「仕事、終わった?」一樹は口角を上げて尋ねた。「だいたいね」月子は手を軽く引きながら尋ねた。「そんなに楽しいの?」「あなたは俺にとって宝物みたいなものなんだ。だからあなたのすべてを知りたくなるんだ」一樹は優しい声で言った。月子の仕事がもうすぐ終わるとわかると、一樹は長い腕を伸ばしてキャスター付きデスクの椅子を彼女ごと自分の目の前まで引き寄せた。そして彼はソファに座り、月子の手を握ったまま、彼女を見上げていた。「疲れた?マッサージしようか?」一樹が尋ねた。「マッサージ」という言葉に、月子の脳裏に過去の光景がよぎる。だめだ。隼人のことは、身も心も、完全に忘れなくちゃ。「あとでいい。今は、あなたと話したいの」一樹みたいなタイプの男性と触れ合うのは、月子にとって初めての経験だった。彼といると、過去の誰とも違う感じがして、すごく新鮮だった。すると一樹は、真剣な表情で姿勢を正した。こんな風に辛抱強く話を聞いてくれるなんて、静真にはなかったことだ。それに、この温かくて親しみやすい雰囲気は、隼人にもなかった。だから本当にいい人を選んだんだ、と月子は思った。過去忘れるためにも、これからは一樹との思い出で毎日を埋めていこう。「あの時、あなたが送ってきた動画、わざとだったのね」一樹は一瞬気まずそうな顔をしたが、すぐに落ち着きを取り戻した。「あの時はきっとあなたを傷つけた。ごめん。でも、俺はそれでも送ってよかったと思ってるんだ」あの動画のおかげで不幸な結婚生活から早く抜け出せたと、月子は一度一樹に感謝していた。でも、今はあえてからかうように言った。「テニスコートでばったり会ったっていうのも、嘘だったんでしょ」一樹は笑った。「あはは、俺って本当に意地悪なやつだね」そう言って彼はまた笑った。「あの時はあなたに気に入られたくて、距離を縮めたくて……月子、あなたに近づくために、俺はあらゆる手を尽くしたんだ」一番嫌いないとこの忍にまで会ったのも、すべては月子の日常に接点を持つため。実際、それも彼女に近づくための計画の一部で、そのために一樹は忍は利用したのだ。それを聞いて月子は一樹の手を握り返した。「洵の会社に投資したいって言ったのも、私のため?」「もちろん。未来の義理の弟に、今のうちから気に入ってもらわないとね」「数十億円も
Read more