All Chapters of 対人スキルゼロの変人美少女が恋愛心理学を間違った使い方をしたら: Chapter 41 - Chapter 50

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41話

 学校へ向かう道中は、特に何があるというわけでもなく、無事登校できた。 それは良かったのだけれど、俺の心中は穏やかではなかった。 矢野さんはお祭りに誘われた意味を理解していなくて、ただ断っただけで。 振られたと思っていたのは俺の勘違いで、矢野さんは俺を嫌っていない。 幾度となく枕を濡らし、繰り返してきた自己嫌悪、自問自答は全て無意味だったのだ。 つまるところ、まだ俺にはチャンスがある。ということになる。 その事実に気がついてしまっただけでも、胸の高鳴りは止まらない。 俺はこれからどうすれば良いのだろう。 天然な矢野さんにもわかりやすいように、もう一度アプローチをかけてみるべきだろうか……「おはようさん。いつも以上にぼうっとしちゃってどうしたよ?黄昏れるのは夕暮れ時だけにしとけー」 背後からやってきた人物に無粋な挨拶をされるが、邪険には扱わない。 今の俺はとても機嫌が良いのだ。「おはよう。吉岡君。今日はとても爽やかな朝だね」 吉岡は道端に落ちていた邪神像でも見つけてしまったかのように怪訝そうに目を細め言った。「お前……毒キノコでも食べたのか? そこらの公園なんかにも危険なのが自生してるらしいからな。 可哀想に。きっと幻覚作用が見える類の毒キノコを食べてしまったんだな」「んなわけあるか。拾い食いはしないように子供の頃から躾けられるとるわい」 うちの母親はそこん所はしっかりしてるのだ。もちろん他の躾もしっかりされている。 ……訂正しておかないと後が怖いからね。「そりゃよござんした」 吉岡は謝罪する事はなく、当たり前に自席に座り、体を俺のほうに向けた。 そんな態度を見て、見逃してやろうと思っていた気持ちが変わった。これは言わなければなるまい。「お前さ、俺に謝らなきゃならないことがあるんじゃあないのか?」「はて?」 吉岡は悪びれる事なく、今朝の言い訳をしようともしない。「矢野さんから、お前も一緒に登校してくれるように頼まれていたよな?」 吉岡は悪びれる様子もなく答える。「特に何もなかったんだろ?朝こっ早くから押し掛ける暇人もそうは居ないだろうよ。それぞれ学校やら、仕事やらがあるだろうしな」 何もなかったから問題ないだろうで押し通そうとしているが、それとこれとはまた別の話だ。「何かあってからじゃあ遅いだろ。 それに
last updateLast Updated : 2025-07-25
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42話

 次の休み時間。横島先生の呼び出しに応じる形で生徒指導室へ向かった。 滝沢の不気味な笑顔(普段からそうなのだけれど)に見送られるかっこうで教室を出た。 滝沢の様子からしてもまた、新たな厄介事だろうか。 少し辟易とした気持ちを抱えつつ、生徒指導室の扉をノックすると、凛々しい返事が返ってきた。「入れ」 失礼しますと断りを入れてから扉を開くと、普段教室で見せる、たくましいイメージを受ける横島先生が腕組みをしながら、こちらをまっすぐに見ていた。  どちらの姿も知っているとやり辛いな。……というか、どちらが本当の姿なのだろう。知りたいけど知りたくない。 入って扉を閉めた瞬間、横島先生はへなへなとクネクネと、実際にはポーズを変えていないのだけれど、そういったイメージを受ける雰囲気に変わった。 目つきの鋭さも消えうせた。「もう、いいから、早くそこの席に座りなさい。ずっと待ってたんだから!」 この豹変ぶりはいつ目の当たりにしても慣れない。 いつか慣れる日はやってくるのだろうか…… 横島先生の正面のパイプ椅子に座り、胸のボタンを一つ開けてから質問をした。 「なんです?また滝沢に関する問題ごとですか?」 横島先生は身を乗り出して、上半身を折りたたみテーブルに手をつくと、ちょいちょいと手招きをした。 自らの耳を指さしている所を見るに、耳を貸せという事なのだろう。 それに応じる形で、耳を横島先生の方に向けると、横島先生も俺の耳元に口を寄せる。 周りには聞かれたくない、内緒話ということか。 問題事なのはこれで確定したようなものだ。 ほんの僅かに心の準備をして話を聞く体勢に入ると、何を思ったのか、横島先生は俺の耳にフーと生暖かい息を吹きかけた。「ちょちょちょちょっと!なにするんですか!」 あまりに驚いて身を引いてしまった。 背中の、いや全身に鳥肌が浮かんでいる。「冗談よ。少し緊張しているみたいだったから、緊張をほぐしてあげたの」  ウインクのおまけつきだった。 あなたがやると冗談にならないから、やめてくれませんかね。そんなこと本人には言えないけど。「勘弁してくださいよ。本当に」「大丈夫。今度はちゃんと話すから」 もう一度手招きをされて、今度こそはと耳を寄せる。「フー」 全身に寒気が襲う。足の先から頭の先まで風呂上がりの犬のよう
last updateLast Updated : 2025-07-26
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43話

