All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 551 - Chapter 560

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第551話

これにはかなりショックを受けたようだ。もし彩乃が告白してきたら、忍はきっと喜びのあまり笑いが止まらないだろう。数秒かけてこの事実を受け止めようとしたが、考えれば考えるほど、自分が惨めな男に思えてきた。本来なら自分の方がモテるはずなのに、隼人みたいな冷徹で硬派な男に先を越されてしまった。「本当に、少しもコツがないのか?」彼は歯を食いしばった。隼人は、自分の経験はそれほど楽なものではなかったと心の中で思ったが、それでも簡潔に答えた。「彼女が望むようにすることが一番だ」「それは分かってる。だが、彩乃は俺の顔も見たくないんだ。目の前にいるだけで迷惑がられるんだ。彼女の望むようにしたいのは山々だが、彼女が何を望んでいるか分かるか?俺が姿を消すことだ」忍は眉をひそめて言った。「なぁ、本当に理解できないんだが、俺はそんなに魅力がないのか?」「それなら、姿を消せばいい」忍は言葉を失った。「くそっ、もういい。お前には聞かない。そもそも俺たちは状況が違うんだから、経験があっても役に立たない」「共通点はある」忍は彼を見た。「誠実な愛情を示せば、彼女は必ずそれに気づいてくれるさ」忍は「愛情」という言葉をかみしめ、驚きの表情で隼人を見た。「結婚するつもりなのか?マジかよ?」忍は隼人より2つ年上だが、結婚なんて考えたこともなかった。今はただ彩乃と付き合いたいだけで、将来のことなど考えてもいなかった。だから、隼人と月子もきっとそうだろうと思っていた。付き合ってまだ数ヶ月、交際を始めてまだ一日しか経っていないのだから。そんなんで、隼人が結婚を考えるなんて、信じられなかった。「お前とは長年の付き合いだが、孤独死はしてほしくないとはいえ、結婚する姿は想像もつかない。正直に言うと、月子さんとも知り合ってから結構経つけど、彼女がお前に好きだとは全く感じなかった。友達であり秘書という態度だったのに、彼女が突然の告白するのにはかなり驚いた。そこには好きという気持ちがあるとは思うけど、だけど、どれほどのものかは分からない。それに月子さんと静真のことを考えると……もちろん、これを言ったのはお前に水を差したりしたいわけじゃないけど、ただ、今は結婚のことより、まずはちゃんと付き合ってみて、プレッシャーをかけすぎずに、今の時間を楽しんで、将来の
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第552話

一方、月子は彩乃がもっと突っ込んでくると思っていたのに、意外にも彼女は何も聞いてこなかったから月子は自分から聞いてみた。「気にならないの?」すると彩乃は目を上げて笑った。「もし相手が少しでも怪しいところがある人だったら、私だって黙っちゃいないけど。でも、鷹司社長だもの、彼は安心できる相手よ。だから、あなたも恋愛を楽しめばいいのよ。それに、あなたもあの人と付き合ってから、恋愛の喜びを知ったって言ってたじゃない」月子は頷いた。「本当に、全然違う」「それは良かった。二人を応援してるわよ。このままうまくいけば、もしかしたら、あなたの結婚式でブライズメイドができるかもね」月子はきょとんとした顔になり、少し複雑な表情を見せた。「結婚なんて、気が早すぎない?」「他にどんな可能性があるって言うのよ?付き合ったばかりなのに、別れることなんて考えてないでしょ。付き合った初日に、別れの日を決めるのなんて私くらいしかいなんだから」「私も実は結婚するつもりはないの」彩乃は少し驚いたが、すぐに受け入れた。「なるほどね」彩乃は隼人の方をちらっと見て、視線を戻した。「結婚する気がないなら、そのうち別れるしかないわね」月子は頷いた。「そうね。一生恋愛し続けるなんて無理があるし、隼人さんも、一生私なんかに時間を費やすわけないでしょうから、恋愛の結末は2つしかない。結婚するか、別れるかだから」「彼に、そのことを話すつもりなの?」月子もそのことについては考えていた。「今、話したら、別れを切り出されると思う?」彩乃は断言した。「それは絶対ないと思う」「じゃあ、彼に正直に話そう」彩乃は言った。「やっぱり、言わない方がいいわよ。まだ付き合ったばかりだし、先のことは分からないじゃない。そんなこと言ったら、せっかくの雰囲気も壊れちゃうじゃない。恋愛って、最初は気持ちが不安定なものよ。もしかしたら、今はそれほど好きじゃないかもしれない。でも、一緒に時間を過ごしていくうちに、もっと分かり合えるようになるかもしれないでしょ。今はそうやって愛情を磨いていくカップルも多いんだから。それに、将来、あなたの考えも変わるかもしれないし、もしかしたら1年も経たないうちに別れることになるかもしれないし。先の事なんて誰にも分からないんだから、今の時間を楽しめばいいのよ。ただ
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第553話

