All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 531 - Chapter 540

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第531話

彩乃は、忍に節操がないことを知っていた。いつもは表立って下品な振る舞いはしないくせに、今日は度を越えている。もしかしたら、今まで猫をかぶっていただけで、今日、自分が先に突っかかったから、本性を現したのかもしれない。「あなたのたいそれた趣味に付き合うのはまっぴらよ。でも、このルックスとスタイルなら輝かしい成功を収めてきたんじゃない?まあ、がんばってよ」忍は、彼女がビジネスの場で見せる抜け目のない立ち振る舞いを、こんな風にするのが我慢ならなかった。彼はさらに図々しく言った。「一条社長、もう一度よく考えてみてくれよ。初めてのことじゃないだろ?俺のテクニックは折り紙付きだ。あの夜、あなたが何回イッたか、覚えてないのか?」それを聞いて彩乃はティッシュの箱を彼の顔に投げつけた。「いい加減にしてちょうだい!」忍は言った。「あなたの好みに合わせてるだけだろ。なんで怒るんだ?泣くほどあなたを喜ばせたイケメンは、どこかに逃がしちまったのか?」彩乃は答えた。「ええ、逃がしてあげたの。今度G市に来るときは、また彼を指名するから」忍は嘘だと分かっていたが、その言葉は我慢できなかった。「社長はやり手のビジネスマンなんだから、損得勘定くらいできるだろ?俺はタダで相手してやる。金は取らない。いつでも、どこでも、あなたが欲しい時に飛んでいく。K市に帰っても女としての喜びを味わえるんだ。こんなにお得な話はないだろ?」彩乃は本当は忍を怒らせたくないと思っていた。しかし、彼は生まれつきおちょくりたくなるタイプで、彼女は今までこんな図々しい男には会ったことがなかった。以前、付き合った男たちは皆、若くて清純派だった。だが忍は違っていた。彼は、その粗野な性格とは似ても似つかない整った顔立ちと、生まれつき色っぽい目を持っている。この違和感を、彩乃はどうも受け入れられずにいた。今は服装にも気を遣うようになって、スタイルは変わったものの、性格はどうにもこうにも変わらない。ハンサムなのは認める。だけど、その顔はあんまりにも女を惹きつけるのだ。人を惑わすような容姿は、彩乃の好きな爽やか系イケメンとは違う。だから、彼女は彼にずっとピンとこなかったのだ。性格はもっとダメ。彩乃は気が利いて、優しく、素直な男が好きなのに、忍は正反対だ。素直じゃないし、すぐに彩乃を怒らせる。しかも、
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第532話

だが、彩乃はそんな彼を無視した。忍は眉を上げて尋ねた。「まさか、焼きもち焼いてるの?安心して、振り向かれても声をかけられても相手にしてないから」彩乃はもともとあまり食欲がなく、少し食べてお腹いっぱいになると、この嫌な隣人とこれ以上関わりたくなかった。「もう休みたいから、帰ってくれる?」「帰るよ。でも、どうして泣いてたのか教えてくれないと」忍は彩乃に聞いた。「仕事のストレス?」最近、彩乃は仕事のことしか頭にないみたいだ。まあ、新しい彼氏を作らないだけマシか。彩乃は腕を組んで言った。「あなたに関係ないでしょ」「仕事のストレスじゃないなら、何なんだよ?」忍は言った。「教えてくれたら帰る」彩乃は聞き返した。「教えなかったら?」「じゃあ、ここに居座るしかないな。一緒に寝たこともあるし、もう仲間みたいなもんだろ?まさか、俺が寝てる間に襲ったりしないよな」それには彩乃は何も言えなかった。彼女はドアを指さし、少し笑って言った。「出てって」「乱暴だなあ、一条社長。俺にそっけなくしすぎじゃないのか?」「……本気で殴っちゃうかもよ?それt寝るなら自分の家に帰ってくれる?もし本当に寝る場所がなければ、ホテルを取ってあげる。お金ならあるし、一年分だって出してあげるから」忍はためらいがちに言った。「ああ、いいよ。もし本当に手を出されたとしても、文句はいわないよ。好きにさせてあげるから」彩乃は真顔で尋ねた。「……もしかして、進化しきれていないの?」「ああ、そうかもな。文明社会に乗り遅れて、頭の発達ができず、発情期が来たってわけだ。悪い、俺は野暮なんだ。純潔なんて言葉、知らないんだよ」彩乃は呆然とした。もう、驚いた、どうしてそんなことを言える人がいるわけ?一樹が彼の従弟で、子供の頃からずっと忍にいじめられていたことは彩乃も知っていた。そのせいで、二人は今でも仲が悪いらしい。ってことは、忍はずっとこんな調子なのか?それを、今は自分をターゲットにしてるのか?しかし、そう思われている忍は懲りる様子がなく、わざと照れ笑いをしながら甘えてきた。「教えてよ、なんで泣いてたの?」それを聞いて彩乃はまたしても彼の厚かましい言葉に呆れていた。「教えてくれないなら、奥の手を使うぞ。ある人が酔っ払って、顔を洗わず、歯も磨かず、お風呂にも
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第533話

