「なあ、もし、ブラックホールに人が近づいたらどうなると思う?」『ブラックホールに人が近づいた場合、スパゲティ現象によって糸くずのように体が引き伸ばされます。また、ブラックホールの強い引力によって引き寄せられたら光すらも抜け出す事ができません。さらに、ブラックホールに近づきすぎると、歪みによって時間が永遠にも感じられる程に引き伸ばされます。よって、ブラックホールに、人が近づいた場合、糸くずのように引き伸ばされ、そこから離れる事もできずに、暗闇に囚われ、引き伸ばされた永遠とも感じられる時間を味わう事になるでしょう』「ふーん。だったら、そこに放り込みたい友人がいるんだけど、どうやればいい?」『そ、そんな恐ろしい事は考えないでください。しかし、現代の技術では、ブラックホールに到達する事が不可能に近いので、現実的ではないでしょうね。お友達の事は大事にしてくださいね』「だってさ。桐生、命拾いしたな」 朝からスマホのAIと会話を繰り広げる吉岡が、少し残念そうな声色で言った。「怖いこと考えるなよ。いや、悪かったよ。本当に悪かった。またアイリに会う機会もあるだろうから、その時はお前も来ればいいさ」 吉岡が物騒な事を考えていたのは、彼の最推しである『志津里アイリ』に会いに行った時に誘わなかったからだ。 推しが誰かの彼女であること。その事実を目の当たりにして、耐えられる気がしなかったための配慮だったのだが。かなり恨まれてしまっているらしい「……本当に次はあるんですかねえ?」「また、友達の練習試合見に行くからさ。その時にでも」「……」 吉岡は俺の言葉が信じられないようで、ジト目で俺のことを見ていた。……男のジト目なんて需要がないぞ。「おはよう。……今回は桐生くん、あなたに助けられたわ。本当にありがとう」「おー、陽川。おはよう。別に俺は何もしてないよ。どちらかと言えば頑張ったのはそっちだ」 俺が視線を向けた先にいるのは隣の席に座る、変人ボッチ少女、滝沢凛である。 急に矛先を向けられて驚いたのか、凛は肩をビクンと大きく跳ねた。「エマから話は聞いたわ。……あなたとはいろいろとあったけれど、今回は本当に助けられたわ。ありがとうございました」 いつも強気なナイト様とは思えない態度で、あり得ない相手に深々と頭を下げる陽川。 違和感しかないな。「い、いえ、わ
Last Updated : 2025-08-05 Read more