Semua Bab バケモノが愛したこの世界: Bab 51 - Bab 60

84 Bab

人でありながら人を越えし者

『雷装』を発動し形勢を覆す事に成功したレイだったが、その胸中は穏やかではなく、決して油断出来る状況では無い事を悟っていた。(あの距離で発動した『雷装』の、しかも略式に反応して未然に防ごうとして来た……後ほんの少し遅れていたら私がやられていただろうタイミングで。しかも……) レイは土煙が上がる方を見る。  それぞれブレイズとマーガが吹き飛んだ方向だったが、どちらの気配も感じる。  どうやら2人共戦闘不能には至っていないらしい。(それなりのダメージを負わせた筈だけれど、それ以上に魔法障壁が邪魔をして思った以上に傷を与えられなかった。まさかあの一瞬であれ程の魔法障壁を生み出すなんて……) 現在あの2人には動きが無い。  すぐに動ける様な傷では無い筈だが、土煙が邪魔をして詳細が見えない。  もしかしたら罠か、それともこの『雷装』の対策でも講じているのか。  しかしこの『雷装』を発動している以上、レイも悠長にしていられる時間が無くなったのは事実である。(さっきの攻撃、あの時は『強化+10』に『雷装80%』だった。それで決定打にならないのなら『雷装100%』を使うしか無い。だからこそ魔力の使い道を考えない……と……)  そこでレイはある事に思い至る。  それは常に全力でいる事の必要性だ。  魔力運用の観点から見れば、これは非効率も甚だしい。(例えばそう、今みたいに。常に80%を維持するんじゃ魔力を無駄に垂れ流しちゃう。そうじゃなく必要な時だけ出力を上げ、そうじゃない時は下げてしまえば……) そう考え意識を集中させてみる。  いつでも『雷装』の出力を上げれるように強化魔法はそのままで、『雷装』の出力だけを下げていく。  一瞬、解除するという選択肢も浮かんだがすぐに否定するレイ。  再発動の際は、略式とはいえ一瞬だけ発動に時間が掛かる。  先程はその隙を突かれそうになったのだ。  強者との戦いでは出来るだけそういった隙は無くすべきだろうと判断する。(とりあえず30%なら大抵は反応出来る筈。後は都度出力を調整して対応する様気を付ければ……)  そして更に考え至るレイ。  この技術は様々な応用が利くのではないか、と。 そう、例えばレイの持つ『神威賦与』にだって……(今
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-03
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加速する戦い

 流石に嘘だと信じたかった。  しかし現実と共に思い知らされる。 英雄と呼ばれる者の恐ろしさを――(たった1回、それも目で追えない様な速度だったのに……たったそれだけで対応してきた。そもそも雷に追い付くなんて、人間に出来る芸当じゃ無いのだけれど……) いくら100%の『雷装』では無かったのだとしても、この技はレイにとっての切り札。  速度も、本物の雷に劣るが決して並の人間が捉えられる速度では無い。  身近に師匠が居るから錯覚してしまうが、英雄と呼ばれるブレイズとマーガも、バケモノになる事を選んだレイも、本来なら人類では最強格なのである。(そういえば、いつだって御伽噺ではバケモノは退治される側だったわね) 幼い頃、妹と共に読んでいた御伽噺を思い出すレイ。  世界各地で伝えられている物語は様々で、ある者は怪物を、ある者はドラゴンを……  そしてある者は神すらも屠り、英雄と崇められていた。  レイ達はそのどれもが好きであり色々と読み漁ったものだが、思い起こせばそのどれもが、人間がその上位の存在を打ち破る話だった。  だからこそ人類は絶望に負けず希望を見出し、ここまで繁栄して来れたのだろう。  その希望の象徴たる『英雄』の称号を与えられた人間が弱い筈は無く、その相手はバケモノ未満であるレイ。(御伽噺なら私がやられて終わりなんだろうけれど、これは私の物語なのよ!) 王道を外れても尚、自身の物語を紡いでいく為に、レイは主人公達へと立ち向かうのだった。 「ぐうっ!」  雷速で突っ込んで来たレイの剣を受け止めながら、苦悶の声をあげるブレイズ。  身体強化の強化、マーガ曰く『真強化』のお陰で状況は五分五分に持ち直したかに見えているがその実、未だに2人の不利が続いている事を彼等は察していた。  理由は幾つか挙げられるがまず、レイには先程の回復薬がまだあるかもしれない、そして今以上の切り札が有るのかもしれないという精神的重圧。 次に『雷装』を捉えたといってもそれはブレイズが反応出来るというだけであり、こちらも同等の速度を常に出せるという訳では無いという事。 現在、ブレイズはその強化された知覚と身体能力、そして今までの戦闘経験を活かしてレイの猛攻を防いでいる。  ブレイズが剣を振り抜く、又
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-04
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覚悟と決着

