その日の午後――勤務を終えて病院を出た玲奈は、ちょうど昴輝と出くわした。どうやら彼は、あらかじめ彼女を待っていたらしい。彼女の姿を見つけると、穏やかな笑みがふわりと浮かんだ。玲奈が近づくと、昴輝は控えめに声をかける。「今夜、同窓会があるんだ。一緒に行かないか?」玲奈は一瞬ためらった。頭に浮かんだのは、まだ入院中の邦夫のこと。今の状況では、とても気楽に出かける気分にはなれない。断ろうと口を開きかけた、その時――背後から智也の低い声が響いた。「玲奈。じいちゃんが、もう俺たちを待ってる」振り向くと、病院の駐車場に智也の車が停まっていた。運転席の窓を下げ、彼はそこから顔を出していた。降りてくる気配もなく、ただ冷静な口調でそう告げる。玲奈は目を伏せ、昴輝に向き直る。「ごめんなさい、先輩。今日はどうしても外せない用事があるの。また今度、機会があったら誘って」昴輝はいつもの穏やかな笑みを保ったまま、静かにうなずいた。「そうか......じゃあ、また今度」落胆の色を隠しながらも、無理に引き留めることはなかった。玲奈は小さく手を振って別れを告げ、智也の車に乗り込んだ。彼女はいつものように、助手席ではなく後部座席に座る。その様子を見送る昴輝の口元には、どこか寂しげな笑みが浮かんでいた。邦夫が入院しているのは、玲奈の勤める病院ではなかった。久我山でも最も設備の整った総合病院――そこへ向かうには、ここから三十分以上かかる。車内には重い沈黙が落ちていた。玲奈は窓の外を見つめ、智也もまた口を開かない。代わりに、彼はスマホを手に取り、上の方に固定されたトークをタップした。画面には、名前の代わりにキスの絵文字だけ。そのアイコンを選び、ビデオ通話をかける。ほどなくして、画面の向こうに沙羅の顔が映った。「智也?どうしたの?」彼は片手でハンドルを握りながら、ちらりと画面を見て言った。「少し愛莉の顔が見たくなって」沙羅の表情がぱっと明るくなり、柔らかな声に変わる。「愛莉、こっちにおいで。パパが見たいって」電話越しに、弾むような声が返ってくる。「やった!今行くー!」その無邪気な声を聞くだけで、玲奈の胸が締めつけられた。沙羅
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