All Chapters of バケモノが愛したこの世界: Chapter 71 - Chapter 80

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前兆

「ち、ちょっと!?そのまま海に入るつもり!?」  慌てて叫ぶレイ。 視線の先、そこにはいつも通りの格好、つまり水着では無いニイルが海へと入ろうとしていた。  それに不思議そうな顔を浮かべるニイル。「別に、魔法が有ればこの格好で問題無いのでは?」  そう言うニイルに、呆れながらもレイは返す。 「その格好で海に入る事がおかしいと言っているの。魔法が有ろうと水の中に入るのだからそれなりの格好をしてもらわないと。こっちが違和感を覚えるわ」  そうしてその表情のままニイルの全身を見やり、更に続ける。 「そもそもここに来てからもいつもと同じ格好で、傍から見てるだけでも暑苦しいのよね」 そう言われ自身の格好を見下ろすニイル。  その全身はフード、更にその下は今までと変わらず黒一色の全く肌を出さない服装であった。 女性陣はあまりの暑さに、今朝から観光で買った涼しげな服装をしていたのに対し、ニイルだけは変わらずいつも通りの服装を維持していた。  いつも身に着けている手袋までそのままで、まるで肌を見せてはいけないかの様だと感じるレイ。「実はとある事情から肌を出さない様にしているのです」  そして、そのレイの予想はこの言葉でどうやら正解だったと分かる。「また隠し事?」  しかし、だからと言ってそれで納得するかと言われれば否である。  半眼でニイルを見つめるレイ。 しばしの無言の後、降参だと言わんばかりに手を挙げ、ニイルが口を開いた。 「分かりました……あまり楽しい物では無いですからね?」  そう言い残し、着替える為に立ち去るニイル。「何……?それ……?」 「だから言ったでしょう?楽しい物では無いと」  数分後、戻ってきたニイルの姿を見て言葉を失うレイ。 ニイルの服装は昨日皆で選んだ水着だったのだがその下、正確にはその肌にビッシリと模様が刻まれていたのだ。  元の肌の色が分からなくなりそうな程、様々な色の模様が隙間無く首から下の全身を覆っている。  手足の先まで及ぶそれをよく見ると、所々何処かで見た事が有る様な物も含まれていた。  その時、ニイルが口を開く。 「貴女ならこれが何か分かる筈ですよ」 その言葉にまさかと思い、少しだけ神威賦与を発動
last updateLast Updated : 2025-08-23
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動き出すナニカ

 今までレイ達の周りを泳ぐだけだった魔鮫達が、一斉に襲い掛かって来る。  通常、単独でしか行動しない魔鮫が群れを成し、連携を用いてレイ達に迫っていた。 確かに魔獣化すると魔法を使える様になる分、知能は上がると言われている。  しかしその分凶暴性も増し、更に個体数も多くない事から、例外はあれど基本魔獣は群れを形成しない。  特にレイ達の目の前に居る魔鮫はその特徴が顕著で、複数体の同時目撃すら一切報告された事は無かった。  そんな存在が10体以上、しかも全員が協力し1つの獲物を狙うというこの事態は明らかに異常であり……「クソッ!」  その厄介さはニイルでさえ顔を歪める程であった。  故に瞬時に魔法障壁を展開する。 直後魔鮫の半数が全方向からから襲い掛かり、残りの半数がその隙間を埋める様に魔法を放つ。  その魔法は水魔法によりヒレから水刃を打ち出すという物。  水中で使う事により新たに水を生み出す必要も無く、威力も連射性能も高い。 そんな無数の水刃が、水の抵抗など無視して4人へと迫る。  よく見れば接近して来る魔鮫達の背ビレや胸ビレも、魔力により薄く光り輝いていた。 その魔鮫達のヒレが、障壁にぶつかる。  激しい音と共に海中が揺れ、魔鮫達が距離を取った。  しかし安心したのも束の間、その隙を埋める様に更に水刃が4人へと迫る。「装填!」  そこでレイが魔法装填で雷魔法を剣に宿す。  レイの剣が青白く輝き、周囲に稲妻の弾ける音が響き渡る。  それは数年前と比べ洗練され、威力も上がり魔力の拡散も極限まで減らされていたが……「チッ!」  水刃を弾いた際、正確に言えば周囲を覆う海水に触れた途端、雷となった魔力が海水を伝って流れ出してしまう。「水中では雷が広がりやすくなる為威力が落ちてしまいます!別の魔法で対応を!」 「なら!」  ニイルの助言に従い雷魔法を解除、先程魔鮫が使っていた水刃を生み出す水魔法を剣に込める。  そしてそれを振れば切先のみならず、剣の左右からも水刃が現れ、合計三本の水刃が海中を走り魔鮫達の魔法を弾き飛ばしていく。(神威賦与で瞬時に解析し魔法を真似たばかり
last updateLast Updated : 2025-08-24
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幻想種