それを聞くと、月子の顔色はみるみるうちに変わった。「今、G市にいるんだけど、すぐ戻る手配をするね」月子の様子に気づき彩乃が尋ねた。「どうしたの?」月子は電話を切り、「私の祖母が母に会いたい騒いでいるの。すぐに戻らないと」と言った。それを聞いて、彩乃はすぐに対応した。「わかった。すぐに秘書にチケットの変更を頼むわ」遠くから月子の冴えない顔を見た隼人は、すぐに忍から離れて、近づいてきた。「何かあったのか?」月子は彼を見つめて言った。「ちょっと用があってすぐにK市に戻らないといけないの。今、チケット変更の手続き中よ」忍も近づいてきて尋ねた。「もう帰るのか?」月子は頷いた。すると、彩乃がちょうど電話を切ってから言った。「一番早いフライトでも2時間後になるみたい」月子は歯を食いしばった。理恵が祖母のそばにいるから、大事には至らないはずだ。彼女が心配しているのは、祖母が無理やりあの男に連絡を取ろうとすることだった。祖母は認知症になってから何年も経つから、母親が亡くなった時も、祖母はすでに意識がハッキリしていなかった。だから祖母に本当のことを話していなかったのだ。それに父親に連絡しても、ロクなことにならないのが明らかだから、月子は本能的にあの男と関わることを拒んでいた。この先も連絡を取ることはないでしょうし、一生会いたくないと思っているのだ。色々な考えが頭をよぎったその時、誰かに手を握られた。はっきりとした力強さを感じた。月子は顔を上げた。隼人は落ち着いた声で言った。「俺のプライベートジェットで、すぐに出発しよう」月子は2秒ほど呆然としてから、息を吐き出した。不思議とイライラしていた心が、急に落ち着いたように感じた。確かにあの男には会いたくない。でも、慌てることはない。彩乃と忍は後で出発することになった。月子と隼人はプライベートジェットで先にK市へ戻った。……3時間後、月子はようやくやすらぎの郷に到着した。隼人は車の中で待っていた。月子は車から降りると、急いで中へと入って行った。空港から来る途中、洵からメッセージが届いていた。祖母がまたボケ始めたから、そんなに急がなくても大丈夫だという内容だった。月子が祖母の部屋に着くと、理恵と洵がいた。月子は洵と目があった。彼の顔色は悪く、理
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第554話

