All Chapters of バケモノが愛したこの世界: Chapter 61 - Chapter 70

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生命の選択

「大昔、アタシ達がまだ子供だった頃、アタシ達はとある孤児院で育ったの」  フィオは静かに、そう語り出した。  その横顔をレイは眺め続ける。「その頃は今のアタシ達3人以外にも沢山の家族が居てね。見ての通りアタシ達は血の繋がりも無くて、種族すらバラバラだったけど、それでも皆仲良く暮らしてたんだ」 それでようやく合点がいったレイ。  何故ニイルや獣人族のランシュを、森人族のフィオが兄妹と呼ぶのか。  それは過去に、家族として本当に過ごしていたからなのだと。「その時は知らなかったんだけどね。実はそこは色んな所から様々な事情を持った子供達が集められた場所だったの。私もとある理由からそこに預けられて育った」 その言葉にレイは思い当たる点があった。  全く喋らないランシュや、本来森人族では産まれない筈の赤髪を持つフィオ。  そういった何かしらの事情を持つ子供達で、その孤児院は構成されていたのだろう。「アタシより歳下の子が居なかったから、必然的にアタシが1番下の妹でね。当時は塞ぎ込んでいたアタシも、皆のお陰で元気になる事が出来たんだ」 遥か遠い過去に思いを馳せる様な、そんな目をしながら夜景を見続けるフィオ。  しかしその表情には笑みが浮かんでいた。「その時には当然ニイルも居てね。もちろん他のお兄ちゃんも居たんだけどそれでも1番優しくしてくれたんだ!だから家族の中で1番お兄ちゃんが好きなの!」  それにほんの少し頬を染めながらそう語るフィオ。  その表情を見れば誰でも、その感情が家族愛以上の物であると気付くだろう。「でもお兄ちゃん、その孤児院に来た当初は誰にも心を開いてなくて、今以上の冷たい考えを持ってたって皆が言ってたんだよ。当時は信じられなかったけどね。詳しくは知らないけど、それだけお兄ちゃんも辛い過去があったんだと思う」 それに驚きに目を見開くレイ。  現在ニイルが持つ思想の原点が、まさか幼い時からのものだったとは、流石に予想がつかなかった。  だからこそ、あれだけの確固たる意思を持って言えたのだと、今なら分かる。「でもアタシが来た時には全然そんな事無くて。家族の中で誰よりも家族を大事にしてた。そんな優しいお兄ちゃんだったから……」 そうして悲しげに目を伏せ、一呼
last updateLast Updated : 2025-08-13
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少女の決意

「だからレイもお兄ちゃんを嫌わないであげて。本当はお兄ちゃんも、レイの事大切に思ってるから」 そう語り終えたフィオは、いつもの雰囲気に戻りレイへと笑いかける。  しかしそれを経ても尚、レイの心の中には不安の種が燻っていた。「でもそれが本当だと、そう言えるのかしら……実の所は私の事なんて、利用価値が有るとしか思ってないのかも……」 フィオが語った話が、嘘だとはレイも思っていない。  しかし、ニイルの心情はフィオにも分からない筈である。  故にそう易々とその言葉を信じる事が出来なかった。  だがそのレイの不安を、フィオは一笑に付した。 「分かるよ。それだけ長い間一緒に居て、見てきたんだもん」 その言葉にはなんの証拠も無かったが、不思議と信じられるだけの確証を持ってレイには届いた。  それに、とフィオは続ける。 「ザジとの約束だって、本当だったらあの序列大会の時で終わらそうと最初は思ってたんだよ?でもお兄ちゃんがレイを放っておけなくて、今でもレイとの関係が続いてる。その証拠にお兄ちゃん、アタシ達にレイは大切か?って笑いながら聞いてきたんだよ?ちょっと嫉妬しちゃった」 とことん身内に甘いんだから、と付け加えるフィオに、レイは目を丸くする。  あんな話を聞いてから、ニイルがレイと行動を共にしてる理由は自分達の目的の為なのだという考えが、どうしても拭えないでいたレイ。  そんなレイを置いて更にフィオは続ける。 「お兄ちゃんはあんな考えを持ってるから、物腰が柔らかそうに見えても実際には他人に全く興味を持ってなくて、敵には必要以上に苛烈に対応するけど……その分家族だと思った相手にはとことん甘いの。その甘さはどうやっても変えられなかった。だからその甘さこそがお兄ちゃんの本当の芯の部分なんだよ」 呆れを含ませた苦笑を浮かべフィオは言う。  それはまるで出来の悪い弟を見る様な表情にも見えた。  その表情から察するに、まだ語っていない兄妹以外の側面も有るのだろう。  だがそれを感じても、もう不安に思う事など無かった。  いつか全てが終われば語ってくれるだろう、そう思えるから。  故にレイは最後に1つ、フィオへと問い掛けた。「じゃあフィオは、ううん、ランシュとフィオは、あんな事を言われても尚、ニイルについて行くのね?
last updateLast Updated : 2025-08-14
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少女の選択

