっとしていらんなくてさ」と、苦笑する遼。彼もまた、今日を楽しみにしていたようだ。「優樹。ここはいいから、遼君とお菓子の準備してきなさい」父さんが穏やかに言った。見ると、会場のセッティングはほぼ終わっていて、料理や飲み物を並べるだけになっていた。僕はうなずいて、遼と一緒に自宅へ向かう。キッチンに行くと、バターの甘い香りが、鼻腔をくすぐる。母さんがスイーツを作っていた。「母さん、セッティングできたよ」声をかけると、「じゃあ、そこにあるの運んじゃって! あら、遼君いらっしゃい」と、僕に指示を出しながら、遼を出迎えた。「こんにちは。今日は、よろしくお願いします」遼がそう言うと、母さんはにやりとして、「ああ、ビシバシ働いてもらうよ」なんて、冗談めかして言った。僕たちは、さっそく出来立ての焼き菓子を店に運ぶ。大きめのバットいっぱいに、小さなフィナンシェとマドレーヌが並べられている。遼が持っているバットには、一口サイズの丸いドーナツがいっぱい入っていた。「やばっ。飯食って来たのに、腹減るっての」と、遼がつぶやく。「この後、いっぱい食べられるって」と、僕は笑いながら言った。店内に運んで、大皿2つにきれいに盛りつける。載りきらないかと思ったけれど、意外と全部、大皿の中に収まった。それをテーブルの中央に置いて、僕たちはまた自宅へと向かった。先ほど母さんが作っていたケーキと、僕が焼いたクッキーを店に運ぶ。ケーキは、小さめのサイズながらも、きちんとデコレーションされている。いつも店で提供しているものよりも、一段とかわいらしい。クッキーを盛りつけていると、「あれ? なんか、これだけ雰囲気違くねえ?」遼が、そんな疑問を口にした。きれいなフィナンシェやマドレーヌなんかと違って、僕が焼いたクッキーは形が不揃いだったりする。そのせいで、雰囲気が違
last updateHuling Na-update : 2025-07-09
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第14話

「優樹?」本宮さんに名前を呼ばれ、びくりと肩が震える。「ほら、優樹。がんばれ!」遼に背中を押され、「これ、本宮さんに持っててほしいなって……」僕は、おずおずと小さな包みを差し出した。本宮さんは小さくうなずくと、それを受け取ってくれた。不安と期待が入り混じる中、彼を見つめる。本宮さんは、包みをていねいに開けて中身を取り出した。「これ……」と、小さくつぶやいている。(やっぱり、気に入ってもらえなかったか)と、僕は肩を落とした。予想はしていたけれど、それでも胸の奥が少し痛い。僕が送ったものは、近くの神社で授かった厄除けのお守りだ。他の品物も考えたけれど、どうしても本宮さんにはこれを持っていてほしかった。「優樹……!」本宮さんはそうつぶやくと、いきなり僕を抱きしめた。「……え? ちょっと、本宮さん!?」突然のことに動揺する僕。周囲がざわめく音が聞こえる。「優樹、本当にありがとう。めちゃくちゃうれしいよ」抱きしめてくれる彼の腕の強さと言葉に、僕は心の底から安心した。と同時に、耳元で囁く本宮さんの甘く優しい声音に、鼓動が一気に速くなる。「本宮さん、みんな見てるから……」恥ずかしいと、僕は小声で告げる。けれど、本宮さんは僕を抱きしめたままで、「ごめんな。俺が不甲斐ないばかりに、優樹に危ない役目を負わせちまって。本当にごめん」と、謝る。僕は小さく息をつくと、彼の背中に両腕を回して、「本宮さんが不甲斐ないだなんて、思ってないよ。あの時も言ったけど、僕のこと助けてくれたでしょ? それに、さっきも言ったけど、犯人のことが許せなかった。だから、囮になったんだ。本宮さんが謝る必要なんて、どこにもないんだよ」と、優しく言った。すると、本宮さんは無言のまま強く僕を抱きしめた。幸せを噛み締めていると、「親の目の前でいちゃつくなー」と、母さんが棒読みで言う声が聞こえた。(そうだった!)僕は慌てて本宮さんから離れようとする。けれど、本宮さんは離してくれなくて。「いやー、優樹がかわいくて、つい」なんて、言っている。「たしかに、優樹はかわいい」怒るのかと思いきや、母さんがそう言って肯定する。「親バカっすねー。でも、わかります。優樹って、かわいいとこありますよね」と、遼もそんなことを言い出した。「ちょっ……! 遼まで何言って
last updateHuling Na-update : 2025-07-10
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第15話