一方で子供を預けられた綾辻成一(あやつじ ゆきと)は月子たちをレストランに連れて行き食事をさせた後、家には予備のベッドや日用品がないからと言って、月子たちをホテルに泊めるよう手配し、J市で数日ゆっくり観光できるようにと、多額の小遣いを渡してあげた。確かにその頃、成一は製薬会社の経営でとても忙しく、月子と洵がJ市に滞在した一週間の間、一緒に食事をしたのはたった三回だけだった。そして月子たちが帰る日には、自分が直接送ると言っていたのにも関わらず、結局は運転手に送らせたのだ。今では全国どこの薬局にも彼の会社が開発した薬が並んでいる。世間的には成功者として認められている男なのに、月子は彼の冷酷さと無責任さしか感じることができなかった。「お父さんに会いたくない」「彼と最後に連絡を取ったのはいつ?」「3、4年前」「あなたのお母さんの事件の後から連絡を絶ったのね。彼はあなたたちのことを、これっぽっちも考えていないのよ。会いたくないなら会わなくていい。私が何とかするから」それを聞いて月子は驚いた。「心配しなくていいから。私がちゃんと相手をしておくから」「これは……私へのご機嫌取り?」理恵は優しく微笑みながら言った。「月子、私を一体どんな人間だと思ってるの?私たちは家族でしょ。あなたと洵のことを大切に思わないわけがないじゃない。あなたのお母さんがいなくなった今、私が彼女代わりのようなもんでしょ」月子は過去の出来事を思い出し、この言葉に隠された皮肉を感じた。しかし、この件に関しては、彼女も洵も理恵の助けが必要だった。そして、月子もまた理恵と同じように表面上を取り繕う術を身につけていた。「ありがとう、おばさん」「そんなに他人行儀にしなくてもいいのよ?」月子は微笑んで言った。「もっと遠慮すればよかった」それを聞いて理恵は笑顔を消し、「もう、そんな風に言わないで。私が傷つくじゃない」と言った。「この方が、お互い気持ちよく過ごせるじゃないか」理恵の顔色が少し曇った。「もういい。この話はこれで終わり。おばあさんの容態はもう安定しているから、ここ最近は私が毎日様子を見に来るから、あなたと洵は心配しなくていいから」そういうと理恵は立ち上がり、「あなたと洵が私のことをよく思ってないのは分かってる。これ以上引き止めたって仕方ないでしょう
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第555話

その名字を聞いて、月子はドキッとした。ひょっとしたら父親のことを考えていたからだろうか。同じ苗字だったことで、彼女も少し警戒心を抱くことになった。遥はなぜ、自分からタレントを奪おうとするんだ?様々な厄介事が降りかかってきて、月子の心の中では怒りがふつふつと湧き上がっていたが、表情には出さなかった。「会社に戻ったら、改めて話しましょう」萌は、「分かりました」とだけ言って電話を切った。理恵は、二人をやすらぎの郷の玄関まで送っていた。「月子、洵。もうたいしたことないから、おばあさんのことは私に任せて。あなたたちのお母さんのことは、もう隠せないかもしれないけど、あなたたちのお父さんが来たら私が話すから、心配しないで。自分の仕事に集中して」洵は嫌悪感を露わにして言った。「お母さんがあんなことになったばかりなのに、もう新しい女を作ってるなんて、あんな人に父親になる資格なんてないだろ」「ずいぶんと生意気ね。それなら、彼が来たら、自分で話す」洵は眉間に皺を寄せた。「それでもいいけど、痛い目に遭わせないでいられる自信はないな」それを聞くと、月子は洵の腕を掴んで言った。「おばさん、この件はお願いね」理恵は、姪と甥に頼られるのが嬉しくてたまらなかった。「これからは、ちゃんと接してくれるだけでもありがたいけどね」洵は思わず、「買いかぶりやがって」と言いかけたが、月子がいたので、ぐっと堪えた。洵と月子は、とっくにあのクソ父親を存在から抹消している。彼が死んでも、葬式にも行かないつもりだ。顔を見るだけで、嫌な気持ちがこみ上げてくる。あのクソ父親がK市に来るなら、理恵に頼むしかない。洵はとりあえず我慢して黙っていたが、ふと視線の先に何かを見つけた。すると、洵は額に青筋を立て、月子を睨みつけた。「なんで、あいつもここにいるんだ?」理恵は不思議そうに聞いた。「誰のこと?」洵は振り返って言った。「あなたには関係ない」理恵は月子を見て、ふと彼女の首筋の薄い紅色の痕に気づき、驚いた。「月子、もしかして、恋人できたの?」月子は、理恵がこんなに鋭いとは思わなかったが、隠すこともないので、「ええ」と答えた。洵は隼人が好きではなかったが、ここで揉める必要もないので、彼はまた顔をそむけ、何も言わなかった。理恵は驚きを隠せない。「
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第556話