 話が有る。  そう語ったレイの表情は、部屋を出ていった時とは真逆のもので。  憑き物が落ちように晴れやかに、そしてその瞳には確固たる決意が宿っていた。「なんでしょうか?」  その視線を真っ向から受け止め、ニイルはそう返す。 (思えばこの子は出逢った時から、自分で決めた意思だけは曲げずにいたな……) どんな相手だろうと復讐を果たす、その為に必要な事ならどんなに辛かろうと走り続ける。  とにかく真っ直ぐで、ひたすらに愚直な負けず嫌いだった事を思い出すニイル。  そんな眩しくも幼いレイだからこそ、かつて自身が抱き続けられなかった光を垣間見て、慈しみ、そして憧れたのだろう。「やっぱり考えたのだけれど、貴方の思想には賛同出来ない」  だからこそ、レイがこの選択をするという事は何となく想像出来ていたニイル。「でしょうね。では……」 (この関係も解消か)  その選択肢が過ぎったニイルだったが、しかしレイの言葉はその想像とは真逆の物だった。 「だからそんなモノを無視して、私は私の意思を貫く事にするわ」「……はい?」  予想外の言葉に素っ頓狂な声を漏らすニイル。(今の流れは完全に決別の流れだったのでは……?)  そう思っていただけに、レイの言葉の真意が理解出来ない。  そんなニイルに応えるかの様にレイが語り出した。 「フィオから少し聞いたの。貴方の事。貴方は昔起きた出来事の所為で、他人を拒絶する様になってしまったって」 その言葉にニイルはフィオを見る。  それにフィオは拗ねた様な表情でそっぽを向いた。  どうやらまだニイルに対しお怒りらしい。  そんな2人を置いてレイは続ける。 「でも私はもう皆の事を家族だと思ってる。家族なら一緒に居たいと思う事も、不思議では無いでしょう?」  言いつつフィオとランシュに視線を送るレイ。  2人は大仰に頷き肯定を示した。 それに、とレイは尚も続ける。 「他人の思想に、他人がとやかく言う権利は無い。だから貴方の考えを変えようと思わないわ。そして貴方も、私の考えを変えられない」 だから、と一拍置くレイ。  それはまるで自身の決断を再確認するかの様で。  そうしてレイは、選んだ未来を伝える為に言葉を紡いだ。 「私は私の意思で貴方達と一緒に居ることを選ぶ。そして選んだ未来を後悔しない為に、私
last updateLast Updated : 2025-08-15
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そして次なる目的地へ

