どうせ月子には、いずれバレることだ。でも、それを知るのが少しでも後なら、彼女が気分を害すのも、その分だけ先延ばしにできるだろう。賢は当然隼人と月子の関係に口出しなんてできないし、二人のことを決められる立場でもないのだ。そこで、彼はカウンセラーの話を持ちかけた。「腕のいいカウンセラーを見つけたんだ。一度、話してみないか?」隼人は少し眉をひそめた。正直、自分がどこかおかしいとは思っていなかった。でも、試してみる気にはなった。「いいだろう」隼人があっさり承諾したことに、賢はとても喜んだ。というか、正直かなり驚いた。今日、一樹に会ったことで、隼人には確かに何か変化があったようだ。ただ、その変化のきっかけが何だったのか、賢にはわからなかった。ただ、カウンセラーと少し話したくらいで隼人の抱える問題が解決するとは、賢には思えなかった。それに隼人は交渉のプロだ。言葉にまったく隙がないから、カウンセラーですら彼の心の壁を破るのは難しいだろう。たとえ心に病を抱えていたとしても、隼人は完璧な患者を演じきってしまうに違いない。まあ、やらないよりはマシか、といったところだ。なんせ賢には、親友が自分を傷つけるのを黙って見ていることなんて、できなかったからだ。その時、月子の方でちょっとしたトラブルがあったようだ。ある酔っ払いの男が突然、月子に絡んできた。月子はボディーガードを呼んで男を追い払わせたが、すっかり食欲も失せてしまった。彼女は冷たい顔で箸を置くと、部下を連れて席を立った。一方、恥をかかされた酔っぱらいの男は、連れの男たちと一緒になって悪態をついていた。「女ってのは、どうしてみんなああやってツンケンするんだかね!あんな女、今じゃはした金でいくらでも抱けるぜ」そしてスマホを取り出すと、いやらしい笑みを浮かべて仲間に見せびらかす。「こいつが昨日の晩、俺のベッドにいた女だよ。さっきの女に似てないか?」それを見て賢は、この男はこの後間違いなくひどい目に遭うだろうと思った。そして予想通りのことが起こった。駐車場で、酔った男はまるで意識のない獲物のように、隼人のボディーガードに押さえつけられていた。ボディーガードが男のひざ裏を蹴り上げると、男は隼人の前にがくりとひざをついた。この時になって男はだいぶ酔いが覚めていた。
Read more