病院へ向かう車の中で、愛莉の意識はすでに朦朧としていた。玲奈は必死に呼びかけ、これまでの思い出をひとつひとつ語りかける。「愛莉、覚えてる?ママと一緒にアイスを食べた日......」「ほら、運動会で転んでも泣かなかったでしょ?」言葉を重ねるうちに、涙が頬を伝って零れ落ちた。かつては天真爛漫で、笑顔を絶やさなかった娘。今は、同い年の子どもたちともうまく関われず、心を閉ざしてしまっている。――どこで間違えたのだろう。自分が、ちゃんと向き合ってこなかったせいなのか。胸の奥が締めつけられるように痛かった。やがて車が病院に着く。ドアが開くと同時に玲奈は降り、娘を抱き上げようと身をかがめた。その肩を、智也がそっと押しとどめる。「俺が抱くよ。お前はもう十分、頑張った」玲奈は一瞬ためらったが、もう力は残っていなかった。黙って頷くと、智也に託した。智也は愛莉を抱き上げ、急ぎ足で救急外来へ走る。玲奈もすぐにその後を追った。診察室に入ると、愛莉はすぐベッドに寝かされ、血液検査の準備が進められた。高熱のため、医師は緊急で解熱注射を指示する。針が刺さっても、愛莉はぴくりとも動かない。普段はあんなに痛がりなのに――その静けさが、かえって恐ろしかった。玲奈の心臓が早鐘のように鳴る。自分が小児外科の医師であるだけに、事態の深刻さが誰よりも分かってしまう。少しでも処置が遅れれば、命に関わる――そんな最悪の想像を振り払おうとするたび、息が詰まりそうになった。智也も隣に立っていたが、何をしていいか分からず、ただ落ち着かない様子で立ち尽くしていた。専門外の彼には、声をかけることさえ怖かったのだ。やがて検査結果が出て、看護師が呼びに来る。二人は医師のオフィスへ向かった。デスクの向こうで、当直医が眼鏡を押し上げ、カルテから顔を上げる。「お子さんはインフルエンザですね。最近、人の多いところに行かれましたか?」その言葉に、玲奈はすぐ原因を悟った。子どもの免疫は弱い。人混みに出れば、感染するのも当然だ。彼女の脳裏に、あの夜の出来事が浮かぶ。「......病院へ行きました」その一言に、医師の顔が強張った。「病院?どうしてそんな所に!今は季節の変わり目
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