静真の他の友人と比べると、月子は一樹と一番連絡を取り合っていた。しかし、毎回連絡を取り合うのは静真のことばかりで、それ以外では特に他愛のない話をしたことはなかった。もしかして、Sグループで働いている件で、一樹に自分の考えを確かめるよう頼んだのだろうか?一瞬にして、月子はそんな考えを振り払った。たとえ退職を命じるにしても、静真は天音に軽く伝えるだけだ。だって、彼にとってそれはそれほど大したことでもないし、どうせ以前と同じように彼の言うことを素直に聞くと思っていたから、誰かにその一言を伝えさせればそれで十分だったのだ。だから、一樹にわざわざ来てもらう必要なんてないはず。それに、彼女まだ静真をブロックしていない――離婚届を出すときにだって連絡を取らないといけないのだから。静真は直接自分に連絡を取ることができるはずだ。月子が何も言わないのを見て、一樹は言った。「ちょっと話でもどうかなと思って。もし話したくないなら、コーヒーだけでも飲んでいけばいい。別に無理強いするつもりはないよ」月子と一樹は全くの他人というわけでもない。それに今は時間もあるし、特に深い意味もなく話をするくらい、構わないだろう。カフェ。一樹はアイスコーヒーを注文し、月子を見た。「同じものを」一樹は店員に微笑みながら言った。「アイスコーヒー、二つお願いします」アルバイトだろうか。まだ二十歳そこそこに見える、とても若い店員だった。一樹の微笑みに顔を赤らめ、慌ててその場を離れた。一樹が振り返ると、月子に見つめられているのに気が付き、思わず一瞬体がこわばった。まずい、うっかりしてた。「あれだな、ついいつもの習慣で、女性にはにこやかにしてしまう癖があって」「分かってる。ナンパしてるんでしょ」一樹は言葉に詰まった。本当は、クールな振りでもしたかったのだ。「別に、そんなつもりはないんだけど」月子は不思議そうに彼を見た。一樹が少し落ち着かない様子なのはなぜだろう?以前はどんな冗談も平気で言っていたのに。「いや、わざわざ説明しなくても大丈夫だから」一樹は視線を落とし、いつものチャらけた態度を装いながらも、内心ではひどく後悔していた。そして、心臓が激しく高鳴っていた。昨日のチャリティ晩餐会での胸の高鳴りは、ただの生理現象、
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