「それがどうしたっていうのよ?少しは鷹司社長を見習ってよ。あなたみたいに口がうまくて図々しい人、見たことないんだけど」彩乃は、忍が呆気に取られている隙に彼をドアの外へ押し出し、勢いよくドアを閉めようとした。忍はドア枠に掴まり、大袈裟に「痛っ」と声を上げ、「手を離してくれよ」と叫んだ。彩乃は絶句した。「まだここにいるんだぞ。頭にぶつけたら、半身不随になって一生あなたを頼るからな」「まだ当たってないでしょ?」彩乃は睨みつけ、そして微笑んだ。「約束通り、早く帰って」忍は急に大人しくなり、それ以上ごねなかった。「わかったよ、約束は守るさ」「じゃあ、早く帰って」「このまま帰るの寂しいから、もう少し顔を見せてよ」彩乃はため息をつきたい衝動を抑え、「一、二、三……」と数えた。忍は素早く投げキッスをし、ようやく素直に立ち去った。容赦なくドアが閉められ、忍の顔から笑みが消えた。本当に分からなかった。月子みたいな女性の方が難しいはずなのに、隼人はあっという間に落とすし、自分は彩乃に嫌われているし、一体いつになったら振り向いてもらえるんだ。それに、次から次へと現れるライバルにも気をつけないといけない。「ちくしょう」忍は思わず舌打ちした。隼人の電撃的な交際宣言のせいで、忍も焦りを感じ始めていた。とは言っても、忍は昔から苦労知らずで、何をやっても成功してきた。友達も多く、子供からお年寄りまで、みんなから好かれていた。まさに人生の主役のような男だったから、彼は自分に自信満々だった。だから、彼は彩乃を落とせないはずがないと信じていたのだ。そう思いながら、忍はスマホを取り出し、酔って寝顔の彩乃の写真を見つめた。実はもっと可愛い写真も撮ったが、それは内緒にしておこう。スマホの中の女性は、うとうとと眠っていた。泣きはらして化粧は崩れていたけれど、それも絵画のように美しかった。ただ、彩乃自信だけがそれを嫌がっていた。忍は口角を上げ、スマホの画面に何度もキスをした。少しキザな行動かもしれないが、忍がやると妙にカッコよく見えた。彼は満面の笑みを浮かべ、スマホをポケットにしまい、彩乃の隣の部屋へと戻っていった。そして、忍は隼人のことも、感慨深かった。隼人がやっと孤独から解放されたんだな、本当によかった。明日はまた連絡を取ろう。
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第534話