「さぁ、そろそろ決着をつけましょうか?」 挑発する様にそう告げるレイだったが、決して勝算の目処が立ったからでは無い。  寧ろその逆で、いよいよレイの魔力の底が見えてきたからである。  これ以上長引けば、2人を削り切る前に確実にレイが魔力切れを引き起こす。  当初想定していた、最悪のシナリオ通りに進む事が予想出来た。  故に、レイらしからぬ挑発も兼ねた宣言を行ったのである。 しかしその挑発を受けても、対する2人の冷静さが失われる事は無かった。  もちろん、状況的に追い込まれている事は重々承知の上だがそれでも尚、2人は勝利を諦めてなどいない。  この程度の苦境、英雄と呼ばれるようになってから今まで、いやそれ以前からも、幾度となく乗り越えてきたのだから。「しかし追い込まれてるのもまた事実ってね。そっちはどう?」  わざと明るい雰囲気を醸しながら言ってのけるマーガ。  ここで悲観した所で状況は好転しない、それ故の態度だった。「確かに早々に決着を付けたいのはこちらも同じだがな。だがこちらも奴を殺れるだけの決め手が無い。持久戦に持ち込まれればこちらの敗北は目に見えている」  マーガなりの気遣いに感謝しつつ、しかし厳しい現状を冷静に突き付けるブレイズ。  マーガの魔力も、ブレイズの体力も限界に近い今の状況では短期決着を狙うレイと同じではある。  しかしこちらの手の内を全て晒し、その上で互角である。  少しでもレイを上回る要素が無い限り勝ち目など……「いや、有るよ」  と、マーガは断言する。 「さっきやってみてコツは掴んだんだ、だからさっきよりも大量の魔法を生み出せしてみせるよ。それを使えば彼女の手数の多さと機動力を削げる筈さ」  先程ぶっつけ本番で使用した複製魔技と『真強化』の併用。  その経験を活かしレイの速度を殺すとマーガは言う。 「そして隙が生まれたなら、君はあの技を使えるだろう?」  そう笑いながら問い掛けてくるマーガに、ブレイズは1つの技を思い浮かべる。 それは彼が『剣聖』と呼ばれるに至った理由。  彼が独学で生み出し、現状彼しか使えない奥義『五重斬』であった。  一瞬にして五回斬り付ける、彼の剣速でしかなし得ないその技なら、確かにレイを捉えられるだろうとブレ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-05
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夜の女王、その真の力