「は〜……」  長い溜息の後、レイを真っ直ぐ見据えるニイル。  少し不思議そうな表情を浮かべる、まだ幼くも自分より強い少女に降参の意を示すべく、口を開いた。 「分かりました。そもそも勝手について来るというのなら、こちらがどうこう出来る話ではありませんからね。好きにしてください」 本気で拒絶すればレイも諦めると分かってはいるものの、あくまでレイに渋々付き合わされているという体で話すニイル。「ええ、好きにさせてもらうわ」 「あはは!」 それが分かっているからこそレイも笑顔でそう答え、フィオも思わず笑ってしまう。  その反応に照れくささを覚え、不貞腐れた表情を浮かべるニイル。  そんなニイルの背中にランシュが寄り添う。「…………」 「ランシュ……」 相変わらず一言も発さないが、それでもニイルには伝わったのだろう。  ああ、と小さく頷き真剣な表情でレイを見やる。「レイ、その道は私でも断念する程の過酷なものとなります。貴女はいつか非情な選択を迫られ、そして他人の死を目の当たりにする時が来るかもしれません。それでもこの道を諦めないと誓えますか?」 レイの覚悟を改めて問うニイル。  それはかつて自身に課し、そして果たせなかった誓約。  如何に強大な力を得ようと、その道程は生半可なものでは無いと言外に告げる。 それを受けてレイもニイルを見つめ返し言った。 「人の死に対して後悔することは有るかもしれない。でもこの道を選んだ事を後悔はしないわ。だって幼い時に果たせなかった願いだもの。今更後悔なんてする筈無いわ」 その言葉を聞き全員が思い至る。  レイの願いの理由。  人の命に固執するその理由を。  それはかつて民を、家族を、故郷を守れなかった事に起因しているのだと。 幼い頃から帝王学を学び、人の上に立つ意味を知り、そして守れなかった辛さを知っているからこそ、他人の命を軽視する事を嫌い、救いの手を差し伸べようとするのだと。(道理で……俺なんかより余程強い訳だ……)  幼い少女が抱えるには重すぎる覚悟に思いを馳せ、それでも尚折れない信念に、ニイルは苦笑を浮かべる。 かつての自分はその重責に耐え切れず投げ出した。  しかし目の前の少女はその責務を全うするのだという。  その生き様に敬意を評し、ニイルは改めてレイ
last updateLast Updated : 2025-08-16
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幕間〜英雄達の選択〜

「ここは……」 薄暗い部屋の中、目を覚ます。  寝惚けた意識で辺りを見回すと、どうやらここは牢屋の様で。  自分はそこに備え付けられていたベッドで寝ていたのだと悟る。 段々と意識がハッキリしていくにつれ、自分の置かれた状況に見当がつき始めた頃、声が響いて来た。 「ようやく目が覚めた様だな」 声の主はどうやら隣の部屋に居る様で、その姿は見えない。  しかし聞き慣れたその声は間違う筈も無く。  そして同時に、その声で完全に覚醒した意識が現状を理解させて来る。「その声の調子からして、君の方は無事だと思っても良いのかな、ブレイズ?」  体を起こし、相棒たるブレイズにそう答えるマーガ。「お前よりはな」  そのブレイズの声音には、マーガしか気付けないであろう安堵の色が滲んでおり、どうやら自分が中々に厳しい状況に置かれていたのだと察する。 改めて周囲を見回すと、どうやらここは地下牢の様だった。  窓は1つも無く、ジメジメとした環境は嫌でもマーガを陰鬱な気分にさせてくる。  しかしそんな気分に引っ張られている場合では無い。  今は一刻も早く現状を確認する事が先決と判断し、ブレイズへと問い掛ける。 「ようやくという事は、僕は結構寝ていたのかな?」 「そうだな、ここに運ばれてからお前は10日間も眠っていた。かく言う俺もここに来てから2日は寝ていたと聞いているが……」 「10日!?」 その言葉に驚き、改めて自身の体を確認するマーガ。  道理で先程から体が思う様に動かなかった訳だと、その理由に得心が行く。  治癒魔法では筋力の衰えや空腹を癒す事は出来ない。  意識が無かった事から、栄養も十分に摂取出来ていなかったのだろう。  そういった意味では、確かにマーガは生死の境をさ迷っていた様だ。  もう少し意識を取り戻すのが遅ければ、そのまま永遠に目覚める事は無かったかもしれない、そう肉体が告げてくる。 しかしブレイズは意識が無く知らない事だったが、本来レイとの戦闘でマーガは死ぬ覚悟を決めていた。  でなければ魔薬など使える筈も無い。  アレを使えば最後どうなってしまうのか、マーガは十分理解していた。 なのに生きている。  どうして生き残っているのか、そして先程のブレイズの言葉で気になった点について
last updateLast Updated : 2025-08-17
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幕間〜這い寄る悪夢〜