理恵は作り笑いを浮かべながら言った。「でも、せっかく彼氏が来てるんだから、紹介してくれてもいいでしょ?」月子は答えた。「ただの恋人同士よ。結婚するわけでもないし、家族に会わせるなんて彼にプレッシャーを与えたくないの」理恵は言葉を失った。なんだから、上手くあしらわれてあまり相手にされていないような気もするが、月子がもっともらしいことを言っているので、理恵も反論する理由が見つからない。洵は月子の話術に感心しながらも、彼はもう我慢の限界に達しいたので、険しい顔で、「行くぞ」と急かした。理恵もそれほど月子の彼氏に会いたいわけではなかった。どうせ若い恋人同士の遊びなんだから、気が合って付き合った程度だろうし、そこまで考えると理恵も興味を失って、彼女は月子たちを見送ると戻っていった。彼女が立ち去ると、洵はすぐに月子に言った。「付き合うなら勝手だが、俺の前でイチャつくな」月子は言い返した。「じゃあ、一人で帰って。私は隼人さんと帰るから」洵は顔をしかめ、歯を食いしばりながら尋ねた。「いつ別れるつもりなんだ?」「付き合ったばかりなのに、なんで別れないといけないのよ?」洵は月子の顔を見て、気に入らない様子で言った。「やっぱりな。恋人ができたら、弟である俺のことなんてもう構っていられないだろ!」月子は呆れて言った。「それとこれとで、なにが関係あるのよ?」「関係はないかもしれないが、俺は口喧嘩じゃお前に勝てないから駄々をこねるしかないんだ。それに俺は弟なんだから、気に入らなくても我慢してもらうしかないだろ。陰で何をしようと勝手だけど、俺の前ではやめてくれよな。さもないと、俺だって鷹司にいい顔できないから!」そう言うと、洵は月子の耳元で囁いた。「別れた日に、お祝いしてやるよ」そして、月子に睨まれながらも、洵は笑いながら身を起して、再度車の中にいる男を睨みつけると、自分の車に乗り込んだ。洵が去った後、月子も車に戻った。隼人は、多分月子が施設から出てきた時から見ていたのだろう。彼女がドアを開けると、ふいに彼の視線と目が合った。見つめられた月子は車に乗り込むと彼に「ごめん、ちょっと用事ができたから、一緒には帰れなくなったの。会社に行かないと」あの遥とは一体何者なのか、調べなければ。すると、隼人は運転手に会社まで送るように指
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第557話

ここ数年で、成一の製薬会社は時価総額数兆円規模の大企業に成長し、J市でも確固たる地位を築いた。まさに製薬業界の帝王といったところだな。その実力は二世代に渡って財を築いてきた入江家に、全く引けを取らないほどだった。月子は資料をめくりながら、歯を食いしばって遥の母親の資料ページをクリックした。高田愛美(たかだ まなみ)、成一の医学部の同級生だった。愛美は一度しか結婚していなくって、相手は成一だ。月子は大きなショックを受けた。翠のことを思い出し、様々な憶測が頭をよぎり、混乱した。マウスをクリックしてページを閉じ、青ざめた顔で頭を抱えた。その瞬間彼女の中で様々な感情が胸の中で渦巻いた。それらは憎しみ、恨み、そして怒りに満ちていた。彼女は自分の母親を裏切った成一を憎んだ。今までJ市とK市を行き来していたのは、別の家族を養っていたからだったのか。そして成一が、自分と洵のことを顧みず、もう一人の娘だけを可愛がっていたことを恨んだ。さらに母親と自分、そして洵に対して、成一がしたことへの怒りがこみ上げてきた。もしかして、母親はこのことを知って、うつ病と不安神経症になったのだろうか?そして、海に身を投げたのだろうか?月子は、母親が亡くなった後、すぐに他の女と一緒になったことが、成一の最も許せない行為だと思っていた。月子と洵は、それを受け入れることができず、幼い頃から実の父親との関係が希薄だったこともあり、連絡を取らないようにしていた。そう、連絡を取っていなかったのだ。彼女らが連絡を取らないと、成一もまた本当に、彼女らに構うことがなくなった。そう思っていたが、しかし、現実はもっと残酷だった。成一。この畜生。月子の様子に萌は驚いて言った。「大丈夫ですか?」「大丈夫です」月子は頭を抱え、低い声で言った。萌は心配そうに尋ねた。「何か分かりましたか?」月子は数秒間沈黙した後、顔を上げた。その目線は冷たく鋭かった。それを見た萌の胸はドキッとした。彼女は35歳で、月子より11歳年上だったが、それでも月子の醸し出す雰囲気は、彼女が今まで見たことのないほど強いものだったので、思わず圧倒された。「コーヒー一杯お願できますか?」月子は彼女に言った。萌は言われた通りにした。月子はコーヒーを一気に飲み干し、渦巻い
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第558話