 土煙の中から姿を現すマーガ。  今にも倒れそうな様相で意識も朦朧としているが、その瞳には確たる意志を宿していた。 横で倒れているブレイズに目を向けるマーガ。  意識は無いが呼吸は辛うじてしている状態だった。  しかしその状態も長くは続かないだろう、最早一刻を争う状態であろう事は傍から見ても理解出来た。(魔法障壁のお陰で、何とかお互い一命は取り留めた。敵の増援が来た以上本来なら部下を呼んで撤退するべきなんだろうけど……) 周囲に意識を向けるが戦闘の音が全く聞こえない。  最後に見たのは、部下全員がたった1人を相手に向かって行った時。  それから一向に助けに来ないところを見るに、想像したくは無いが全員やられたのだろう。(敵の増援が来た以上、早々にこの場を切り抜けなければならない。僕の魔力ももう空だけど、何とか君だけは逃がしてみせるよ) 内心でブレイズに語り掛けるマーガ。  彼を喪う事はセストリアの、いや世界にとっての損失だ。  それ程この『剣聖』は人類にとっての希望なのである。 『魔王』と呼ばれるマーガもそんな人物の1人だとは露知らず、そんな事を考える。 だからこそ彼はここで命を使い果たす覚悟で立ち上がったのだ。 「まさか立ち上がるなんて……」  苦悶の表情を浮かべながらレイが呟く。  正直なところレイも限界が近かった。  身体の傷もそうだが何より激しい頭痛と、魔力切れを起こしかけている状態のせいで思考が纏まらない。  ニイルがこの場に来たとはいえ、最後の最後に彼に頼る事はしたくなかったレイ。  何とか力を振り絞り剣を構える。「確かにあの状態で立ち上がるのは流石としか言えませんが、しかし彼にはもう魔力は殆ど残っていません。このまま逃げるのであれば見逃すのも手では有りますよ?」  ニイルが漆黒に輝く眼でマーガを観察し言う。  その温情はあの2人に対する物では無く、非情さを捨て切れない優しい弟子に対する思慮であった。 しかしレイは険しい表情のままマーガを見つめる。 「ここで逃げ出すなんて選択、彼等がするとは思えないのよ」 マーガのその瞳、その奥に宿る激しい炎に見覚えがあるレイ。  そう、それはかつて祖国を滅ぼされ、復讐を誓ったあの日の自分の瞳によく似ていて…… その時、マーガが懐から何かを取り出す。  遠目からでは
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-06
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アスモデウス

「『神性』?それに『惑わす淫魔』って……」 聞き慣れない単語を耳にし、1人呟くレイ。  だがその圧力はどこか身近で、しかしその何倍も大きくて……「『神性』とは、簡単に説明するならば神性付与の上位互換です。かつて存在した神の権能、その半分程が人間と混ざり合い新たに名を得たのが『神性』、その保持者達を『神性保持者』と呼びます」 ニイルの説明に愕然とするレイ。  かつてレイが勝てなかったベルリや、序列大会で会ったルヴィーネ、レイが出会い戦った相手はどちらも尋常では無い強さを有していた。  しかしその『神性付与保持者』達でさえも、『神性保持者』の前では劣るのだという。  にわかには信じがたいが、そもそもレイはこの力の事をよく知らない。  いくら聞いても、ニイルが詳しく説明してくれなかったのだ。  なので自身の『神威賦与』の事についても、ほとんど何も知らないというのが現状である。  何故『神性付与』では無く『神威賦与』なのか、神の権能とは何なのか。  そしてかつて存在した神とはどういう事なのか……「それって一体……」  どういう事なの?  そう続く筈だったレイの言葉はしかし、それ以上続ける事が出来なかった。 何故なら、一瞬にして目の前の光景が変わってしまったから。  あまりにも理解が出来ない、そんな異常な光景に。  魔薬を飲んでから、マーガの意識は暗い水中に沈む様にどんどんと薄れていっていた。  自分の身体が自分の物では無くなって行くかの様な、身体と意識がどんどん切り離され、意識だけが闇に飲まれて行くかの様な、そんな感覚。  実際、現実で暴れているマーガに意識は既に無く、本能で暴れているだけの獣と化していた。 そんなマーガの前に突然現れたスコルフィオ。  桃色の髪をしたその女性を見た時、マーガの生存本能が悲鳴を上げた。  見た目は普通の、いや、絶世の美女なのにも関わらず、スコルフィオからは死の恐怖しか感じ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-07
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惑わす者