 激しく打ち付ける雨の中を進む1隻の船。  日も沈み、暗く荒れた海を突き進むその船内は、外の気候とは打って変わって大きな賑わいを見せていた。 かなり大き目なこの船に乗っているのは、如何にも荒くれ者と呼ばれる様な見た目の男達。  正にその通りで彼等はこの辺りを縄張りとする、所謂海賊と呼ばれる者達だった。 ここは近年、観光地として大きな発展を遂げて来た国の近海であった。  とある獣人族の男が100年ほど前に建国し、そして今では世界でも有数な観光地、そして貿易の中心となった国である。  その影響は凄まじく、他種族を嫌う貴族が多い中、この国だけは例外として別荘を建てたり観光に訪れたり、更には別の国の王族すらもお忍びで訪れる等、地位に関係無く人気が高い国として名を馳せる程。  そんな国であれば金の流れも大きくなり、様々な国や団体、企業からの援助も増え、貿易も盛んとなるのは必然だった。  今ではこの国の物流が滞れば、世界の物流にも多大な影響を及ぼすとすら言われる程にまで成長を遂げていた。 だからこそ様々な思惑も交錯する。  特に比較的歴史の浅い、更に亜人族の国である。  華やかな面も有れば、普通の国よりも闇の深い面も存在した。 この海賊達も、その闇の部分の一部であった。  彼等はこの国にやってくる商船を襲い、食料や金目の物を奪うだけでなく、近隣に住まう亜人族を攫い奴隷商に売り付けて金を稼ぎ生活していた。 もちろん、亜人族の国がそんな事を許す筈も無い。  過去に何度もこの一団を捕らえようとする動きはあったのだが、上手い事立ち回り彼等の手から逃げ延びていた。  お陰で今ではこの周辺で一番の大きな一団となり、国すらも迂闊に手を出せなくなる程にまで勢力を拡大するに至った。 そんな彼等だからこそ本日の仕事も簡単に事が進み、朝には大きな商船を襲う事に成功。  更につい先程この近辺に住まう、世間ではマーメイドと呼ばれ高値で取引される若い魚人族の女性を3人捕らえていた。  それ故に食料も潤沢、当分の資金にも余裕が出来たとあれば浮かれるのも仕方の無い事だろう。  船内は男達が酒を飲み交わし、宴会の様相を呈していた。「いや〜今日は大当たりでしたねお頭!まさかあんなにデカイ商船だけじゃなく、恰
last updateLast Updated : 2025-08-18
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忍び寄る不安

聖暦1594年  レイ達一行がフィミニアを旅立ち、1年以上が過ぎた。  道中、『柒翼』の情報収集を行いながら鍛錬を絶やさなかったレイ。  残念ながら新たな情報を得る事は出来なかったが、修行と更に1年以上という年月がレイを心身共に成長させていた。  急ぐ旅でありながらこれだけの日数が掛かっているにも関わらず、レイが余裕を持って行動出来ているのもその成長の現れだろう。  見た目も大分大人びた雰囲気を醸し出すようになり、間もなく20歳を迎えようとしている事も相まって、今では絶世の美女として成長していた。「見えましたね」  そしてそれとは対照的に、見た目の変化が全く無いランシュとフィオ、そしてニイルが目の前を指さしてそう言う。「あれが……」  整備されていると言ってもここ数日はひたすら街道を歩き続けただけに、感慨深そうに呟くレイ。  その視線の先、そこには鮮やかな海と多数の船、そして人々の営みが垣間見える港町が映し出されていた。 「それなら明日、久しぶりに船を出すからそれに乗ると良い。これを逃すと次は何時になるか分からんから、お前らは運が良いな!」  受付の男はそう語る。 ここは港町の船着場。  船に乗る為受付へと向かったレイ達一行を待ち受けていたのは、受付の男性からのそんな言葉だった。「失礼。久しぶり、と言うのは?」  それに代表してニイルが口を開く。  その問いに顔を顰めながら男は答えた。 「丁度1週間位前だったか?オスウェルド大陸の近海にバケモノが出たって話でな?あそこに向かう商船や漁船が襲われて帰って来ないってんで、ここ数日は船の往来を禁止してたのさ。そんで亜人の海上警備隊が護衛をしつつ調査するってんで、明日各地の港から船を一気に出すって訳よ」  ようやく積荷を捌けるぜ、と辟易しながら男は言う。 オスウェルド大陸とは、これからレイ達が向かう目的地の事である。  そこに亜人達の国が有るのだが、そこへは船でしか辿り着く事は出来ない。  ただ現在、他の港町も含めオスウェルド大陸行きの船は全て往来を停止しているそうだ。  そして明日の便以降、いつ復旧するか分からない、というのが現在の状況らしい。  男の言う通り、丁度良いタイミングと言えた。「何故バケモノだと分かったの?」  今
last updateLast Updated : 2025-08-19
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デミーラ共和国