「……どうして、それを?」 先ほどまでのやり取りを踏まえて、どうせ嘘をついても見破られるだけだと思って、俺は否定しなかった。 それに、陽川がストリーだということが横島先生にバレた仮定して、そんなに大事になるとも思えない。 俺を信じて(なし崩し的に)話してくれた陽川には申し訳ないけれど。「そう。やっぱり本当なのね」 俺が肯定する姿を見て、少し神妙な面持ちを見せると、一つ頷いてから続けて口を開いた。「凛から聞いたのよ。陽川さんを助けてあげて欲しいって」 陽川が自らの秘密を打ち明けたあの公園には、不審者として滝沢も居た。 どうやら俺が気がついていなかっただけで、盗み聞きされていたってことか。 でも、これは滝沢のファインプレーかもしれないな。 きっと、陽川サイドから学校側に助けを求めることはしないだろう。 でも、滝沢にも肩入れする横島先生なら────「なるほど……何となく話が分かってきました。でも少しホッとしました。横島先生なら陽川のことなんとかしてあげられるでしょうし」「うーん」 横島先生から返ってきた反応はあまり芳しいものではなかった。どちらかと言うと、面倒事が増えてしまったと考えたとも取れるような反応だ。「横島先生?」 横島先生は腕組みをして考えるように目をつむり、生徒指導室内に沈黙が広がっていく。「……横島先生?」 少し待っても話し出す気配のないことに痺れを切らして、俺は再度名前を呼んだ。「……それは難しいかも。今朝、職員会議があったの。昨日の放課後、うちの生徒が配信行為をしているって匿名の電話が入ったのよ。それだけでも指導の対象になるかもって話だったのに、校門前にあんなに人を集めてしまったでしょう?近隣からも苦情の電話がたくさん入ってね……下校する関係のない女子生徒が声をかけられたり、足止めさせられたり、怖い思いをしたっていう子もいたのよ」 昨日、陽川が絡まれた時のことを鮮明に思い出した。あのようなことが、他でも起こっていたのか。「今日、警察にも相談をして、パトロールを強化してもらったり、私たちみたいな体力のある若手で集まった人たちを散らすって話にはなっているわ」「そうですか。結構、大事になってしまっていたんですね」 俺が思っているより、よほど事が大きくなってしまっているようだ。 だけど、それと陽川を助けられない
last updateLast Updated : 2025-07-27
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44話