 再び気絶してしまった男の治療を続けながら、他に生存者が居ないか確認する4人。  しかし、残念な事に気絶していた男以外の人間を発見する事は出来なかった。 その後レイのたっての希望で沈没船の調査も行ったのだが、そちらでも特に有益な情報を得る事は出来なかった。  ただ1点、調査の結果沈んでいた船が、先日見た調査団の船の1つだった事が判明したという事のみ。  他の船は見当たらなかったが、状況から察するにこの船同様沈められてしまったのだろうと全員が察する。「兎も角これで調査団に問題が起きている事は判明したのです。今は報告と、彼に治療を受けさせる事が先決です」 「……そうね、急ぎましょう」 周辺含め念入りに調査した結果、時間は大分過ぎ今は日も沈みかけてきている。  水平線に沈む太陽を眺めながら提案するニイルにレイも賛同し、一行はデミーラ共和国へ戻る事となった。  丁度男が意識を失い、目撃者も居ない事から帰りは転移魔法を使用したニイル。  一瞬にして今朝居た浜辺へと到着し、外套を着込んで4人は冒険者ギルドへと向かうのだった。「あれ?その人って確か調査に出た筈の……?一体何が?」  ギルドに到着し受付嬢に事態の説明をすると、案の定現場は騒然となった。 発見された男は病院へと搬送され、レイ達4人は詳しい話を知りたいと言われ別の部屋へと通される。 暫くの後に4人の前に姿を現したのは、支部長を名乗る男。  その彼にレイ達は先程までの経緯を説明する。「なるほど……魔烏賊だけでなく魔鮫まで……事態は報告されているより大分深刻な様だ」  支部長が唸りながら呟く。 報告では、魔獣の数は多いが魔鮫の様な強力な個体は今まで目撃されていなかったそうだ。  だからこそ、少ない人数でも何とか現状維持を続ける事が出来たとの事。「だが、強力な個体が今までに無い行動で襲ってくるとなれば、現状は崩壊しかねん」  腕を組みそう言う支部長。  そして、その予想は見事的中した様で。「失礼します」  ノックの後、ギルド職員と見られる男が入室してくる。  彼は悲痛な面持ちのまま、最悪の報告を始めた。 「昨日、別の場所にて魔烏賊討伐の依頼を受けていたパーティが……先程、全員遺体となって浜辺に倒れているのを発見しま
last updateLast Updated : 2025-08-25
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突然の邂逅