 デミーラ共和国。  今からおよそ100年前、現頭首であるディード・ホグウェルがオスウェルド大陸にて作り上げた獣人の国である。 オスウェルド大陸とはアーゼストの中でも2番目に小さい大陸、そして太古より亜人達が暮らす大陸として有名であり…… かつては人間と亜人間の確執と迫害の象徴たる存在でもあった。 亜人族は例外も存在するが、基本人間族よりも長命である。  それ故人間族よりも個体数が少なく、絶滅の危機に瀕している種も存在した。  しかしその最たる理由が、長きに渡る人間からの迫害であった。 遥か昔からその希少性や多様性などから、亜人族は観賞用や労働力として人間族から扱われてきた。  それに加えて見た目や能力が自分達と違うから、そんな理由だけで殺されたり追い立てられたりする事が常であった。  対して亜人族も、自分達こそが優れた人類だと主張し、特に年齢を重ねた存在程神を信じ、その神に作られた選ばれし存在だとして、数が多いだけの人間族を見下してきた。 そうしてる内に、気付けばお互いのテリトリーが出来上がり、ほとんどの亜人族はオスウェルド大陸に住み始め、そこから出た亜人族は人間に迫害されて当然という扱いが定着していた。  逆もまた然りで、オスウェルド大陸に足を踏み入れた人間族が、その後無事に帰ってきた事例も存在しない。 そんな両者が大きな戦争を今まで起こさずこれたのは、偏にオスウェルド大陸のお陰であろう。  この大陸は世界的に見れば小さい方だが、それなりに広大な土地を有している。  そしてその大半を豊かな自然が占めている為、亜人達が住みやすく、また農作物も潤沢だった。  更にオスウェルド大陸は陸続きでは無く、周りを海に囲まれている。  レイ達がこの地に辿り着くのに1年以上経過した理由がこれであった。  フィミニアが有るズィーア大陸からオスウェルド大陸へは、遠過ぎて直通の船が存在しない。  最も最短だったのが、テデア大陸にある港町だったのだ。 そんな巨大な島を連想出来る場所故に、海産物も豊富、何より攻めにくいという利点を生んだ。  海上戦が得意な魚人族や、空中戦で有利な鳥人族を乗り越え仮に上陸出来たとしても、地上には人間の魔法師よりも優れた魔法の使い手である森人族、人間族では考えられな
last updateLast Updated : 2025-08-20
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束の間の休息