本宮さんの退院祝いも無事に終わり、いつも通りの毎日をすごしていた。もちろん、週3回の本宮さんの授業も再開している。ようやく、日常が戻ってきたと実感できた。10月最終日の今日、両親が営む喫茶店ムーンリバーでは、ハロウィン限定スイーツを販売している。毎年この時期になると、店で余ったかぼちゃのスイーツが食卓に並ぶ。今年は、ハロウィンが月曜日ということもあって、本宮さんと一緒にかぼちゃのプリンを味わっていた。なめらかな舌触りと、濃厚なコク、そしてかぼちゃの甘味が口の中いっぱいに広がる。ほろ苦いカラメルソースが甘味を引き立ててくれていた。「優樹はいいな。毎年、こんなに美味いかぼちゃのデザート食えるんだから」と、本宮さんがうらやましそうに言った。「へへっ、いいでしょー。あ、でも、弊害もあるよ」僕がそう言うと、「弊害って、どんな?」と、本宮さんは小首をかしげる。「市販のデザートが食べられなくなる」「あー……それは、たしかに問題だな」納得したように本宮さんが言った。「でも、本宮さんのお手製なら、料理とかデザート関係なく、苦手なものだって食べるからね!」と、僕は早口に言った。「わかってるよ」と、本宮さんは笑いながら、僕の頭をなでた。それだけなのに、心がぽかぽかしてくる。「そういえば、来月は何があるか知ってる?」にやけながら、僕がたずねた。「優樹の誕生日だろ?」本宮さんが即答する。忘れたふりでもするのかと思っていたけれど、案外そうでもないらしい。「プレゼント、何がほしい?」と、直球でたずねてきた本宮さん。「えっと……」とくに考えていなかったから、答えに詰まってしまった。本宮さんは、優しいまなざしで僕を見つめる。催促するわけではなく、僕の答えをじっくり待ってくれるようだ。「そうだなー……本宮さんと一緒にいられれば、それでいいかな」しばらく考えた末に、僕はそう答えた。物欲がないわけではないけれど、直近でほしいものが浮かばない。それに、今の僕には、本宮さんとの時間が何よりも勝るものだった。「そっか。じゃあ、何か考えとくよ」そう言って、本宮さんは微笑んだ。* * * *11月に入り、冬の足音が徐々に近づいてくる中、僕は浮足立っていた。「なんか機嫌いいじゃん」と、一緒に弁当を食べている遼に言われるぐらいだ。「そりゃあね。今
last updateHuling Na-update : 2025-07-11
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第16話

たしかに、本宮さんから弱音を聞いたことがない。どんなことも前向きにとらえようとしているのかと思っていたけれど、実際にはそうではないらしい。「かっこつけたがり……」僕がその言葉をくり返してつぶやくと、「片桐! 何、勝手なこと言ってんだよ!」慌てたように、本宮さんが言った。「だって、本当のことだろ?」片桐さんがそう言うと、図星なのか、本宮さんは黙ってしまった。「まったく、誰かと思ったら片桐が来るとはね」と、母さんが3人分のカフェオレを持ってやってきた。片桐さんが、「どうも」と会釈をしている。「亜紀先輩。俺たち、まだ何も頼んでないんですけど……」本宮さんが言うと、「長くなりそうだからね、サービスだよ」と、母さんが珍しいことを言っている。店内で飲食する場合は、身内だろうが容赦なくお代をいただくというのが、母さんのモットーだったはずだ。「ああでも、後で本宮に支払う分から引いとこうかね」と、思い出したように言い置いて、母さんは仕事に戻っていった。「それじゃあ、サービスじゃないじゃん」母さんの足音が聞こえなくなってから僕がぽつりとつぶやくと、本宮さんが小さくため息をついた。片桐さんだけが、よくわからないといった表情をしている。僕は、本宮さんが僕の家庭教師をしていることを話した。「なるほど。それで恋仲にもなった、と」納得したらしい片桐さん。そんな片桐さんを横目に見ながら、面白くなさそうな顔で本宮さんがカフェオレを飲む。どうせ、自分に支払われる金額から引かれるのなら、飲まなければ損だと思ったのかもしれない。「あの、本宮さんがかっこつけたがりで、相手との関係性がこじれがちだっていうのはわかったんですけど、それと片桐さんがここにいる理由って、何か関係あるんですか?」つい、きつい言い方になってしまった。でも、片桐さんがどうして関わってくるのか、本当にわからない。本宮さんがデートのことで相談したからといって、今ここにいる必要はないはずだ。「そう睨まないでくれよ。俺は、君たちの仲を壊したいわけじゃない。むしろ、このままずっと続いてほしいと思ってるんだ」と、片桐さんが苦笑しながら言った。僕が疑いのまなざしで見つめていると、「信じられないのも無理ないか。でもね、俺は、こいつに恋愛感情なんて持ってないんだ。友達としては、つき合いやすい奴だけ
last updateHuling Na-update : 2025-07-17
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第17話