 レイ達の報告も終わり、その場は解散となった。  ニイルの警告を受けたギルド支部長も直ぐに動く事を約束し、他の職員と慌ただしく部屋を出て行った。「ひとまず、今日のところは皆さんお休みください。状況が変わりましたらご連絡いたしますので」  ギルドを後にする際、いつもの受付嬢にそう言われ拠点としている宿を伝えるレイ。  最後に、感謝の言葉と共に深々と頭を下げられながら、一行は宿へと戻るのだった。「今回の件で、国の連中が余程愚かでなければ傭兵の募集がかかる事でしょう。そうなれば私達も協力出来る様になると思います」 就寝前、いつもの如く部屋に集まり今後の打ち合わせをしていた時、ニイルはそう言った。  それに頷きながらレイも同調する。 「そうね。それに原因も明らかになった事だし、相手が魔獣なら私達も役に立てるかもしれないわね」 そう言ってやる気を漲らせるレイ。  正直、今回の原因が専門的な物ならレイは参加しないという選択肢も考えていた。  知識も無いのに参加して、他の人々の足を引っ張りたく無かったからである。  しかし荒事となればその心配も無い。  人並み以上には戦えると自負しているし、事実その実力も兼ね備えている。 故に相手が魔獣なら、と心の奥底で無自覚に油断していたのかもしれない。  その機微を察し、ニイルは苦笑いで忠告する。 「まだ確定した訳では有りませんので油断は禁物ですよ。ただ単に魔獣の大量発生かもしれませんし、別の要因かもしれません。そして……」 そこまで言って、ニイルは真顔になり言葉を続ける。 「その中で一番厄介なのは、相手が『幻想種』の時です」 それに息を呑むレイ。  ニイルがここまで言う相手は限られてくる。  ここ最近では無かった事だ。  有ったとすればそれより前、かの『英雄』達や『柒翼』を相手にした時で。 レイの考えを裏付ける様に、ニイルが口を開いた。 「相手を魔獣の延長だと考えているのなら返り討ちにされますよ。御伽噺に出てくる存在は伊達ではありません。そうですね、分かりやすく言うのなら……『幻想種』は『神性付与保持者』より強力ですよ」 「なっ!?」  あまりの衝撃に思わず声を上げてしまうレイ。  いくら強力と言っても、精々がブレイズやマーガの『英雄』レベルだと思っていただけに、その言葉は
last updateLast Updated : 2025-08-26
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世界で1番自由な首領

「まぁ、大抵の事は手紙に書いてあったんだが、てめぇの口からも聞いとかねぇとな?」  そう言いつつ笑みを浮かべ、レイを見つめるディード。(まるで捕食者ね)  それに対し、レイがディードに抱いた第一印象はこれだった。  鍛え上げられつつも、しなやかさも併せ持つ肉体。  薄い金色の髪から覗く獣耳。  そして獰猛な笑みと相対した者を射竦める様な鋭い眼光。  その全ての要素が凶暴な肉食獣を思わせる。  それは敵を威圧し、味方を魅了するカリスマの様で。(……っ!呑まれるな!今更臆してどうするの!)  その雰囲気に圧倒されそうになるレイ。  しかしかつて出会った『柒翼』達を思い出し……「私達は……」 「貴方に訊きたい事があって来たのよ、ディード・ホグウェル」  ニイルの言葉を遮り、敢えて挑発的な態度をとって意識を切り替えた。 レイの態度に部屋内の空気も変わり緊張感が走る。  亜人達がレイに敵意を向け始める中。 「ハッ!良いねぇ!気の強ぇ女は嫌いじゃない」 当の本人であるディードは、寧ろ愉快そうに笑みを深めていた。  それに他の亜人達の空気も正常に戻っていく。(流石、私が感じたカリスマ性は本物ね)  彼等の反応から、ディードがただ暴力による支配だけでは無いという事が伺い知れる。  特に同じ獣人族からの人望は厚いとレイは感じた。「それで?訊きたい事は?……と、言いてぇところだが……」  そこでディードが立ち上がる。 「こっちも時間がねぇんだ。だからこっちの要件だけ伝えるぜ」  そしてディードはレイ達も驚く行動に出た。「先日、同胞である獣人族を助けていただき、本当に感謝する。貴殿等が居なければ彼は今頃死んでいただろう。この事態が判明するのも遅れたかもしれん。国を代表し礼を言う」 「なっ……!」 「ほう……」  何とディードが頭を下げたのだ。  これにはレイも驚愕し、ニイルは感嘆の声を上げる。(プライドが高い様に思えたけれど、同胞の為に簡単に頭を下げるのね……成程、これが世界随一の貿易国を創り出した男) 以前出会ったスコルフィオもそうだったが、たった一代で国を興した者達は、優れたカリスマ性を持っていた。  レイは今、その一端に触れた様に感じたのだった。「なんだぁ?俺が他
last updateLast Updated : 2025-08-29
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災厄の海