それを聞いて萌は慌てて言った。「それは少し無謀……」月子は言った。「一年で達成するとは言っていません。でも、最終的には会社をそこまで到達させるつもりです」彼女は真剣な声で言った。「萌さん、私には野心があります。あなたにも野心を持ってほしいです。一緒に夢を叶えために手伝ってくれませんか?」月子の揺るぎない眼差しと、落ち着いた自信に満ちた口調に、萌は深く感銘を受けた。まるで卒業したばかりの頃の熱い情熱が蘇ってきたようだった。そして、彼女はすぐにこう答えた。「はい、社長、ついていきます」思い立ったら即行動。月子がそう言うからには、萌もそれに便乗して本気になってきた。千里エンターテインメントは、これからきっとスターライトエンターテインメントよりも輝かしい成功を収められる。月子の言葉で萌はそう確信していたし、その自信をもてるようになった。これまで萌は現状維持を望んでいたが、今は大きく勝負に出たいと思うようになった。萌は自身の手で何人も人気スターを育て上げた実績を持つ、業界でも有数の敏腕マネージャーだからこそ、スターライトエンターテインメントの現状に臆することないのだ。明確な目標ができたからには、どうすれば一歩一歩近づけるのかが彼女の中でも決心がついたのだ。それに、頼りになる月子がいるのだから。恐れることは何もない。やる気を振り絞って、やり抜くまでだ。……月子が何かを狙う時は、いつも慌てず用意周到に計画をねるタイプなのだ。ただ成功を収めるためには慌てて事を進めれば、必ず大きな落とし穴に陥ることになるだろうから、まずは目標を定め、段階を踏んで着実に達成していく必要があるのだ。決して先を急ぐことはなく、じっくり進んで行く。そうすれば、計画も崩れることなくスムーズに進むのだ。その後、二人は一時間ほどの会議で、千里エンターテインメントの今後の大まかな発展計画を立てたあと、月子は次の予定を確認した。その日の予定ではSグループに戻って、三年間一緒に過ごした同僚たちに別れを告げなければならない。恒例で、夜は送別会の予定があったのだ。送別会といえばお酒がつきものだが、月子は膝を怪我しているので、お酒は飲めない。だから、彼女は南に電話をかけ、送別会には行けないことを伝え、これでSグループに正式に別れを告げたことになった。
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第559話