隼人はいつも通りに話していたが、声のトーンは明らかに優しくなっていた。月子は、彼の言葉に含まれるからかいと、彼女に近づこうという意思を感じ取った。付き合って間もないから、彼のこんな風に探りを入れてくる距離の縮め方に、月子はドキドキが止まらなかった。どんなことでも、最初の体験は新鮮なものだ。恋愛もそうだろう。特に、彼女と隼人は友人から恋人になったのだから。お互いの気持ちを探り合うような曖昧な期間もなく、恋人の振りをしている時に手を繋いだこと以外、男女としての触れ合いはほとんどなかった。だから、付き合うことになったのは、本当に突然だった。関係が急激に変化したことで、友人同士ではできなかったこと、我慢しなければならなかったことが、今はできるようになった。相手は変わらないのに、付き合い方が急変したことで、感じる新鮮さと喜びも大きく違っていた。そして、この純粋な喜びは、心の中から湧き上がってくるようだった。月子は、隼人がこんなに「積極的」なのはいいことだと思った。新しい関係に早く慣れることができる。だから、彼から提示されたその無料サービスも彼女になった今は、その好意に甘えてきちんとそのサービスを堪能しなければと思ったのだ。それに、拒否する理由なんて、全くないのだから。だって、これから一緒に過ごす時間が長くなれば、お互いのことがよく分かり、新鮮さは薄れていくに違いない。だから、今のこの気持ちを逃すべきではないのだ。そう思っていると、隼人は彼女の顔を撫でながら言った。「パジャマに着替えるの、手伝ってくれるか?」月子は微笑んだ。「もし私が断ったら、彼女失格だし、せっかくだからお誘いに乗らないよね?」隼人は彼女の頬を優しく撫でた。「俺の彼女になったら、どんなことができるか、徐々に教えてやるよ」それを聞いて、月子は、また微笑んだ。隼人はそう言うと身を屈め、月子は自然と彼の首に腕を回した。そして彼は、そのまま彼女を抱き上げた。さっきも、隼人は片腕で彼女を抱えて浴室まで行った。50キロ以上ある月子を、彼は軽々と持ち上げることができたのだ。彼の腕力は本当にすごい。そう思いながら、月子はバスローブの下の彼の腕を触ってみた。思った通り、硬い感触だった。「いつから鍛えてるの?」月子は尋ねた。「10代の頃から、トレーニン
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第535話

それを聞くと隼人は月子を見つめた。その目に怒りはなく、むしろ挑発されたような色を浮かべては、彼女の顎を軽く掴み、激しくキスをした。月子が身を引こうとすると、隼人のキスは執拗に追いかけきて、独占欲を露わにした。やっとのことで逃げ切った月子だったが、隼人の唇はまだ少し開いていて、物足りない様子だった。息を切らしながら、普段とは違う強引な隼人に押され、月子は思わず言った。「分かった。もう十分に分かっている」すると隼人の視線は深まっていた。その吸い込まれそうで攻撃的な視線に月子は耐えられず、目を逸らした。いつもは冷淡で威厳を漂わせる隼人なのだが、この瞬間、攻撃的で危険な目つきに豹変していたのだった。そして、追い打ちをかけるかのように隼人はさらに言った。「もっと深く感じさせてあげられるんだが、どうだ?試してみないか?」月子は顔を赤らめ、「もう十分すぎる。さあ、鷹司社長早くパジャマに着替えてきて、髪の毛から水が滴り落ちてきているじゃない」と言った。「恋人になったのに、まだ社長って呼ぶのか?」「癖でつい。でも、今社長って呼ぶと、隼人さんって呼ぶよりドキドキする……ん……」月子は瞬きをした。月子が話している間、隼人は彼女の唇をじっと見つめていた。そして、我慢できずに再びキスをし、月子をベッドに押し倒した。そして、両手を彼女の指と絡ませ、顔の脇に手を添えた。そのキスはゆっくりと首筋へと移動していき、彼女の首筋を優しく噛みついた。鳥肌が立った月子は、彼を抱きしめ、後頭部を押さえてそれ以上キスされないようにした。「着替えなくていいの?」隼人は月子に覆いかぶさり、彼女が下着を着けていることに気づいた。バスローブを着ている時のような柔らかさはなくなっていた。恋人である彼女は、まだそのつもりはないらしい。少なくとも、今はまだ完全には打ち解けていない。だから、彼もぐっと堪え、ゆっくり時間をかけて少しずつ、小さな喜びを見つけていくしかないのだ。これだけの忍耐で彼女を口説いたのだから、こういうことはなおさら我慢しなければならない。隼人は月子とあらゆる面で調和し、心身ともに最高の体験をさせてあげたかった。それに、キスしている時の月子はとても素直で、気持ちよさそうだった。彼女は明らかに自分に大きな誤解をしている。もしかしたら、自分はそう
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第536話