「まさか本当にすぐ出発するなんて思いもよらなかったわ……」 呆れを滲ませて言うレイ達が居るのは海上のとある船。  あの後、半ば連行される様に船へと案内され、そのまま即座に出港したのである。「以前屋敷のメイドから聞いた通り、随分と自由奔放な人物の様ですね」  これにはニイルも苦笑しながら答えるしかない。 2人共早期解決を目指して行動していたが、まさかそのまま直ぐに現場に連れ出されると思っていなかった。  しかもこの国の頭首に連れられて、である。  本来なら軍を編成し、国のトップは有事の際の対応の為、国に残るのが必定と考えていただけに、全てが想定外に進んでいる現状に困惑を隠しきれない。  しかしそれはどうやらレイ達だけの様で。「まぁ、いつもの事ですよ……」  出発の前、屋敷にてレイはベスタを問い詰めたが、彼から帰ってきたのはそんな諦めを多分に滲ませた言葉だった。  そしてそれはどうやら他の亜人達も同様で、皆苦笑して誰もディードの暴走を止めようとはしない。  いや、正しくは止まらない事を知っているかの様な、そんな反応だった。(彼等も苦労してるのでしょうね……)  そしてディードの代わりに留守を任せられたベスタに思いを馳せ、少しだけ同情してしまうレイ。「ハッ!あんな所で無駄な時間を費やす位なら、さっさと動いた方が幾分時間の有効活用になるだろうが!何時までもグダグダ言ってねぇでさっさと腹くくれ!」 そんな遠い目をしているレイに、ディードが発破をかける。  彼の言葉も一理有るし、早く動く事にはレイ達も賛成なのだが…… (そういう事じゃないんだよなぁ……) こうしてレイも、諦めてため息を吐く事しか出来ないのであった。 「そういや手紙にはテメェらの他に獣人族と森人族が居るって書かれてたが、今日は居ねぇのか?」 船が出発して程なく、船旅も落ち着きをみせ始めた頃、ディードがレイ達に問い掛けて来た。  ランシュとフィオの2人も、最終的にスコルフィオとは少し仲良くなっていた。  故にディードへ宛てた手紙にも、その2人の事を記していたのだろう。「えぇ、彼女達は今別行動中でして。2人は情報収集に長けているのでそちらを任せているんですよ」  その質問にニイルが答える。  移動中、2人については口裏を合わ
last updateLast Updated : 2025-09-05
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異変

 最初に異変に気付いたのは、同乗している獣人族達だった。  現在レイ達が乗っている船には、ディードが選抜した精鋭の亜人達も同乗している。  海上という事で鳥人族や魚人族等も居るが、その半数は獣人族で構成されていた。「うっ……!」 「なんだこりゃ!」  その獣人族達が一様に苦悶の声を上げ、酷い者はその場に蹲り出したのだ。「……こりゃひでぇな……」  その影響は当然ディードも受けている様で、顔を顰めながら船の行先を見つめている。「ど、どうしたの!?」  その異様な光景に思わず声を上げるレイ。  何しろレイはもちろん、ニイルでさえ何の変化も感じられないのだ。  思わずニイルを見るレイだったが、首を横に振り否定を返してくる。「暫くすりゃ嫌でも分かるさ」  そんなレイ達に一瞥くれ、視線を元に戻すディード。  その間も船は進み、段々と他の種族達も呻き声を上げ始める。  毒ガスなのではと警戒していたレイだったが、目的地に近付くにつれそれが思い違いだったと気付かされた。「酷い匂い……」  思わず顔を顰めてしまう程の悪臭が辺りに充満しているのだ。  人間のレイですら、思わず嘔吐いてしまいそうな程である。  嗅覚等の感覚が鋭い獣人族はひとたまりもないだろう。「これは、腐臭ですか?」  流石のニイルも少し顔を顰めながら辺りを見回す。  レイも周囲を確認してみるが、異臭以外特に変化は感じられなかった。「あぁ、最初嗅いだ時、かなり強烈だったが生物特有の腐敗臭がした。だから恐らく近くに何かしらの死骸が有る筈なんだが……」  ニイルの思考を察したらしくディードが答える。  そう、この原因が腐臭だとするならその発生源が近くに存在する筈である。  しかし目に見える範囲では何も居らず、ただの水平線が広がるのみ。「だがこの辺りで異臭がするなんて話は聞いた事がねぇ……しかもこんな強烈なのなんざ特にだ。発生源を探りたくても獣人族の嗅覚もマヒっちまって使い物にならねぇ」  そう言うディードも未だに少し辛そうでは有るが、他の亜人達に指示を出している。  この原因を調査する様伝えたのだが、獣人族の一番の索敵方法で
last updateLast Updated : 2025-09-12
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海上の激闘

