月子はすぐには立ち去らず、外の空気を吸って気分転換をしようとした。萌は彼女のそばに付き添い、その様子を窺っていた。月子の顔色が少し良くなったのを見て、萌は思い切って尋ねた。「社長、入江さんと知り合いなんですか?」月子はもう萌を身内だと思っていたので、隠すことなく答えた。「元夫ですよ」二人で話している間に、萌は静真の素性を少し調べてみた。すると、彼は想像以上に大物だということが分かった。K市の名家である入江家は、何世代にも渡って繁栄を続けてきた。静真の祖父の代には不動産業で全国展開し、その後は重工業にも進出。そして今では、静真が後を継ぎ、新興産業への転換も成功させ、巨大企業へと成長を遂げている。K市にあるいくつかのランドマーク的な建物は、観光客が必ずと言っていいほど訪れる場所だが、それらは全て入江グループのプロジェクトだ。今やグループ全体を静真が掌握し、正真正銘の実力者と言ってもいいほどだ。萌は本当に驚いた。「まさか、それは本当に驚きです」そして、彼女はさらに尋ねた。「どうして離婚したんですか?」「性格の不一致ですよ」別れる間際の静真の沈んだ瞳を思い出し、月子は思わず拳を握り締めた。結局のところ、彼女は静真のしつこさが嫌だった。悲劇のヒーローを演じているかのような彼の姿も嫌だった。厚かましくて、子供っぽくて、駄々をこねるのも嫌だった。予想外の行動や発言で、彼女を混乱させるのも嫌だった。そして月子は、誰かを深く愛した後は、心に深い傷跡が残ってしまうことを改めて実感した。それだけ静真が月子に与えた傷は深かったというものだ。だが、月子はもう静真を好きではなく、彼への気持ちも整理していた。しかし、それでも彼が目の前に現れると、その過去の記憶が蘇り、彼女を苦しめるだ。月子は、時間が経てばこの傷も癒えると思っていた。しかし、今はまだ完全に消えていない。だから、静真を前にすると、無意識に警戒し、緊張してしまうのだ。少しでも気を抜くと、つけ込まれそうで怖かったのだ。どうしてこんなに緊張してしまうんだろう?月子にとって理想的なのは、静真が何をしようと、自分が全く気にせず、動揺しないことだ。それが、自分にとっても良いことだし、隼人にとっても良いことだ。しかし、心の傷はまだ癒えていないた
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