 放課後になると、どこからともなく続々とストリーファンと思われる群衆が校門前に集まっていた。 横島先生や他の体格の良い体育教員、若手の男性教員が群衆を追い払っている姿もそれと同時に見えた。 そんな様子を見た陽川は、つい先ほどまでいつも通りの物言いをしていたのに、口数も少なくなり肩にかけた鞄の紐をキュッとキツく握った。緊張感が高まっていることが傍目にもわかる。 少し顔色も悪いような気がする。 やはり、このまま現状ってわけにはいかないよな…… おぼろげに浮かんできた案を実行する他なさそうだな。とりあえず、今日の所は無事に家まで送り届けてあげなくてはいけないなと思った。 俺を先頭にして、背後に陽川、その両脇を吉岡と矢野さんで固める布陣で、校門を突っ切る。 校門を通り過ぎる時に、人払いをしている横島先生がこちらに向かってウインクをしていたような気がしたけど気のせいだろう。 ……気のせいであってくれ。 ─────────────────────── 無事、陽川を家まで送り届けた帰り道。 俺は矢野さんを呼び出した。 吉岡がいると話がややこしくなりそうだから、解散をしてからメッセージアプリの個人チャットで矢野さんにだけ、あの公園に来るようにメッセージを送った。 俺がこれから矢野さんにしようとしている話は、今週末に行われる秋斗の練習試合の観戦の誘いなのだけれど、デートの誘いという訳ではないのだ。 あくまでも目的は秋斗ではなく、秋斗の彼女にある。 吉岡を除外したのには、ここに理由がある。 秋斗に確認を取った所写真の美少女は『この娘は志津里アイリちゃんで間違いないよ』とのことだった。 そこでピンと閃いた解決法が一つ。 それは────「桐生くん、お待たせ。私に用があるってなにかな?さっき話してくれれば良かったのに」 俺が腰掛けるベンチの背後から声をかけられた。 夕暮れ時に響き渡る頻伽の声。 振り返らなくても待ち人だったとわかる。「ごめんね。さっきだとちょっと都合が悪かったんだ」 言いながら振り返り、矢野さんに隣に座るように促す。 矢野さんは走って来てくれたようで、少し息が上がり、顔が紅潮している。「なんかごめんね。慌てさせちゃったかな」「ううん。全然大丈夫!姫の事で相談があるんだよね?」「うん。そうなんだけど……」 どこから話す
last updateLast Updated : 2025-07-28
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45話

 迎えた週末。 俺たちは隣町の私立高校を訪れていた。 県立の流森高校とは違って、綺麗な校舎、充実した施設の数々に思わず瞠目してしまった。 秋斗のやつも、きっとこんな感じのところで学生生活を謳歌しているんだろうな。 すれ違いざまのランニングをしているだけの生徒すらもキラキラして見えてくるから不思議なものだ。 あまり目移りして、モタモタしているわけにも行かない。試合が始まってしまう。まずは秋斗を探さなければ。 校門横の守衛室で、サッカー場は一番奥にあると教えて貰っていたことだし、急いでそちらを目指すとしよう。「ねえ、桐生くん。なんか私たち、場違いな感じだよね」 決して、そんな事はないと思う。 今日の矢野さんは私服と言うこともあり、普段の百倍は魅力的だ。 オーバーサイズの黒いVネックセーターに、チラリと覗くデニムのショートパンツ。 足元は黒いブーツ。黒のニーハイとが織りなす絶対領域には、目を引きつけられずにはいられない。 たまに見ていたのを矢野さんに気が付かれたような気がして、慌てて目を逸らした。「そんな事は……ないと思うよ。矢野さん……可愛いし」「えっ……」 思わずキモい発言をしてしまったかもしれない。振られたのは勘違いだったとしても、誘いを断られたという事実は揺るがないのだ。 ああ。いっその事、綺麗に舗装されたコンクリートに頭を打ち付けて絶命したい。 そのくらい恥ずかしいと思ったのだ。「……ありがとう」 矢野さんも俺から視線を逸らし、困ったようにお礼の言葉を告げた。 もう二度と言わないので、これ以上嫌いにならないでください。 しばらく無言で歩いていると、気を使ったであろう、矢野さんが口を開いた。「そういえば前から思ってたんだけど、桐生くん私の事さん付けで呼ぶけどさ、エマでいいよ」「えっ?マジでいいの?」「うん。全然大丈夫だよ。もちろん、滝沢ちゃんもね」 矢野さんは振り返り、俺達から数メートル離れて歩く、学校指定ジャージで歩く少女にも声をかけた。 そこにいるのは、まごうことなき滝沢であり、どうしてこうなったのかは説明するのにかなりの時間を要する。 二人で説得できるか不安を覚えた矢野さん改めエマは、もう一人くらい追加で連れて行こうと提案をしてきた。 陽川は外に出るのを怖がってしまっているし、志津里アイリと直接会うと
last updateLast Updated : 2025-07-29
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46話

