足が地面に着いた瞬間、玲奈はようやくほんの少し、現実の安心感を取り戻した。頬の涙を拭い取り、拓海に向かって首を振った。「大丈夫。ただ、少し怖かっただけよ......」拓海はまだ心配そうに、彼女の顔を覗き込む。「本当に?」「ええ、本当よ」玲奈の沈んだ表情を見て、拓海はためらいがちに尋ねた。「......また智也のこと、考えてたのか?」玲奈はすぐに眉をひそめ、彼を睨んだ。「どうして私が、彼のことなんか考えるの?」その反応の早さに、拓海は内心で苦笑する。――気にしていなければ、そんなに強く否定しない。だが、それ以上踏み込む気はなかった。二人が旧市街へ向かうころには、すでに夜明け前の時間だった。深夜にもかかわらず、旧市街の夜市はまだ人で賑わっていた。人の流れは絶えず、灯籠の光が石畳の道を照らしている。通りには伝統衣装姿の若い女性たちも多く、屋台には手作りの飾りやアクセサリー、ブレスレット、和傘、そして屋台料理が並んでいた。夜の旧市街は昼よりもずっと風情がある。熱気と人の温度が、夜気の中に溶け込んでいた。玲奈と拓海が並んで歩いていると、ある屋台の主人が声をかけた。「旦那さん、奥さんに何かを買っていかれませんか?」その「奥さん」という一言に、拓海の胸の中で何かが弾けた。顔に自然と笑みが浮かび、彼は屋台の前で立ち止まる。「玲奈、欲しいものあるか?何でもいい、好きなのを選べ」玲奈はちらりと見やり、並べられた小物を見比べた。木製の風車、紙細工の人形、小さな水車の模型。目が留まったのは、水で回る精巧な水車だった。それを見ていた屋台の主人が、すかさず声を弾ませた。「奥さん、見る目がありますね。これはうちで一番高い品ですよ」玲奈は思わずためらった。その様子を見た拓海は、即座に店主に言った。「包んでくれ。これをもらう」玲奈が珍しく興味を示したものだ。拓海は、それだけで十分だった。「待って、須賀君。いいの、いらないから。」玲奈は慌てて止めようとしたが、彼は耳を貸さない。店主が値段を言う前に、拓海は財布から二万円を差し出した。「......あ、ありがとうございます!」思いがけない大金に、店主の顔がぱっと明るくなった。水車の置物
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