「一体……何が起こってるの……?」  震える声で囁くレイ。  誰かに対して言った言葉では無い。  ただひとりでに、無意識の内に出た言葉であった。 レイは全てを目撃していた。  スコルフィオの周囲に突然現れた騎士達も。  その騎士達と戦うマーガも。  スコルフィオが燃やされ、しかし何故か死なずにマーガ諸共斬られる所も。  そして、意識を取り戻したマーガの首が刎ねられる所も…… その全てが、まるで現実の上から重なって流れる映像の様に、半透明な彼等の一部始終を目撃していた。  なのでもちろん現実には何の変化も無く、項垂れたまま動かないマーガ、それを見つめるスコルフィオ。  そして結界内でそれを見ているレイ達、全員が微動だにせずその行く末を見守っていた。「今までのアレは全て幻覚です……スコルフィオが魅せた幻覚がこの結界すらも貫通し……私達にも見えたのが先程の光景です……」 いや、1人だけ肩で息をし、ふらつきながらもレイの疑問に答える人物が居た。  ニイルである。  彼は地面に手を付き、結界を維持しながらもその漆黒に輝く瞳でスコルフィオを視続けていた。「ぐふっ……!」  しかしその様子は明らかに異常でその瞳からもちろん、鼻や耳からも血が流れ、最後には吐血迄してしまった程。「ニイル!?」 「お兄ちゃん!?」 そのあまりにも異様な姿に声を上げるレイ達だったが、それを手で制しニイルは話し続けた。 「大丈夫です……脳の処理限界を超えただけで……まだ耐えられますので……流石に4人分の視覚情報を処理するのは……今の私には厳しかった様です……」 そう言われレイは気付く。  以前ルエルと戦った際、レイが神威賦与を使用した時も似た様な事をニイルは行っていた。  今回もそれと同じ様に、結界内のレイ達3人分の情報処理を、ニイルが肩代わりしてくれたのだろう。「で、でも!それで
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-08
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登城

 全てが終わりレイ達4人がいつもの宿に戻った時には、太陽が昇り始める時間になっていた。  朝日に目を細めると緊張が解れたのか、途端に空腹と眠気がレイを襲う。(そういえばご飯もまだだったわね)  仕事終わりの食事をするつもりがここまでの騒動になってしまった事に、つい苦笑してしまうレイ。 今すぐにでもベッドに飛び込みたい欲求を堪えて、まずはニイルの部屋でレイとニイルの治療を行う事となった。  治療と言っても例の如く、ニイルの用意した魔法薬を飲むだけなのだが。 しかしそこで一悶着起きた。  ニイルから差し出された魔法薬を見た瞬間、今までの鬱憤が爆発したのだろう、レイが以前苦言を呈した時以上の怒りでもってニイルに詰め寄ったのだ。「魔力は治癒魔法では回復しないからこれを飲むのは分かるわ。でもいい加減この地獄を何とかしないと耐えられない」  と、今までニイルに向けた事の無い剣幕でそう告げたのだ。「以前貴方は言ったわね?飲んだ事が無いから分からない、と。なら今すぐ貴方も飲むべきだわ。そうすればいかに貴方が悪逆非道な行いをしてきたのか分かる筈よ」  その迫力は、フィオやランシュでさえもレイを止めるのを躊躇わせる程。  流石のニイルもその雰囲気に呑まれつつ、抵抗を試みる。 「い、いえ……私も飲みたくないから飲まない訳では無く、飲んでも意味が無いから飲まないだけで……」 「下手な言い訳は止めてちょうだい。いいから黙って飲みなさい」 ニイルもスコルフィオに対する結界で、脳へのダメージを負い魔力も減少している。  故にレイはその言葉を嘘と切り捨て、まるで『雷装』を纏っているかの如くニイルから薬をひったくり、ニイルの口へと流し込んだ。 そしてその日、ニイルは長年連れ添っているランシュやフィオですら見た事が無い表情を浮かべ、薬を改良する事を固く誓ったのだった。  その後軽く食事を済ませ、各々部屋で休息となった。  到着した時は喧騒に包まれていた宿も、レイ達が食事を始める頃には落ち着きを取り戻しつつあった。  街の状況を確認したくもあったが、夜にはスコルフィオとの約束、何より眠気が限界に達しレイは泥
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-09
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あの日の真実

