すでに夜は更け、時計の針は午前二時を回っていた。この時間に愛莉が自分から電話をかけてくる理由など、玲奈にはすぐに察しがついた。――ひとつは、体調を崩したとき。――もうひとつは、智也と沙羅が家にいないとき。そして、まさに今夜がその「もうひとつ」の場合だった。沙羅は怪我をし、智也は彼女を連れて病院へ行った。つまり、家には誰も残っていなかったのだ。玲奈はそう淡々と状況を言葉にしただけで、宮下や愛莉がどう思うかなど、気にも留めなかった。そのまま通話を切った。ぷつりと音が途切れ、受話器の向こうに残ったのは、虚しい「ツー、ツー」という信号音だけ。宮下は数秒間、携帯を耳に当てたまま動けなかった。彼女の記憶の中で、玲奈という人は、いつも智也や愛莉に献身的で、細やかに気を配る女性だった。けれど、今はもう違う。――それでも、宮下は玲奈を責める気にはなれなかった。こんな夫と娘では、彼女が心を閉ざしても無理はない。下働きの自分にできるのは、ただ黙って見守ることだけだった。携帯をしまったその瞬間、愛莉が再び泣き出した。ベッドの上で足をばたつかせ、声を張り上げる。「悪いママ!悪いママ!あんなママなんていらない!」宮下はため息をつきながら、その小さな背中を見つめた。――昔、玲奈が世話をしていたころの愛莉は、こんなにわがままを言う子ではなかった。最近は、どこで覚えてきたのか、反抗的な口の利き方まで身につけている。家の中で母親にこんな言葉を投げつけるようでは、外へ出たときどうなるのか。想像するだけで、胸が重くなった。その時、寝室の扉が開き、雅子が入ってきた。「宮下さん、どうしたの?」宮下は驚きながら答えた。「愛莉様が悪い夢を見たみたいで......」雅子は軽く頷くと、宮下の腕を取って後ろに下げた。「私があやすから、あなたはもう休んでちょうだい」「えっ......?」宮下は思わず間の抜けた声を上げた。雅子は優雅に腰をかがめ、泣きじゃくる愛莉を抱き上げた。そして振り返りざま、穏やかな笑みを浮かべる。「私は愛莉の本当のおばあちゃんよ。あなたも安心していいでしょう?」宮下は黙った。――確かに、愛莉は沙羅と雅子にべったりだ。自分があやすより、彼女たちの方が
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