隼人は身を起こし、月子を見下ろしながら言った。「ぐっすり眠るためにも、今は別々に寝た方がいいだろう」隼人はそう言いながら立ち上がると、月子も彼の手を引かれて立たされた。その間月子の顔はずっと真っ赤に染まっていた。片や、隼人の表情はいたって穏やかだった。しかし、体の反応は明らかに違った。その大きさを感じただけで、月子はドキドキして、内心でいざという時の光景を想像するとそれだけでもとても耐えられそうにないと思った。月子の頭には言葉にできない想像が浮かび、彼女は慌ててその思考を停止させた。「私……私は本当に……」隼人は優しく微笑んで言った。「分かってる」月子はトラウマを抱えていた上に、肉体的にも苦労すると思うとどうにも受け入れられなかった。それでも彼女は隼人に気遣った。「じゃあ、あなたはどうするの?」そんな月子に隼人は言った。「俺のことは気にしなくていい」そう言われ月子は思わずほっとした、今の彼女にはその気になれないのも確かに事実なのだから。それに、もしかしたら、自分が間違っていたのかもしれないと月子は思い直した。隼人も普通の男なのだ。恋愛をすれば当然興奮するだろうし、今まで他の女性と親密な関係になったことがないのなら、なおさらだ。そんな風にずっと冷静でいられるはずはないのだ。少なくとも、自分に対しては冷静にはなれないだろう。そう思って、月子は言った。「分かった。じゃ、ぐっすり眠るためにも、別々のベッドで寝よう」夕食後、書斎で仕事をして、それから身支度を済ませると、もう夜遅くなっていた。隼人は寝室に戻っていった。月子は彼の背中を見つめ、何か言おうとしたが、結局何も言えなかった。彼が隣の家に帰るのではなく、ただ自分の家の中で部屋にいくだけなのだ。ただ分かっていても、彼がいなくなることで急に寂しさが湧いてくるのだ。成一のことで落ち込んでいた月子は、本当は誰かにそばにいて欲しかった。でも、どうしてか、それを口に出すのが怖かった。もしかしたら、静真との3年間のせいだろうか。あの3年間、自分の要求はほとんど聞き入れてもらえなかった。それがトラウマになり、隼人と付き合うようになっても、キスやハグなどのスキンシップはできても、心の奥底にある寂しさを訴えることが怖いのだ。彼がドアノブに手をかけた時、月子は
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第560話

「よく考えてから、俺のところに来ようとしたのか?」男は尋ねた。「うん……」月子は沈んだ声で答えた。「恋人にはキスやハグができるだけじゃない。どんな要求でも俺に言っていいんだよ。それはお前の権利だから」月子は胸がキュンと締め付けられるような、それでいて甘い気持ちになった。「私に何があったのか、聞かないの?」「話したくなったら、お前はきっと話してくれる。今は、傍にいてやることの方が大切だろ?」月子はすぐに彼に抱きつき、ぴったりとくついて離れようとしなかった。「どうしてそんなに優しいの?」「お前に優しくするのは、俺の本能みたいなもんだ」「後で一緒に寝たら、体が触れ合うとあなたは何か感じたりする?」「たとえ我慢するのが辛くても、お前に抱きつきたい。これも俺の本能だ」それを聞いて月子は目を閉じ、彼の鼓動に耳を澄ませた。隼人は彼女の頭に顎を乗せた。「確かに俺は、お前に肉体的な魅力を感じている。でも、それよりも心で繋がっている方がずっと大切だ。だから俺に何をしてもいい。むしろ、お前に触れられたいんだ」月子はさらに顔をすり寄せ、「うん」と小さく返事した。……それから、要に会いに行く前の1週間、月子はSYテクノロジーの研究室に缶詰だった。1週間が過ぎ、いよいよ彼に会いに行く日になった。要は主演俳優の護衛役で、小さな役どころだったが、萌はこの映画の監督と知り合いだった。萌は人脈が広く、月子は彼女と一緒に、常に新しいタレントの卵の開拓に励んでいた。それには忍も自分の顔の広さを発揮していた。彼はもとより、特に芸能界でも多くの友人がいたため、月子の頼みとなれば、断る理由はないので快く協力したのだ。千里エンターテインメントとしても、自社の監督や脚本家チームを育成し、低予算ながらも質の高い脚本を作り、動画配信プラットフォームや監督、制作会社との関係を築いていく必要があった。芸能プロダクションが人を売り出すには、自社でドラマを制作できるか、優秀なバラエティ番組制作チームを抱えているかのどちらかが必要だった。これらの「武器」があってこそ、所属タレントを市場に送り出し、新人を売り出すことができるのだ。要は今後、仕事に困ることはないだろう。事務所としては彼の容姿や性格に合った役柄を、特別に用意していく予定だ。俳優
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