結衣ははっとした。「あなたは何年も誰とも付き合わず、誰のことも好きにならないなんて、もしかして、そういうとこに問題があるんじゃないか?早く言えよ。お医者さんを紹介してやる。他の女性に迷惑をかける前に」隼人の顔色はどんどん悪くなっていき、結衣を睨みつけた。「余計なお世話だ。親として、少しは立場をわきまえてくれよ」結衣は笑いが止まらなかった。隼人が子供の頃からこんな冷淡な様子で、まるで感情がない人間みたいだったのを思い出した。そして尋ねた。「わざとこういうキャラを演じてるの?それとも、恥ずかしくて言えないだけ?何を恥ずかしがる必要があるの?私はあなたの体のこと心配してるだけなのよ!」ここまで言われると、隼人は何も言えなくなった。隼人と結衣はそれほど親しくはない。しかし、結衣は図々しい性格で、会えない時は年に一度電話をかけるだけで、それ以外は放っておくくせに、会うと一方的に親しげに振る舞い、馴れ馴れしい。ただ彼女の行動は、隼人の堪忍袋の緒を切らせるほどではなかった。いつも隼人を怒らせそうになると、すぐに態度を改めてくるのだ。それは彼女が月子が静真の元妻であることを嫌がる一方で、隼人との交際を応援しているのも同じだった。ことある度、隼人は怒りたかったが、十分な理由が見当たらなかった。道理で結衣は忍を息子同然に可愛がり、忍も結衣の子分になることを喜んでいるわけだ。二人とも似た者同士だ。「考えすぎだ」隼人は冷たく言い放つと、踵を返して立ち去った。実の息子に冷たい態度を取られた結衣だったが、怒るどころか、隼人がムキになっているのを見て、逆に驚いた。親子として何年も一緒に過ごしてきたのに、隼人が意外と純情なことに今更ながら気づいたのだ。結衣は複雑な心境だった。彼女も過去は敏腕だったから、その教育のもとに育った隼人がこんな風になるなんてあり得ないと思っていた。もしかして、あの腑抜けな達也の性格の影響だろうか?そんなはずはない。隼人は達也より何倍も強い。これは間違いなく、自分の遺伝子を受け継いでいるから彼女にはその自信があった。そんな裏庭で隼人と他愛もない話をした後、結衣は誕生日会の会場であるリゾートホテルへと出発した。隼人と結衣が屋敷を出る前、入江家の親戚とふいに鉢合わせた。隼人はその親戚に目もくれなかっ
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