玲奈がうちに戻ったとき、家の中はまだ明るい灯りに包まれていた。リビングに入ると、秋良と綾乃が食卓の前に並んで座っている。二人の視線が同時に玄関の方へ向いた。玲奈はまっすぐ歩み寄り、静かに声をかけた。「兄さん、お義姉さん」秋良は彼女を上から下まで一度眺め、穏やかに言った。「座れ」玲奈は綾乃の隣に腰を下ろした。綾乃がそっと彼女を見つめ、優しく尋ねる。「ご飯、食べた?」玲奈は小さくうなずいた。「ええ、食べてきたわ」綾乃はようやく安心したように息をつき、柔らかく言った。「陽葵、さっきまでずっと泣いてたの。泣き疲れて、今はお手伝いさんに抱かれて寝てるわ」玲奈の胸に、ちくりとした痛みが走った。申し訳なさと、何も言えないもどかしさが混じる。綾乃はテーブルの下で玲奈の冷えた指先を握り、静かに言った。「今日は陽葵を遊びに連れて行ってくれてありがとう。大変だったでしょう」玲奈は首を振り、微笑んだ。「大変じゃないわ。陽葵ちゃんと一緒にいる時間が、何より幸せなの」綾乃はその言葉に頷き、玲奈の手の甲を優しく叩いた。言葉はなくとも、その温かさが胸に沁みた。――母親同士だからこそ、理解できる痛みがある。子どもに拒まれる寂しさは、言葉では言い表せない。二人が話している間に、秋良がどこからか一枚のカードを取り出した。それをテーブルに置き、玲奈の方へ押し出した。「このカード、持っておけ。離婚の話がなかなかまとまらなくても、財産のことは気にするな。新垣家は金があるが、そう簡単に渡すとは限らない。どうせ施しみたいな金を待つくらいなら、自分から手放せ。俺と綾乃でおまえを支える。金の心配はいらない」玲奈はその言葉に息をのんだ。目に涙が滲むのを感じながら、首を振った。「兄さん......私、自分の力で生きていけるから。これは受け取れないわ」彼女は離婚の詳細を家族に話していなかった。秋良がまだ協議中だと思っているのも無理はない。実際のところ、智也は慰謝料として二百億を提示していた――十分すぎる金額だ。それでも綾乃は、玲奈の手にカードを押し込んだ。「少ないけれど、私たちの気持ちなの。受け取って」玲奈は震える手でカードを握りしめた。鼻の奥が
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