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第11話

last update Last Updated: 2025-07-03 11:00:04

「本条刑事! あの……僕、何でも協力しますんで、犯人捕まえてください! お願いします!」

僕はそう言って頭を下げた。

「そう言ってもらえるのはうれしいわ。でもね、危険だから一般人を捜査に加えることはできないの。ごめんね」

本条刑事がきっぱりと言った。

彼女の言葉はもっともだし、僕にできることなんてないのかもしれない。それでも、このままじっとなんてしていられない。

「でも……!」

と、僕は食い下がった。

「君が通う高校周辺の巡回は強化するし、捜査はきちんとします。それと、君の登下校時に部下を護衛につけましょう」

だから、ここは引いてほしいと、本条刑事が真面目な声音で言った。

ここまで言われてしまっては、引き下がるしかなくて。僕は、渋々ながらもうなずいた。

「情報提供、ありがとうございました。それじゃあ、これで」

と、本条刑事は伝票を持って立ち上がる。

「あ、先輩! 支払いはあたしが!」

母さんが慌てて言うと、

「ここは私が払うわ。また今度、お茶しましょう」

と、本条さんは笑顔で去って行った。

「何だか、かっこいい人だね」

本条刑事のスマートさに、僕はそうつぶやいた。

「そうだね」

と、母さんがまぶしそうに目を細めながら言った。

きっと、学生時代に彼女に憧れた人は大勢いただろう。たぶん、母さんもその1人なのだと思う。出入口を眺める母さんのまなざしを見て、僕はそう思った。

「さてと、あたしたちも帰ろうか」

母さんにうながされ、僕はうなずいた。

帰宅して夕食を終えた僕は、バッグからブレスレットを取り出す。

(どうか、本宮さんの意識が戻りますように)

ブレスレットを握りしめて祈った。

* * * *

翌日。僕が家を出る時間に合わせて、スーツに黒いジャケットを着た男性がやってきた。その男性は、森脇(もりわき)謙吾(けんご)と名乗り、出迎えた僕と母さんに警察手帳を見せる。昨日、本条刑事が言っていた彼女の

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