 ここはとある大陸のとある場所。  普通の人間なら近寄りすらしない辺鄙な場所である。  そして本来そこを使用する者達も、常ならば一年に一度の定例会にしか集まらないのだが、今日に限ってはとある人物の招集により臨時で集まっていた。 巨大なテーブルに席が7つ。  特に指定は無いのだが、いつもの様にまるで自分の席が決まっているかの如く座る6人。  その各席の後ろに控える様に6人が立ち、合計12人がこの場に集っていた。「さて、本日は急な呼び掛けにも関わらずお集まりいただき、誠にありがとうございます」  そう言って話し出したのは『傲慢』と呼ばれる男。  ここに集う者達は、お互いの本名も素性も知らない者達ばかり。  更にそれを探るのも暗黙の了解として禁じられている。  故にお互いの事を、自分に冠せられた罪の名で呼び合う事が通例となっていた。「急な招集という事もあり、生憎『憤怒』殿は来られませんでした。なので本来なら次の定例会でお話するべきなのでしょうが、緊急の案件につきこの様に緊急招集という形で……」 「『憤怒』が来ないなんざいつもの事だろうが。能書きは良いからさっさと用件を話せ」『傲慢』の話を遮り『暴食』と呼ばれる男が口を開く。  恐らくこの中で、唯一全員に素性がバレているであろう人物。  それ程までに彼は世界的に有名で、他の素性を隠しているメンバーと比べても異質だった。『色欲』と呼ばれる女性も最近そこそこの知名度を獲得する様になって来ていたがそれでも彼には遠く及ばず、何より他の人物達、特に『憤怒』に関しては定例会にすら殆ど顔を出さない為、謎の人物として認識されていた。 その顔立ちから極東に存在する島国の人間なのではないかと思われているが、その詳細を誰も知らず、また知ろうとする者も居ない。  何故なら大なり小なり各々の正体を隠しておきたい人物が集まっているのがこの『柒翼』と呼ばれる組織であり、自ら望んでやぶ蛇と戯れたいと思う奇特な存在が居ないからである。「……そうですね、では本題に入りましょう」  故に『暴食』の性格も把握しており、『傲慢』はそんな彼を咎める事も無く話を進める。「本日皆様に来ていただいたのは、とある国の存亡を決めていただく為です」 「存亡?」『暴食』が訝しげな表情を浮かべながら言う。  それは
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-10
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謝罪と困惑