 ユニフォーム姿で爽やかに駆け寄って来るのは秋斗だ。 「よう陽葵。美女二人も引き連れちゃって、聞いてた話とちげーじゃねーかよ」  あまりにいつも通りの調子すぎて、逆にこっちの調子が狂うまである。 「TPOはわきまえてくれよ」 「TPO?なんだそれ」  ツッコミのない漫才モドキを見せられて、苦笑いを浮かべるエマ。不器用に微笑もうとする滝沢。対称的な光景だ。 「とりあえず彼女たちを紹介するな。こちらが、エマ。でこっちが滝沢」 「おお。エマちゃんに、滝沢さんねよろしく!俺は秋斗」  スポーツマンらしく秋斗は二人に握手を求めるが、その対応もまた対称的だった。  微笑みながら右手を差し出し、スムーズに握手を終えるエマに対して、恐る恐る秋斗の指先だけに触れ、強張った表情のまま握手最短世界記録でも目指しているのか、数秒もない、コンマ以下の世界の握手を決めてみせる滝沢。  誰に対してもフラットに接する秋斗も少し戸惑ったのか眉尻を下げた。 「挨拶も済んだことだし、とりあえず案内するよ。こちらです」  秋斗はわざとらしくお辞儀をすると、掌で行く手を指し示した。  そちらに向かって歩き出すと、秋斗は俺の手を引いて、肩を組んできた。  秋斗の方が身長が大きいから、傍から見たらかなり不格好に見えるだろうな。 「陽葵やるじゃんかよ。どっちもめちゃくちゃ美人じゃないの。で、どっちが本命なんだい?」 「あのな、どっちも本命とかじゃないから。そういう関係じゃないんだよ俺たちは」  後ろにいる二人をくっつける為に奔走しているなんて口が裂けても言えやしない。 「休日に親友の練習試合を見に来るのに連れてきといてそりゃないだろうよ。……まあ、今はそういう事にしといてやるよ」  そう言うと、秋斗は俺から離れて数歩先を歩く。  そして、今日の試合はスタメンで出るから応援をしてほしいこと、向こうで彼女が待っていることなどをペラペラと話していると、サッカー場に到着をした。 「凄いなこれ」  思わず声が出てしまった。  ナイター施設も整っているようで、夜間照明がコートの左右の六ケ所に設置されている。高校内に併設されているサッカー場なのに、ベンチ上二階に観客席まである始末。  途中に見えた野球場、テニスコートもかなり立派な物だった。  これが有名私立高と公立高の違いなの
last updateLast Updated : 2025-07-30
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47話

「はじめまして。秋斗の友人の────」  初対面の相手に対して、自己紹介を遮ると言う行為はどれだけの失礼に当たるのだろうか?  この時、俺は初めてそれを味わった。 「あなたは別に挨拶しなくていい。興味ないから。そっちの可愛い二人の話なら聞いてあげてもいいけど」  俺は思わず苦笑いを浮かべた、あまりに尊大で、灰汁が強すぎるキャラにどう対処すればよいのか分からなかった。 「……なに?どっちも喋らないわけ?だったら私から、私は志津里アイリ。可愛いモノや整っているモノが大好き、彼氏はイケメンで可愛い笹川秋斗、あなた達二人は中々見どころありそうだから、私は好きよ。学年は一年で、あなた達とは同級生って事になるわね」  ショートの金髪がフワリと揺れてこちらに振り返る。  エライ美人だった。本当に同い年なのかと思ってしまうほどの色っぽさもあった。  左目の下にある泣きぼくろがそう見せるのか。はたまた彼女が醸し出す雰囲気のせいなのか瞬時に判断することはできなかった。 「私は、矢野エマ、こっちの子は滝沢凛ちゃん、そっちの男の子は桐生陽葵君よ。よろしくね」 「エマに、リンね。よろしく」  二人には目配せをしたあと、自らの左右の空席に座るように促した。滝沢がアイリの向かって右側にエマが左側に座った。  当然のように俺には何もない。    苦笑いを浮かべたエマが自らの横の空いている席をトントンと叩いて「桐生くんこっち」と誘導してくれた。  アイリはそんなエマの行動を咎めるような事はしなかった。ただ単に俺と話したくないだけなのかもしれない。 「今日は私の秋斗の活躍を見に来てくれてありがとう。彼を譲るつもりはないけどね」 「アハハ。大丈夫。とったりなんてしないよう」  困ったような笑顔で、エマは答える。滝沢はと言えば借りてきた猫状態で動きはガチガチだ。  アイリの方を見ようともしない。コミュ症発揮してやがるな。作戦はしっかり決行してくれよ。頼むぜ。 「横に居るのはあなたの彼氏?趣味悪いから、すぐにでも変えたほうがいい。なんなら私がお友達を紹介するよ」 「桐生くんは私の彼氏ではないけれど、とっても素敵な人よ。アイリちゃんのお友達も素敵なんでしょうけど、私じゃ持て余しちゃいそうだから辞退させて貰うわ」 「あらそう。もったいない」  エマが否定した事には食
last updateLast Updated : 2025-08-01
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48話

