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第843話

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一樹が顔を近づけると、途切れ途切れでよく聞き取れなかったが、「隼人さん」という言葉だけが耳に入った。

彼は一瞬、顔をこわばらせたが、すぐに合点がいった。

ああ、彼女は自分を隼人だと勘違いしてるんだな。

一樹は、静真とは違う。かつて最高なものを手に入れたのに、それを失ったことを受け入れられない、なんてことはない。

一樹にとって月子はもともと手にしていなかったのだから、一緒にいられるチャンスがあるなら、彼はそれをとても大切にするし、むしろ感謝したいくらいだった。だから、たとえ彼女が別の男のことを考えていても、そばにいられるのが自分なら、それだけで十分だと思っていたのだ。

そこで、一樹も改めて、月子がなぜ自分とつかの間の関係を持とうとしているのか、その理由を察したのだ。

彼女はきっと、隼人のことを忘れたいのだろう。

忘れられないのが辛くて、他の誰かの力を借りようとしているに違いない。

すべてを理解した上で、一樹はやはり月子のことが不憫でならなかった。

子供たちの存在は月子の生活を大きく変えた。それなのに、元凶である静真は父親という立場を利用して、毎日彼女の前に現れる……あいつは一体いつになったら罰を受けるのだろうか。

一樹は静真の親友だが、いくら親友でも気に食わないことはある。特に、静真がこれまでにしてきたことは、ろくでもないことばかりだった。

だけど、静真がろくでなしだったおかげで自分にチャンスが回ってきたことも、否めないのだ。

しかし、月子が受けた傷は本物だ。

静真は隼人と張り合うあまり、本当に月子の気持ちを考えたことがあるのだろうか。

一樹は月子の寝顔を見つめ、その手をそっと握り返した。そしてソファのそばに座り、静かに彼女に寄り添ってあげた。

月子がしたいことなら、自分はなんでも受け入れるつもりだった。

そんな決意を胸に、一樹はただ、月子の笑顔を少しでも見たいと思った。

いつかは本物の恋人になりたいと思っているが、女性付き合いの経験が豊富な彼は、月子が自分に抱いているのが友情だけだと気づいていた。彼女が友達の関係を望むなら、自分もそれに合わせるつもりだった。

もちろん、今は恋人という立場なのだから、手を繋ぐことくらいはできる。普通の友達よりは、少しだけ近い関係だ。

だが、それもほんの少しだけ。

道でしたキスは、一樹から仕掛けた
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Comments (2)
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Hina Oka
え?こんな所で終わり?続きは?
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ユカリ
もう、早く隼人と結ばれて!
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