玲奈は、昂輝の姿を見て一瞬驚いた。まさかここで会うとは思ってもいなかったのだ。けれど、すぐに微笑みを浮かべて声をかける。「先輩、偶然ね。こんなところで会うなんて」昂輝も穏やかに笑って応じた。「本当だね。ちょうど君に電話しようと思っていたところなんだ」玲奈はまだ邦夫の腕を支えていた。そのせいで、邦夫の視線に漂う警戒の色に気づいていなかった。一方の智也は――そのやり取りの最中、ポケットからスマホを取り出していた。メッセージを打っているようだ。邦夫の目には、仕事の返信でもしているように見えた。玲奈は昂輝だけを見つめ、問いかける。「先輩、何かご用?」昂輝は柔らかく微笑んで答えた。「今週末、宮口先生の教育セミナーがあるんだ。参加する?」「行くわ」玲奈はほとんど間を置かずに答えた。だがその返事が終わらぬうちに、邦夫が口を挟んだ。「若い方のようだね。ご結婚は?」智也はその声を聞き、慌ててスマホをしまった。玲奈もその動作を横目で見て――今の相手は沙羅だろう、と心の中で呟いた。仕事の話ではない。きっと、彼女と互いの近況を語り合っているか、あるいは愛莉の様子でも話しているのだろう。昂輝は邦夫の方を向き、穏やかに答えた。「いえ、まだです」「そうか。玲奈さんの友人なら、私が誰か紹介してやろうか?」邦夫の声には、どこか探るような響きが混じっていた。昂輝は一瞬も迷わず、静かに首を振る。「ありがとうございます。でも、お気持ちだけで十分です。もう、想う人がいますので」そう言ってから、ふと玲奈の方へ視線を戻した。――邦夫は、一目でそれを察した。その一瞬に、すべてを悟ったのだ。智也は以前から、昂輝の気持ちに気づいていた。だが彼はそれを軽く流してきた。しかし、邦夫が反応したのは今回が初めてだった。彼は声を和らげ、しかし執拗に続けた。「そうか......じゃあどうだ。三浦家の令嬢を紹介してやろうか?」久我山の上流階級――新垣家、須賀家、高井家、長谷川家、室町家、そして三浦家。いずれも名門と呼ばれる一族だ。邦夫の口から出た「三浦家の令嬢」という言葉に、玲奈は一瞬、思案する。もし先輩が三浦家の娘を娶れば、彼の立場
Read more