しかし、そう思うと月子はまた急に緊張して、心臓がドキドキし始めた。隼人は冷たく近寄りがたい男で、全身黒ずくめの服装は、彼の冷徹な雰囲気と相まって、いつも禁欲的なオーラを放っていた。もし月子が彼の服を脱ぐところを見たら、隼人本人よりも、彼女の心のほうが耐えられないだろうと月子は思った。一番の問題は、服を脱ぐという行為そのものだ。露出する体つきだけでなく、ゆっくりと「脱ぐ」過程が見せる刺激が強すぎる。もし隼人の視線が彼女に向いたら……とにかく、月子には耐えられない。だから月子は咳払いをして、顔をそむけた。隼人は、彼女の赤くなった顔と握り締められた拳を見て、彼女が恥ずかしがっていることを察し、それ以上何も言わなかった。付き合って間もないのに、そんなにすぐにはいかない。でも、今回のことで準備ができたから、次回はきっと落ち着いて見てもらえるはずだ。柔らかい白いTシャツと黒い長ズボンに着替えた隼人は、髪を振り乱した。水滴が飛び散り、彼はバスローブで適当に髪を拭いていた。「終わったよ」月子が振り返ると、そこには普段着でリラックスした隼人がいて、それはそれでまた違った印象を受けた。月子はクールで強い隼人も好きだけど、プライベートで見せる人間味あふれる飾らない姿も好きだ。誰にも見せないその姿を、自分だけが見られるから、なおさら好きなのだ。隼人の体型はシンプルなTシャツがよく似合う。何と言ってもスタイルがいい。肩幅が広く、腰が細く、ほどよく筋肉がついているから、何を着てもかっこいい。「そんな風に髪を拭くと、パサパサになるわよ。ドライヤーで乾かして」隼人は彼女の言葉に従い、バスローブをベッドの端のソファに放り投げ、バスルームへ向かった。そしてすぐにドライヤーを持って戻ってきた。「乾かしてくれ」その頼みを月子は喜んで引き受けた。隼人はベッドの端のソファに座り、月子は柔らかいカーペットの上で彼の前に立って髪を乾かしてあげた。隼人はもちろん、彼女と親密になる機会を逃すはずがなかった。彼女の腰を抱き寄せ、さらに強く抱きしめると、顔を彼女の腹部にくっつけた。月子が立っていたからよかったものの、座っていたら、赤くなった顔が隼人に見られていただろう。この人、スキンシップ不足なの?どうしてこんなにベタベタしたがってるんだろう?
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第537話

隼人は子供の頃から一人で過ごすことに慣れていて、大人になるにつれて誰かに触れられることをひどく嫌うようになった。誰かが1メートル以内に近づくと、途端に強い拒絶感と警戒心を抱くようになっていた。だから、親密な抱擁の温もりを味わったのは、これが本当に初めてのことだった。隼人は月子と一緒にいると、こんなにも心地良いとは夢にも思わなかった。言葉では言い表せないほどだった。この世界で、月子だけが自分にこんな気持ちをさせてくれるんだと思うと、隼人は彼女をもっと愛おしく感じた。月子はただそこにいてくれるだけで、隼人は彼女をたまらなく愛しく思うのだ。だからこそ、隼人は以前の自分がいかに孤独で寂しかったのかを改めて思い知った。そして、それに慣れてしまっていた自分はかつてそれを当たり前だと思っていた。だが、今は違う。人を拒絶する本能的な部分を抑え、月子を強く抱きしめ、温かい体温を感じながら、腕の中に誰かを抱きしめることが、こんなにも素晴らしいことなのかと実感していた。そう思うと、隼人はさらに強く月子を抱きしめた。まるで彼女を自分の体の中に溶け込ませ、二度と離れたくないと願うかのように。この先、二度と誰かを愛することはないだろう。もし月子に捨てられたら、一生孤独なまま生きていくしかない。隼人はそう確信していた。月子は強く抱きしめられ、息苦しさを感じていた。しかし、この抱擁は安心感と、今まで感じたことのない安堵感に満ちていた。彼女は隼人と静真を比べるつもりはなかった。ただ、自分の感覚を確かめていた。静真が病気の時や、酔って正気ではない時に、月子はベッドの傍に座って彼の手に触れ、僅かな親密さを確かめていた。抱き合ったりキスしたりすることはほとんどなかった。たとえ抱き合っていたとしても、心は遠く離れていた。だから安心感や信頼感なんて生まれるはずもなく、ただ胸が痛むだけだった。月子にとって、隼人との時間は、初めての本格的な恋愛と言えるだろう。お互いを好きだという気持ち。相手を信じ切れるという確信。不安や迷いがない。月子はその気持ちかみしめて嬉しくて泣きそうだった。衝動的に告白したものの、彼女は自分の気持ちが隼人ほどではないのではないかと不安だった。しかし、今は二人の心がとても近くに感じられた。それは本能的なものだった。喜
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第538話

