All Chapters of これ以上は私でも我慢できません!: Chapter 321 - Chapter 322

322 Chapters

第321話

すでに夜は更け、時計の針は午前二時を回っていた。この時間に愛莉が自分から電話をかけてくる理由など、玲奈にはすぐに察しがついた。――ひとつは、体調を崩したとき。――もうひとつは、智也と沙羅が家にいないとき。そして、まさに今夜がその「もうひとつ」の場合だった。沙羅は怪我をし、智也は彼女を連れて病院へ行った。つまり、家には誰も残っていなかったのだ。玲奈はそう淡々と状況を言葉にしただけで、宮下や愛莉がどう思うかなど、気にも留めなかった。そのまま通話を切った。ぷつりと音が途切れ、受話器の向こうに残ったのは、虚しい「ツー、ツー」という信号音だけ。宮下は数秒間、携帯を耳に当てたまま動けなかった。彼女の記憶の中で、玲奈という人は、いつも智也や愛莉に献身的で、細やかに気を配る女性だった。けれど、今はもう違う。――それでも、宮下は玲奈を責める気にはなれなかった。こんな夫と娘では、彼女が心を閉ざしても無理はない。下働きの自分にできるのは、ただ黙って見守ることだけだった。携帯をしまったその瞬間、愛莉が再び泣き出した。ベッドの上で足をばたつかせ、声を張り上げる。「悪いママ!悪いママ!あんなママなんていらない!」宮下はため息をつきながら、その小さな背中を見つめた。――昔、玲奈が世話をしていたころの愛莉は、こんなにわがままを言う子ではなかった。最近は、どこで覚えてきたのか、反抗的な口の利き方まで身につけている。家の中で母親にこんな言葉を投げつけるようでは、外へ出たときどうなるのか。想像するだけで、胸が重くなった。その時、寝室の扉が開き、雅子が入ってきた。「宮下さん、どうしたの?」宮下は驚きながら答えた。「愛莉様が悪い夢を見たみたいで......」雅子は軽く頷くと、宮下の腕を取って後ろに下げた。「私があやすから、あなたはもう休んでちょうだい」「えっ......?」宮下は思わず間の抜けた声を上げた。雅子は優雅に腰をかがめ、泣きじゃくる愛莉を抱き上げた。そして振り返りざま、穏やかな笑みを浮かべる。「私は愛莉の本当のおばあちゃんよ。あなたも安心していいでしょう?」宮下は黙った。――確かに、愛莉は沙羅と雅子にべったりだ。自分があやすより、彼女たちの方が
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第322話

翌朝。玲奈の目覚ましが鳴り終わったその直後、今度は電話のベルがけたたましく鳴り響いた。「......あと十分だけ寝よう」と思っていたところだったが、電話が鳴ってしまえばもう眠気など吹き飛んでしまう。画面を見もしないまま、通話ボタンを押した。受話口から聞こえてきたのは、智也のかすれた声だった。「......今日、愛莉を送ってくれないか」その一言に、玲奈は一気に目が覚めた。智也の声には疲れが滲んでいる。――きっと今、沙羅のそばにいるのだろう。彼女は反射的に拒絶した。「今日、大学の実習で病棟の回診があるの。送る時間なんてないわ」言い訳でもあり、本心でもあった。もうあの家のことに関わりたくなかった。しかし智也は続けた。「ここ数日はどうしても手が離せない。あと......夜は小燕邸に行って、愛莉の面倒を見てほしい。二、三日だけでいい」その言葉に、玲奈は思わず笑い出した。「手が離せないってどういう意味?仕事?それとも、おじいさんの介護?」智也はためらわずに言った。「沙羅が入院した。容態がまだ安定していない。付き添いが必要なんだ」玲奈は一瞬、黙った。そして、かすかに冷笑を浮かべた。「......じゃあ、そのために愛莉を放っておくの?」「放っておくつもりはない。ただ......手が回らないんだ」その言葉を聞いた瞬間、玲奈の胸に抑えきれない怒りが込み上げた。「智也、現実を見なさいよ。あなたにとって一番大事なのは誰なの?結局、沙羅を優先してるじゃない!」電話の向こうで智也が何かを言いかけたが、玲奈はもう聞く気がなかった。「言い訳なら愛莉にして。私に言っても無駄よ」吐き捨てるようにそう言って、通話を切った。――ぷつり。電話を終えたあと、玲奈の胸の中に残ったのは怒りとも悲しみともつかない重苦しい感情だった。仕事中も、その感情はずっと消えなかった。「......愛莉は、今どうしてるの?」表向きは突き放したものの、心の底ではやはり落ち着かない。愛莉は、自分が産んだ子。どんな事情があっても、放っておけるはずがない。智也も沙羅も家にいない――では、愛莉は?誰が面倒を見ているの?その問いが、玲奈の頭から離れなか
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