 レイの叫びと共に瞳が黒く染まる。  それと同時にレイにしては珍しく、空中に魔法陣を展開していく。  その数は次第に増していき、ほんの1分足らずで視界を覆い尽くす程にまで膨れ上がった。「おいおい……こいつぁ……」  魔法に疎い獣人族であるディードでも流石に分かる。  レイが行おうとしているのは『大規模魔法』だと言う事に。 大規模魔法とは、複数の魔法師達で構成する魔法の事である。  その名の通り大規模故、1人では到底処理しきれず複数人を必要とし、各々が作り上げた魔法陣を組み合わせ1つの魔法とする、そのほとんどが広域殲滅用として使われる魔法だ。  遥か昔に起こったという戦争の際に開発され、軍事兵器として使用されたソレは、もちろん1人が使用出来る物では無い。  先述の通り、この魔法は広範囲であり高出力。  故にその魔法はかなりの複雑さを有しており、それぞれの魔法陣を魔力で無理やり繋げる為、魔力の消費も尋常では無い。 当然、普段のレイでは1人で使用する事など不可能。  あらゆるモノを解析する眼と、今まで得てきた知識や技術を総動員し、それを行うのに必要な脳の演算処理を、ニイルに少し肩代わりさせている。  ルエル戦の時から繋がっているパスを用いる事で可能とした偉業であった。 しかし、それでも普通の人であれば1人で魔法を発動する事は出来ない。  それを可能とするのは彼女がそれだけの魔力を扱うことが出来き、そしてそれに驕らず努力する魔法の天才である事。  何よりこの短期間でそれ程までに『神威賦与』を使いこなすという、以前ニイルが疑問視していた順応性の為せる技であった。(雷魔法をベースに余分な箇所は削除、更に魔力効率を上げるために『重複』を使用し、ここを書き換えて魔法陣を自然に繋げる……)  解析した魔法陣を書き換え、先日学んだ技術である『重複』すら利用して、今有る全てで魔法陣を構築していく。  そうする事で視界全てに広がる程存在した魔法陣が、段々と1つの魔法陣へと形を変えていく。  その間僅か数分。  一流の魔法師が複数人で発動する魔法を、1人の少女がそれだけの時間で作り上げてしまった事実に。「まさかこれ程とは……」  初めて目にするレイの姿に、ニイルも驚きの声を上げる。「まずは数を減らす!」  
last updateLast Updated : 2025-09-19
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違和感