「言い訳にしか聞こえないと思うけど〜。あの日〜全員の意思で滅ぼそうとした訳では無いの〜。それを知っておいてもらいたくて〜」 そう締め括り、スコルフィオは過去を語り終えた。  彼女にとっても嫌な思い出だったのだろう、そう言い終わった彼女の顔には疲労が見え、苦悶の表情を浮かべている。  だがこの中で一番苦痛を感じているのは間違いなくレイだろう。  そんな彼女は話を聞き終わった後も俯き、その表情は薄紫色の髪に隠れて伺い知れない。「だから私は〜貴女に敵対しないと誓ってるの〜。私も自分の国を守ってるから〜、貴女の気持ちは少しは分かってあげられるし〜」  気遣う様な表情を浮かべスコルフィオはレイへと話し掛ける。  その間もレイは無反応だがスコルフィオは構わず続けた。 「だからこそ、あの時貴女達を救えなくて本当にごめんなさい。私の力が足りないばかりに、貴女にはとても辛い過去を背負わせてしまった。謝っても許される事では無いけど、それでもこれが私の本心よ」 口調を本来のものに戻し、椅子から立ち上がり頭を下げるスコルフィオ。  その後に続いて控えていたヴァイスも頭を下げた。「償いに、貴女の要望を可能な限り叶える事を誓うわ。それだけじゃ許してはもらえないでしょうけど、誠意だけは示しておかないと」 頭を下げ続けるスコルフィオ達だが、レイは一向に反応を見せない。  怒りを露わにするでも無く、悲しみに涙を零すでも無く、ただ俯いたまま微動だにしなかった。「失礼ですが、この子が失ったのは故郷そのものであり、それに代わる様な物はこの国そのものを貰い受ける事と同義だと思うのですが、そう考えてもよろしいのでしょうか?」 見かねたニイルが口を挟む。  それにスコルフィオは頭を上げ、苦笑を浮かべながら言った。 「私よりもこの国を良くしてくれるのならいくらでも差し上げるし、私の命を差し出す覚悟は有るわ」 それにヴァイスが驚きの表情を浮かべスコルフィオを見るが、構わずスコルフィオが続けた。 「でもこの国を滅ぼすというのならそれは呑めない。もしそれが要求なのだとしたら私は最後まで抗います。この国の子達は私の命よりも大切な、何よりも替え難い宝物なの」 真剣な顔でそう言うスコルフィオ。  その覚悟を持った表情と言葉で、彼女がどれだけこの国を愛しているか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-11
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バケモノの後悔

 レイが走り去って行くのを見送る事しか出来ない一同。  静寂に包まれた部屋、誰しもが動けない中最初に動いたのはフィオだった。  勢い良く立ち上がり、ニイルを睨みつけるフィオ。  その表情は怒りと、そしてほんの少しの悲しみと同情の色が混ざっていた。「もうお兄ちゃん!まだ子供のレイに対して言い過ぎ!レイの気持ちを知っててあそこまで言うなんて大人気ないよ!」  フィオにしては大変珍しく、ニイルを叱りつけレイの後を追って部屋を出ていく。 残された一同、特にニイルは背もたれに寄り掛かりながら疲れた様に溜息をついた。「なんというか〜……私も酷い考えを持ってると思ってましたが〜、貴方のはレベルが違いましたね〜……どう生きればそんな思想に至れるんですか〜?」  苦笑しながらそう問い掛けるスコルフィオ。  人の上に立つ以上、感情で左右されない様に努めてきた彼女も、昔はレイと同じ考えを抱いていた。  いや、誰だって多少の差異はあれど同じ価値観で生きているだろう。  それでは国が立ち行かないから封印しているだけで、それでも根底にあるのはこの国、ひいては住民達に対する愛情に他ならない。  しかしニイルはそれを根底から否定し、情を一切考慮しない考えを持っていた。  為政者ならば完璧な国を創れる才能であり、そこに住まう者達にとっては監獄になりかねない、そんな思想。  人を従える立場から気になり、そんな質問をしたスコルフィオだったが、意外にもニイルはその質問に口を開いた。 「長い年月生きていれば……必然と至りますよ……それが幸か不幸かに関わらず……ね」 目を閉じ苦笑しながらそう答えるニイル。  まさか返答を貰えるとは思わず、驚きの表情でニイルを見るスコルフィオ。  何よりその内容の方に驚きを隠せない。  恐らく彼の力の秘密であろう事実の一部を、仮にも敵であるスコルフィオに提示したのだ。  お陰でニイルに対するある仮説が思い浮かぶ。「同族嫌悪……というやつですかね。あまりにもかつての私を見ている様で……ついムキになってしまいました。お恥ずかしい話ですよ」 まるで敢えて開示するかの様に、この状況の詫びと言わんばかりに語るニイル。  そんな思惑もあったが実のところただの愚痴、というの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-12
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