 試合終了。秋斗は当然のように上級生を差し置いての大活躍だった。 ワンゴール、ツーアシストと全ての得点に絡む活躍を見せ、試合の方も3-0の完封勝ちと完勝だった。 声をあげて応援していたアイリはご満悦な様子で、先ほどとは違い笑顔が弾けている。 試合が終わったこともあり、応援に来ていた観客がワラワラとはけていく。 残っているのは俺達をいれても数名。……人が少なくなるタイミングをずっと待っていた。「大活躍だったね。アイリちゃんの彼氏さん」「凄いでしょ!こんなのまだまだ序の口なんだから」「あんな彼氏さんがいて、とっても羨ましいよ」「そうでしょう。あなたの横に座る男じゃ到底無理な話なのだから、私が紹介する友人に乗り換えた方が良いんじゃないのかしら?」 得意気に語るアイリだが、これが作戦決行を告げる合図だったのだ。 交渉事をするときに、物事を潤滑に進める方法が心理学には存在する。 俺が知るだけで二つ。 一つはフットインザドアと呼ばれるもの。 これは、無難なお願いから初めて、少しずつ要求を大きなモノにしていくと断られ辛いのだ。 消しゴムを貸してくれと言われて貸し渋るやつの方が少ない。 そこから要求を大きくしていって、買いに行く時間が無いから明日まで貸してくれ、そして終いには『けっこう小さくなっちゃったから貰って良い』と聞けば気の弱い相手なら思わず頷いてしまうだろう。 そしてもう一つはドア・イン・ザ・フェイスだ。 これは先述した交渉術とは正反対のモノで、先に無理難題な要求を相手に押し付けるのだ。 当然相手は拒否するが、それだったらと、少しづつ要求の難易度を下げていく方法だ。  例えば、食事に誘いたい相手が居たとして、まずはデートのお誘いをする。ここで断られるのは織り込み済み。そこから少しづつ要求を下げていくのだ。 最初にした提案が、無意識に相手のボーダーとなり食事くらいならとOKを貰える確率が跳ね上がるのだ。 続けて断るのって難しいものだからね。 どう繋げるのかが難しいが、このどちらかを決行するしかない。 そのために、昨日、夜中まで滝沢と作戦会議をしてきたのだ。 リア充寄りのエマはなんとなく俺達に合わせられるだろうが、重度のコミュ症、滝沢にそれは不可能だからな。そっちに時間を割いた形だ。 まだ少しの時間しか接して居ないが、アイ
last updateLast Updated : 2025-08-02
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49話

