天音も、ここまで事態が悪化するとは予想していなかった。だが後悔はしていない。もし彼女が手を下さなければ、竜紀は足をへし折られていたかもしれないのだ。あの愛人の子は、天音の想像を絶するほど手口が狡猾で悪辣だった。一番の被害者は竜紀だ。本来なら何不自由なく暮らし、父親との関係も良好だったのに、突然外から訳の分からない競争相手を連れ込まれたのだ。自分の正当な居場所を奪おうとするだけでなく、命まで狙ってくるような男だというのに、父親は完全に竜紀の味方をしてはくれなかった。その愛人の子が「優秀」だという理由だけで、父親は彼を手元に残すことを黙認したのだ。竜紀にとって、無条件に尊敬する父親からのこの仕打ちは耐え難いものだった。幸せなシャボン玉が突然弾けてしまったようなものだ。信じていた父親が自分を全力で守り、支持してくれるわけではないと知った時の、子供としての絶望は計り知れない。その爆発的な苦痛のせいで竜紀は完全に精神のバランスを崩し、あわやあの愛人の子に本当に殺されかけたのだ。幸いにも、彼には天音という強力なバックがいた。天音は冷酷な決断力とえげつない手段、そして異常なまでの反射神経を持ち合わせている。最終的に、あの愛人の子は片目を潰され、この後継者争いに敗北した。当然、竜紀の父親は激怒した。ここまで来るとさすがの天音も一人では収拾がつかず、自分の実家である入江家を巻き込むしかなかった。天音の肝の据わり方と容赦のなさは常軌を逸している。だからこそ、ここまで大事件に発展してしまったのだ。静真は事の顛末を知っても、天音を責め立てることはしなかった。もちろん、彼が直接この件の交渉に出馬することになったため、天音には「これ以上首を突っ込むな。あとは俺がすべて片付ける」とだけ言い渡した。事態は瞬く間に処理された。玲音は竜紀の父親を巧みに宥めすかし、竜紀自身にも一切のお咎めが及ばないように手配した。あの愛人の子に関しては、片目を失ったことでその傲慢な勢いも削がれ、当分の間は身動きが取れなくなった。竜紀自身も、今回の骨肉の争いを経て性格が大きく変わった。以前のようなお調子者の態度は影を潜め、見違えるほど沈着冷静に物事に対処するようになった。とにかく、結果だけ見れば万々歳だった。しかし代償として、天音は実家から「軟禁」の処分を下された。
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