月子は秘書の頃は隼人に気を遣っていたし、友達になってからもそれは変わらない。洵の言う通り、隼人ってどんな関係でも常に主導権を握っているんだ。例えば、洵への投資だって、投資家であり株主である隼人には、洵が頭が上がらない理由がある。月子も隼人には一目置いている。最初は彼と接するのにかなり慎重だった。彼が優しくしてくれるのは事実だけど、立場はまた別の話。だけど、女も自分より強い男に対して、征服欲があるのだ。月子にはまさにそのタイプで、だから自ら積極的にキスをしたこともあった。あの雲の上の存在の男の頭を掴んでキスをしたなんて、考えただけでもゾクゾクする。でも、月子は力が弱すぎたことで、一瞬優勢になったと思ったら、すぐに隼人に押し倒されてしまった。隼人はとっつきにくいように見えるけど、二人きりになるととても優しい。月子は彼と親しくなるにつれ、彼はとても思いやりがあって、とても紳士的だと思うようになった。でも、キスをする時の彼はいつも豹変するのだ。優しくしようとはしているんだろうけど、暴走を抑えきれていないみたいだ。彼の焦りは「好き」の表れだと月子は分かっていた。だから、たとえ自分から仕掛けて、最後は彼に身を委ねることになっても、そこに別の快感を感じていたのだ。激しいキスに、二人の呼吸は次第に荒くなっていく。そして、隼人はすぐに月子から唇を離した。月子もまたこれ以上何もなくていいと思った。キスだけで十分だった。まだ付き合って間もないし、関係を進展させるのは早すぎる。もし本当にそうなったら、心の準備ができていない。それに、静真との最悪な経験もあったから、そういうことには抵抗があった。月子は生理の知識を早くから学んでいた。もし相性が良ければ、男女ともに大きな喜びを感じることができる。でも、静真とは全く合わなかった。結婚後の現実は、彼女の夢を打ち砕いた。毎回我慢して耐えていただけで、思いだしたくもないほど最悪なのだ。こんなことは、隼人にはまだ言えない。だから、彼が自制してくれたのは本当にありがたかった。まるで奇跡みたいだ。どうして彼はこんなに自分のことを分かってくれるんだろう。だから、あまりそういうことに執着しない彼氏で良かった。一緒にいてもプレッシャーを感じないし、もし、いつかそういうことになるとしても、もう少し先の話。自分が心の準備
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第539話