 自身に身体強化、剣に魔法装填を施し魔鮫を一瞬で切り伏せるレイ。  その様子を見ていた周りの亜人達から歓声が上がった。「いいねぇ!テメェらも遅れんじゃねぇぞ!」  それに気を良くしたのか、ディードがそう叫び部下達を鼓舞する。  そうして亜人達も雄叫びを上げながら善戦し、何とか拮抗状態を維持していた。 いくら精鋭達が揃い、水中では魚人族が、空中では鳥人族が、その両方で獣人族が活躍しようと、未だ500以上居る魔獣達相手ではいつその拮抗状態が崩れるか分からない。  これを維持出来ているのは偏に、ディードの活躍に他ならなかった。 亜人達も優れた身のこなしで魔獣と退治しているが、ディードはたった1人で複数の魔獣を相手取り、そして圧倒していく。  その動きは他の亜人達よりも圧倒的に疾く、そして一撃で敵を屠る威力を誇っていた。(確かに身体能力は圧倒的ね。あのスピードに追い付くには『身体強化+10』でも厳しそう)  それを魔法を使わず行っているのだから驚愕には値する……が。 (でも彼の力がこれだけだとしたら『柒翼』と呼ばれるかしら?この程度ならあの『剣聖』、ブレイズにだって対応出来る……と思う)  そこまで考え、先程のニイルの言葉を思い出すレイ。 (そういえば魔法使用中は彼に近付くなって言っていたわよね。つまり彼は魔法に対して強いアドバンテージを持っているのかしら?それが彼の『神性』……)  魔鮫が放った水刃を弾き、別の魔獣にぶつけながらディードを観察するレイ。 エレナートにてスコルフィオから聞いた話によると、『柒翼』とは『聖神教会』が定めた人類の七つの大罪、それを象徴とする悪魔の名前が付いた神性を持っているのだという。  その能力の詳細は分からないそうだが、スコルフィオの強さから鑑みて、かなり強力な力を有していると考えて良いだろう。  魔法が使えないという欠点を補って余りあるモノだとするなら、到底油断出来る相手では無い。(ニイルは視れば分かるって言っていたけれど、今の私じゃ彼が能力を使用していないと詳細は視えないのよね)  故に先程から『神威賦与』
last updateLast Updated : 2025-09-26
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力への恐怖

「向こうの思惑が分からない以上、早期決着をさせた方が良いかもしれません」 そう語り終えたニイル。 確かに今回の目的は原因の排除、つまりは『幻想種』の討伐である以上、ここでの疲弊を避けるのは道理である。 しかし、それが出来ない故の現状なのであって……「言いてぇ事は分かるが、それが出来たら苦労しねぇよ。現にさっきのとんでもねぇ魔法でだって、雑魚は減らせたが大物は殺れなかったじゃねぇか」 それを理解しているからこそ、ディードも難色を示す。 レイもディードと同じ感想を抱いていた。 先程のレイの魔法、魔力を節約したとはいえレイの持つ全てを用いた本気の攻撃だった。 それで約半数は減らせたが、高ランクの魔獣は未だ健在。 同じ手法を繰り返したとしても殲滅出来るかどうかは怪しいところではあった。 もちろん現状は『雷装』等は使用しておらず、全力で戦っているとは言い難い。 しかし仮にそれを使用した所で、現状をすぐにでも打開出来るとは到底思えなかった。「俺の『神性』だってそうだ。アレは確かに強力だが殲滅力は対してねぇ。1体1ならまだしも、1体多の状況じゃ速攻で終わらせる事は出来ねぇぞ?」 どうやらディードの方もレイと似た状況らしく、同じ様な所感を述べている。 未だにその能力の詳細は不明なままだが、この状況を打開する様なモノでは無いのだろう。 つまりはこのまま現状を維持し、地道に敵を減らすしかない、と2人は思っていたのだが。「使いたくありませんでしたが奥の手を使います。これが決まれば一瞬で片がつくでしょう」 どうやらニイルには切り札が有る様であった。 レイすら知らない事実に驚きの声を上げる2人。「んだそりゃ!?そんなの有るんならさっさと使えよ!」「言ったでしょう?奥の手だと。これを使うには色々と制限が有るんですよ」 この戦闘で少なくない亜人達が重軽傷を負っている。 それを思えば、声を荒らげてしまうディードの気持ちも分かりはするのだが。 それでも
last updateLast Updated : 2025-10-03
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