忍は、怒りを通り越して呆れてしまった。隼人の冷静沈着な態度に感嘆し、親指を立ててみせた。「分かったよ、鷹司社長。お前は冷酷なんだな。俺には真似できない。俺は月子さんを友達だと思ってる。あの喰いかかる勢いの静真に連れかれた月子さんは何をされるか分からない。見てられないし、心配で、テニスどころじゃない」忍は賢の方を見て言った。「おい、そこの山本社長、見てないでおまえが親友の相手をしてやってくれよ。俺は5分後に月子さんを迎えに行かなきゃならないからな」賢は笑みを浮かべ、ラケットを取り出し、地面を軽く叩いた。「続けよう。鷹司社長」忍は唖然とした。ちっ。上品ぶってんじゃねえ。どいつもこいつも、最低な奴だ。真面目なのは表向きだけ、実に図々しい。修也も何も言わず、携帯をいじっていた。忍は、なんて冷たい連中なんだと思った。みんな、どうしてこんなに冷血なんだ?前はこんなじゃなかった。みんな義理堅かったのに。隼人は長い間海外にいたので、賢とテニスをするのは久しぶりだった。そして、意外にも隼人の球についていくのがやっとだった。しかし、よく観察してみると、隼人の口元に笑みが浮かんだ。隼人はスイングに力を入れていた。ああ、焦ってるんだな。修也は彩乃にメッセージを送っていた。【静真って家庭内暴力するタイプ?】彩乃は【……どうしたの?彼が月子に何かしたの?見たの?】と返信した。【ちょっと気になっただけ】【月子から聞いたことないわ。静真がそんなことをするような男だったら、月子は3年も我慢してないわ。とっくに別れてる!】確かに、家庭内暴力は許せない。一度でも手を出したら、目が覚めるはずだ。しかし、本当にたちが悪いのは精神的な暴力だ。月子が彼を愛していることを知っていて、それを利用して、彼女をじわじわと追い詰めていたのだ。だから、傷だらけになって、やっと抜け出せるようになったのだ。修也はそんなことは知らなかった。しかし、静真がそこまで酷い男ではないと確信し、安心した。……月子は静真に引きずられるように休憩室に連れて行かれ、そこでやっと手を離された。ここまで来る間に、静真は冷静さを取り戻したようで、顔には何の表情もなかった。しかし、目線だけはいつもより冷たかった。ドアは閉まって
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