「暑い……」  デミーラ共和国に降り立って、レイが最初に抱いた感想がこれであった。  ズィーア大陸やテデア大陸の気候に合わせた服装のままだったレイ。  そんな彼女の額に汗が滲む。 ここオスウェルド大陸は今までの大陸と違い、温暖な気候が常に続く場所である。  乾燥する程気温が高い訳でも無く定期的に雨も降り、実際樹海に足を踏み入れればかなりの蒸し暑さに襲われる。  しかし沿岸部の開発された場所では快適な環境が広がり、カラッとした気候に気分も晴れやかになる、そんな空気感が出迎える。  リゾート地として栄えたのも頷ける環境であった。 しかし現在は浜辺で遊ぶ人は見受けられず、よく見れば立入禁止の文字と共にビーチ周辺は封鎖されている。(例のバケモノの影響かしら。観光していると思しき人も見受けられない。皆ここに集まって来ているわね)  そんな事を考えながら振り返るレイ。  視線の先には積荷を運ぶ人々、そしてそれ以上の観光客と思われる人々が乗船場所に集まっていた。「ちょっと!割り込まないでくださる!?」 「うるさい!私達はもうここに1週間も滞在させられているんだぞ!?一刻も早く帰らなければ!」  そんな喧騒がレイの耳に届いてくる。(向こうに送る積荷の分、乗員の制限の所為で暴動が起きかけてる。何とかしたいけれど……)  今も乗船場所には人がどんどんと集まっており、人で溢れかえりそうになりつつある。  このままでは怪我人も出てしまう、そうした懸念から引き返しそうになるレイだったが。「行きましょう。このままでは人の波に呑まれて動けなくなる。今、完全な部外者である私達にはどうする事も出来ません」 「……そうね。今は私達の出来ることをやりましょう」  ニイルの言葉で再び歩き出す。 たった今この地に降り立った自分達が何を言おうと、火に油を注ぐ事になりかねない。  暴力沙汰になっているのならまだしも、そこまでの事態に陥っていない以上、当事者間の話し合いで解決するのが1番早いだろう。  そう考え、レイ達はその場を後にするのだった。  レイ達一行が最初に足を向けたのは冒険者ギルドだった。  この付近に何が有るのかすら知らない状態である。  情報収集も兼ねてディード・ホグウェルの所在を訊こうとの考えだった。「失礼。今日
last updateLast Updated : 2025-08-21
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浜辺で暴れる3女神

 翌朝、レイ達4人は宿泊していた宿を出てギルドへとやって来た。  本日の魔獣討伐の依頼を確認する為である。「あぁ!昨日の皆さん!おはようございます!こんな朝から依頼を受けてくださるのですか?」 「えぇ、昨日の話では一晩でかなりの数の魔獣が湧くのでしょう?なら早くから行動した事に越したことはないので」  フードの4人組という怪しい出で立ちだが、だからこそ覚えられていたらしい。  昨日の受付嬢が対応したので、各々挨拶を交し代表してニイルが答える。「とても助かります!では皆さんのランクを鑑みて……こちらの依頼は如何でしょうか?」  受付嬢が1枚の紙を差し出してくる。  依頼内容が詳細に書かれたその紙を確認する4人。  内容は…… 「浜辺に現れる魔烏賊の討伐……数は不明」  レイが小さく呟く。 魔烏賊とは体長2m程のイカで、それが浜辺で出没しているらしい。  そもそも魔獣とは、様々な要因によって魔力を得て進化した生物の総称である。  動物に限らず昆虫や植物等様々な種類が存在するが、その全てにおいて凶暴化、巨大化、そして魔法を使うという共通点が有った。  今回はこの近海に住まうイカが魔獣化し、暴れている様だ。「不明という事はそれだけ数が多いという事ですか?」  ニイルが受付嬢に問う。「そうなんです。毎日それなりの数を討伐しているにも関わらず、翌日にはまた大量に発生しているんです。お陰で人手が足りなくなって困っていたんですよ」  受付嬢が困惑顔を浮かべながらそう答える。  それに先日に引き続き、またしても無言になり考え込むニイル。  しばしの間の後、ニイルはその依頼用紙を受け取り口を開く。 「分かりました。出来る限り討伐しておきましょう」 そうしてニイルは3人を引き連れ、ギルドを後にするのだった。 「ねぇ、そろそろ何が引っ掛かっているのか聞きたいのだけれど?」  浜辺に到着すると、レイはニイルにそう問い掛けた。  そろそろ長い付き合いになってきた関係である。  彼が何を考えているのか、少しは分かるようになってきていた。 (まぁ、それでもほとんど何考えてるのか分からないのだけれど……) しかし昔より秘密を開示してくれている事に、最近は嬉しさを感じているレイ。  ニイルの方も、問われれば答えると
last updateLast Updated : 2025-08-22
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