「本宮さんってさ、キスはしてくれるけど、それ以上のことはしないじゃん。もしかしたら、そういうお相手がいるのかなって思ってさ」言葉を濁しながら話すけれど、彼にはそれで充分に伝わったらしい。「それで、優樹の他にふさわしい人がいるんじゃねえかって考えたわけだ?」確認するように問いかける本宮さんに、僕は素直にうなずいた。「残念ながら、そういう相手はいねえよ。俺は、一目ぼれしてからずっと、優樹一筋だ」「え!? それじゃあ……!」反射的に本宮さんを見る。真摯で真っ直ぐな瞳に絡め取られ、僕は金縛りにでもあったかのように動けなくなった。自分の鼓動がうるさい。心臓が爆発してしまうのではと思うほど、胸が苦しい。「ごめんな。今は、それ以上はしないって決めてんだ」表情を変えずに、本宮さんはそう断言した。期待に胸を弾ませていたのに、一気にどん底に叩き落される。「どうして……?」視界がぐにゃりと歪んだ気がした。本宮さんのかっこいい顔が、次第に滲んでいく。「泣くなって。ネガティブな理由じゃねえんだ」慌てた本宮さんにそう言われるけれど、僕の涙は止まらない。でも、彼の言葉はきちんと聞いておきたいから、声を出して泣くのはどうにか我慢する。「優樹を本気で愛してるから、大切にしたいんだ。一時の欲情で抱いちまったら、優樹を傷つけることになるし、俺も後悔すると思う」本宮さんは一旦、言葉を切った。本宮さんの言葉が、僕のことを想ってのものだというのは理解できる。でも、僕の心の中のもやもやは、一向に消えてくれない。(本宮さんになら、傷つけられてもいいのに……)そんなことを思うけれど、言葉にするには勇気が足りなかった。「それに、俺の歳で高校生に手を出したら、捕まっちまうからな」と、おどけたように告げる本宮さん。いたずらっ子のような笑みを浮かべている。たしかに、もしそれが世間に知られたら、たとえ合意だったとしても本宮さんが逮捕されてしまう。それは、さすがに嫌だ。
last updateHuling Na-update : 2025-07-18
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第18話

(つい……じゃないよ。しんどいって、これ……)息を整えながら、そんなことを思う。体が、妙に熱い。自分の弱点を知られてしまったことだけが原因ではない。確実に、本宮さんの妖艶で甘い声音のせいだ。抗議しようとしたけれど、後ろを振り向くことができない。本宮さんに抱きしめられているからというのもあるけれど、あれだけで昂ってしまった自分が恥ずかしすぎるからだ。今、本宮さんの顔を見たら、確実に彼を求めてしまう。でもそれは、彼の『優樹を大切にしたい』という言葉を蔑(ないがし)ろにしてしまう気がした。「俺な、優樹がうちに泊まりに来てくれるなんて、思ってなかったんだ」と、本宮さんが突然、そんなことを話しだした。甘い声音だけれど、先ほどの妖艶さは鳴りを潜めている。「じゃあ、どうして誘ったの?」平静を装いながら僕がたずねると、本宮さんは軽く笑った。「どうしてだろうな? ……優樹に呼び出されて、一緒にいた男は誰だって聞かれた時、別れ話を切り出されるんじゃねえかって……正直、怖かった。優樹がそれを望むんだったら、大人しく身を引こうとまで考えてた」「そんな、別れるだなんて――! たしかに、あの時は嫉妬したし、本宮さんにイラッとしたのも事実だけど。でも、だからって別れたいなんて思ったことないよ!」僕は、反射的に本宮さんの方に体ごと向き直って言った。いつの間にか、体の妙な熱さは消えている。「そっか。ありがとな」と、本宮さんは優しく微笑んだ。僕たちは、どちらからともなく口づける。触れるだけの軽いキス。それだけで、心が満たされる。「ねえ。本当に、僕が本宮さんのベッド使っていいの?」僕がそうたずねると、本宮さんはもちろんと言うようにうなずいた。「でも、じゃあ本宮さんは?」「俺は、床で寝るから大丈夫だよ。使ってない布団もあるしな」「そんなの悪いよ! 僕が布団で寝る!」そう言った
last updateHuling Na-update : 2025-07-23
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第19話