「ぐすん」 秋斗に頭を撫でられながら鼻をすする姿は、先程まで見せた気の強そうな面影は全く感じさせない。 なんというか、大人っぽいと思ったあのアイリが、年齢よりも幼く見える。 しかしまあ、滝沢がしでかした事を考えると、同情の余地はあるな。 アイリが泣きじゃくるのも無理はない。俺がアイリだったらこの場から逃げ出してしまっているかもしれない。「で、どうしてこんなことになったんだ?」 試合終わりのユニフォーム姿のまま、アイリをなだめる秋斗は俺たち三人に疑問を投げかける。「いや、ちょっと話すと長くなるんだけど」「長くなってもいいから話せよ。陽葵はなんの意味もなく人を泣かせるようなやつじゃないってことはわかってるからさ」 秋斗……思わず秋斗に惚れそうになった。 やっぱりこいつ外見だけじゃなくて、なかみもイケメンなんだよな。なんで俺と友達してくれてんだろう?「実はさ────」 隠し事は無しで、陽川と言う同級生がいること、その子が最近ネット界隈を騒がせているストリーであったこと、そのせいで学校にストリーファンが押しかけて、下手したら退学の危機であることを包み隠さず話した。 その肩代わりをアイリにお願いする過程でアイリに失礼があったことも含めて。 言っていて、なんて身勝手な事をしようとしていたんだと恥ずかしくなった。「うん……なるほどね。陽葵たちが何をしたいのかは分かったよ。でもさちょっとショックかな」「な、何がだよ?」「事前に相談してくれなかった事、プラス俺の試合に応援に来てくれてると思ったのに、これのついでだったんだな」「たしかに相談するべきだったよな。ごめん。でも試合はちゃんと見てたし、応援もしてたよ!」「はい。私、秋斗さんの活躍、しっかりと見ていました。凄いカッコよかったです」 横からエマも口を挟む。「あ、あの────むー!」  滝沢が口を挟もうとした瞬間、何かを察したようにエマは滝沢の口を塞いだ。 その対応は間違ってないと思う。何かしでかしてからじゃあ取り返しがつかないことは、この世にはある。 実際、今がその状況の延長線なわけではあるが。「冗談だよ。……でも、まあ相談してほしかったのは本音かな」「本当にごめん……」「まあ、いいさ。もう済んでしまったことだしな。一緒に対処法を考えよう」 秋斗はそう言うと、きっと、そこ
last updateLast Updated : 2025-08-03
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50話

 アイリの提案してきた案はこうだった。 約束通り、自らがストリーの正体としてsnsで呟く。 そこでストリーは引退する事を公表する。自らの本業再開により活動が難しくなったためと理由も添える。 それプラス、関係ない各所に迷惑行為を働いているファン、アンチにはすぐにその行動をやめるように周知する。 事務所からは怒られるだろうけど、なんでも言うことを聞くと公言してしまった以上、志津里の女に二言は無いとのことだ。 なんとも男らしい、いや、女らしい不器用ながらもカッコいい生き方だなと感心してしまったのはここだけの話。『活動を休止してかなり立つし、プロモーションとしてはこの上ないわ。お金をかけずにやれるんだから感謝したいくらいよ』とのことで、 強がりにも聞こえるが、アイリは大きな胸をさらに張って、そう言ってのけた。 小さな頃から芸能界にいるだけあって、肝の座る具合が違う。『次は隠し事なく、俺の試合をちゃんと見に来てくれよ』 イケメンな秋斗は怒ることなく、俺たちにそう声をかけて送り出してくれた。 そして、なんやかんやあって、アイリと俺たち三人は連絡先を交換して、帰宅の途についている途中。 電車を乗り継いで、俺の最寄り駅より一つ手前で降り、いつもの公園近くでのこと。 今回の件は陽川に相談することなく、独断で俺たちだけで動いた結果であるため、これからどうなるかの概要を陽川は知らない。 これから説明と説得に向かわなければならないのだけれど、俺と滝沢はここでお役御免。陽川の家には向かわないこととなった。「姫の説得は私に任せて。本来なら、桐生くんや凛ちゃんには関係のないことなのに、ここまで協力してくれて本当にありがとう。姫からも絶対にお礼を言われせるようにするから。じゃあ、またね」 陽川のことだ。きっとエマの説得には簡単に応じるだろう。 俺たちがいれば、それだけ説得の難易度が増すだけだと思われるから、大人しく引き下がった。「じゃあまた来週、学校でな」「ば、バイバイ」「うん。またね。凛ちゃん。桐生くん」 滝沢は相変わらず不器用な笑みを浮かべ、後ろ姿のエマに手を振り続けた。 そして、背中が見えなくなった所で、滝沢に声をかけた。「ちょっと寄っていかないか」 俺が顎で指し示したのは、始まりの公園。 滝沢を大雨の中放置したあの公園だ。 滝沢は頷いて
last updateLast Updated : 2025-08-04
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