彼は彼女がさっき吐いたことを気になって、彼女の胃の具合が心配だったのだ。月子は避けようがないと観念し、覆いかぶさる隼人の手を掴んだ。腕の肌は引き締まって滑らかで、思いがけず触り心地が良かった。「こうやって触られると、どんな感じ?」月子は興味津々に尋ねた。隼人は彼女の首筋に顔を寄せ、「好きだ」と囁いた。月子は隼人に後押しされたように、さらに大胆に彼の腕を撫でた。力こぶは少し力を入れるとカチカチになり、力を抜くと少し柔らかくなる。いずれにしても、しっかりとした逞しさを感じさせるのだ。毎日欠かさず鍛えているから体脂肪率が低いんだ。だからこんなにバランスの取れた、強靭なのに美しい体つきをしているんだな。それに、腰回りには全く贅肉がない。触らなくても分かる。月子はそう感じながら、彼の手首の方に手を滑らせ、彼の掌の上で眠ろうとした。手首を触った時、細長く盛り上がった箇所に指が触れた。あまり目立たないものだったけれど、指先で何度か触れてみると、確かにそれと分かった。「これ、傷跡?」隼人は少し間を置いてから、ゆっくりと目を開けた。冷たい視線だった。「ああ、子供の頃に怪我をしたんだ」月子の体がこわばるのが分かった。心配してくれているのか?隼人の冷淡な態度は消え、優しい声で言った。「心配するな。もうほとんど目立たない」隼人は多くを語りたがらない様子だったが、月子は気になって仕方がなかった。でも、手首全体に傷跡があるだけで、リストカットの跡ではなさそうだった。もしそうだったら、月子はきっと気になって眠れなくなってしまうだろう。普段は時計をしているから、この傷跡は誰にも気づかれない。隼人は時計を集めるのが趣味だが、もしかして、これもその理由の一つだろうか?まあ、明日、この目で傷の程度を確認しよう。そう考えながら、お腹の温もりに心地よさを感じ、月子はさらに隼人にすり寄った。「眠い」「キスして」そう言われ、月子はすぐに彼の唇に吸い付いた。隼人は月子が唇を寄せてくると同時にキスを返した。今夜ぐっすり眠るために、キスは長くは続かなかった。手も彼女の腹の上でじっとしていた。「おやすみ」……一方で、静真は、月子と隼人が一緒に立ち去るのを見送っていた。そして彼らは機内でキスまでしていた。キス?月子と隼人がキスをし
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第540話

一樹は、月子と隼人が手を繋いで食事をしているところを既に目撃していた。この展開は予想していたものの、確信は持てずにいたが、今となっては明白だ。静真がこんな状態なのは無理もない……いや、待てよ。静真はもともと月子を好きじゃなかったはずだ。一体どうしてこんな風になってしまったんだ?静真と隼人の間の確執は修復不可能なものだと、一樹は理解していた。だから静真が怒りに満ちているのはわかる。だが、まぜどこか狼狽しているように見えるんだ?まさか、焦っているのか?月子に惚れたっていうのか?「この怪我、鷹司さんにやられたのか?」静真は歯を食いしばりながら言った。「あいつは月子を俺から奪おうとしたんだ」それを聞いて、一樹は容赦なく畳みかけた。「つまり、本当に奪われたってことか?ついさっきのことだろう?っていうか、月子と鷹司さんに会ったんだな」「黙れ!」静真の反応から全てを察した一樹は、落ち着いた様子で言った。「それで、これからどうするつもりだ?」一樹の落ち着いた声に、静真の荒い呼吸は次第に穏やかさを取り戻したが、胸の奥には燃え盛る炎が消えることなく渦巻いていた。しかし、顔色はいくぶんか良くなり、一樹の手首を放すと、血まみれの自分の手を見ながら、冷たく鋭い視線で言った。「あいつに、月子を奪う資格なんてない!」「月子を奪われたことが許せないのか?それとも、月子と彼が付き合っていることが許せないのか?」静真は眉をひそめて一樹を見た。「何が違うんだ?」一樹は口角を上げると、挑発するように言った。「全然違うよ。まさか、自分が何をしたいのか分かってないんじゃないだろうな?」「無駄口を叩くな」「前者なら、あなたは単に鷹司さんに自分のものを奪われたことが憎いだけだ。子供の頃と何も変わってない。後者なら……」一樹はニヤリと笑った。「まさか、月子に惚れたっていうのか?」静真は特に動じることなく言った。「惚れた?ああ、月子に仕えてもらう日々が好きだった。それが俺の『惚れた』ってことだ」「強がるなよ。あなたは月子という人間に惚れてるんだ。そうでなければ、こんなに未練があるわけないだろ?」静真の目は陰鬱に淀み、嘲るように言った。「月子に惚れた?分からない。とにかく、彼女が俺を捨てたことが許せない!」静真が認めなくても、一樹は自分の判断に間違
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