動画配信サイトでホラー映画を観始めた僕たち。何の変哲もない日常風景から始まったそれを、僕は侮っていた。心霊的な怖さもヒトコワ的な怖さもなかったからだ。不気味な雰囲気を纏(まと)いながら、映画は無慈悲に進んでいく。途中から、僕は本宮さんの腕にしがみついていた。びっくり系のいわゆるジャンプスケアが多様されていたわけではない。得体の知れない恐怖に、小刻みな震えが止まらなかった。「優樹? 大丈夫か?」観終わった後、本宮さんに本気で心配された。僕は、ふるふると首を横に振ることしかできない。視界は、涙で滲んでいた。「ごめんな。まさか、優樹がホラー苦手だとは思ってなかったんだ」謝る本宮さんが、僕の頭をなでる。「こんな、怖いと思ってなかった……」と、僕は涙声で告げる。僕は怖がりな方だけれど、自分でもこんなに耐性がないとは思っていなかった。本宮さんが隣にいなかったら、たぶん途中でギブアップしていただろう。いや、そもそも観ていなかったかもしれない。「ちょっと待ってな」本宮さんは、何を思ったのか、そう言い置いてキッチンに向かった。しばらくして戻ってきた彼の手には、新たなマグカップが1つあった。「これ飲んだら、落ち着くと思うぜ」と、差し出される。素直に受け取った僕は、ふうふうと冷ましながら口にした。マグカップの中身は、温めたミルクセーキだった。卵のコクと牛乳の甘味が、口の中に広がる。その優しい甘さのおかげで、僕の心を支配していた恐怖は次第に消えていった。「本当にごめんな」と、本宮さんがしょんぼりしている。「本宮さんのせいじゃないよ。僕が、ホラー苦手だってことがわかったんだし。それに、美味しいミルクセーキも飲めたことだしね」と、僕が言うと、本宮さんはホッとしたように微笑んだ。時計を見ると、午後3時30分だった。そろそろ夕食のメニューを考える時間だ。「夕飯、何食べたい?」当然のように
last updateHuling Na-update : 2025-07-24
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第20話

夕食の途中で、電子レンジが、クッキーが焼き上がったことを知らせた。本当は、すぐにでも天板を引き出した方がいいのかもしれない。けれど、本宮さんお手製の回鍋肉を食べる手が止まらなかった。「美味しかったー! ごちそうさまでした!」と、僕が言うと、本宮さんが笑顔でうなずいた。「そうだ! クッキー、そのままなんだった!」焼き上がったクッキーの存在を思い出し、僕は食器を片づけがてらキッチンに向かう。電子レンジを開けると、シナモンの甘い香りが広がった。いい感じにきつね色に焼き上がっている。僕は、天板に乗っているクッキングシートごと取り出して、1回目に焼いたクッキーが乗っている大皿に入れた。焼き色は、2回目に焼いた方が濃いような気がする。それを持って、僕はリビングに戻った。「いい感じに焼けたよ」と、声をかける。「美味そうだな」と、本宮さんが顔をほころばせる。2人分のインスタントコーヒーを淹れて、クッキーに手を伸ばした。まだ温かい方はしっとりしていて、ほどよく冷めている方はサクッとした食感だった。どちらも、シナモンの味と香りが口の中いっぱいに広がり、とても美味しい。たしかに、以前作ったクッキーよりも美味しく出来上がっている気がする。「うん。マジでいい感じ」と、僕が満足気につぶやくと、「これ、店で出せるんじゃねえか?」と、本宮さんが言い出した。「いや、まだまだだよ。もっとクオリティ上げなきゃ。今のままじゃ、母さんの足もとにも及ばないし」僕は、そう言って肩をすくめた。「へえ? 亜紀先輩って、そんなにお菓子作りうまいのか」と、本宮さんは意外そうに言った。母さんは、仮にも夫婦で営んでいるカフェのスイーツ担当だ。お菓子作りは、それなりに上手だと言っていいと思う。それに、母さんが作るケーキ目当てで来店する客も少なくない。かくいう僕も、母さんが作ったケーキが一番美味いと思っているうちの1人だ。「でも、クオリティーを上げなきゃと思ってるってことは、優樹は亜紀先輩を越えるつもりなんだな?」「まあね。いつになるかは、わかんないけどさ。越えなきゃいけない相手だと思ってる」と、僕は静かに闘志を燃やす。「そういうことなら、協力は惜しまないぜ」と、本宮さんが言ってくれた。彼が味方になってくれるのなら、俄然やる気が出てくるというもの。何より、僕自身が、本宮さ
last updateHuling Na-update : 2025-07-25
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