All Chapters of 捨てられ妻となったので『偽装結婚』始めましたが、なぜか契約夫に溺愛されています!: Chapter 71 - Chapter 80

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71

  蓮司を意識して迎えた朝。彼が夫として私の目の前にいる喜びと尊さに感謝。 シリウスの散歩に一緒に出掛け、軽いモーニングで一緒に食事。遠慮なく一緒に出社して席に着く。  さあ。今日も仕事頑張るぞ! 朝礼・ミーティングを終えて席に着き、早速クライアントからのメールをチェックしていると外線が鳴った。この部全体にかかってくる電話なので、誰が撮っても構わない。私がすぐさま受話器を上げた。 「お電話ありがとうございます。――はい」  ニシトモ、と社名を聞いた瞬間、背筋がすっと伸びる。 『先日は御社の御門さんにわざわざご足労いただいて、こちらの確認不足で申し訳なかったね」  担当は永井さんとおっしゃる初老の方。システムにはあまり詳しくないため、うちに丸投げされている。監修から設置、サービスその他アフターフォローまで諸々。「御門さんはいるかな?」「申し訳ございません。御門はただいまミーティングにつき、席を外しておりまして。よければわたくしが伺いますが、いかがされましたでしょうか?」「ええとね。今度は神戸の新店舗のシステムチェックをおねがいしたいんだ。御門さんは若いのにとても優秀だし、現場をテキパキしきってくれて、感動したんだよ。よければ神戸の方にも研修指導で来て欲しくてお願いなんだけど」 「左様でございましたか。では、わたくし、中原がその旨伝えます」「中原さん?」
last updateLast Updated : 2025-10-10
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73

 業務効率化で仕事を本気モードで明日分まで終わらせ、帰宅後、すぐにシリウスを連れて蓮司の実家へ。ご挨拶もそこそこに再度帰宅。今日は食事を作る時間がないと考えてくれていたおかあさまが、お弁当を用意してくれている。なんと…ありがとうございます! 帰ってからすぐにふたりで豪華なお弁当をいただいて、各自の荷造り。私は明日のスーツに軽くスチームアイロンして、歩きやすいパンプスを出す。替えのストッキングも一応用意。最低限の化粧品。筆記具と付箋、ホチキス、マスキングテープ――現場であったら助かるだろうセットをサブポーチにまとめる。アクセサリーは邪魔になるかな。でも、蓮司がプレゼントしてくれたブレスレットは着けておきたい。「風呂、今沸かした。先にひかりが使ってくれ。今日は早く寝よう」「はい。ありがとうございます」 お言葉に甘えて先にお風呂をいただいた。湯上がり、ドライヤーの風が止むと、部屋の音が静かになる。ベッドに入る前、私はブレスレットに触れる。さっき交わした短いやりとり。『おやすみなさい、蓮司。明日、よろしくお願いします』『こちらこそ。おやすみ、ひかり。出張一緒で楽しみだ』 蓮司の言葉に思わず今日いちにちの疲れが吹き飛んだ。  幸せだなぁ~♡&n
last updateLast Updated : 2025-10-12
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74

  タクシーが海側へ抜けるころ、窓ガラスに落ちる粒が急に大きくなった。ぽつ、が、ぱらぱら、になり、次の信号ではもう、ざああっと景色ごと流していく。  結構本降りになってきたので、タクシーが建物の中の駐車場付近に停まってくれたので濡れずに中に入れた。エレベーターで3Fへ向かう。  ハーバーランド内は雨に包まれていた。半分外だから、雨足が強くなってきたので風に雨が吹かれて濡れる。入口付近で蓮司が「タヌキオヤジ」と表現した永井さんが立っていた。うん、相違ない容姿。 「雨の中ご苦労さん。本当はオリエンタルホテルが見える席で、うまいから揚げを食べてもらおうと思ってたけど、無理だったね」  彼が予約してくれていた店に入る。席も予約してくれているので、窓際に案内された。テラスが見事にびしゃびしゃになっている。ガラス越しにハーバーランドの夜景は雨のベールの向こうにぼんやりしていた。 「君が蓮司君の奥さん?」「あ、はい。主人がお世話になりました」「いやいやいや、お世話になったのはワシの方だから」「とんでもないことでございます」 恐縮しちゃうな。「それにしても別嬪さんだね。ボクがあと20年若かったら口説くのに」「ちょっと永井さん! 妻はあげませんよ」蓮司が彼を睨みつけた。
last updateLast Updated : 2025-10-13
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79

 翌日。朝いちの始発に乗り込んだ。夜中のうちに大雨は去ったけれど、天気は悪く重い雲が神戸の空に広がっているため、窓の外はまだ真っ暗。昨夜の雨の名残だけがガラスに点々と残っていた。 横並びの席、通路側の蓮司は「寝てていい」と言いながら、私の首元のスカーフを直してくれる。触れた指先が一瞬だけとどまって、昨夜の熱が胸の奥でぽっと再燃する。彼とのキスを思い出す。(帰ったら話す――)  その一言が、なんども頭の中を巡った。いったい何を話してくれるんだろう。  思わず期待してしまうけれど、あまり期待して天国から地獄へ落ちるのも嫌だ。過度な期待は禁物だと思うも、あのキスの意味の答えを聞けるのだと思ったら…。ぐるぐるぐるぐる、思考が回る。  始発ということもあり、私たちは多くを語らず、東京に着くとそのまま会社へ。コーヒーを二つ買って、無言で片方を渡してくれる蓮司に「ありがとうございます」とだけ答える。言葉にしなくても、今はそれで十分だった。 やや遅れて出社し、ミーティングに参加。急な出張だったから仕事が溜まりまくっていて、午前は怒涛。私は現場メモを清書し、指示ポップのデータを共有し、神戸店向けのフォローアップメールを打つ。席を立つたびにブレスレットの小さな鍵が手首で揺れて、気持ちが整う。蓮司は部門横断の報告ミーティング。扉が開くたび、目だけで「大丈夫か」と聞いてくるから、目だけで「大丈夫」と返す。 いつもの仕事、いつもの私たち。  なのに、昨日の出来事があったから、心の深いところだけが違う。  蓮司と、ほんとうの夫婦になれるのかな――「午後の資料、置いときます」 「助かる」 短い会話でも嬉しい。昼は亜由美と早めに済ませ、彼女には昨夜のことはもちろん黙っておく。言葉にした途端、どこか壊れてしまいそうで怖かったから。  ちゃんと整ったら、決まったら、亜由美には一番に言おう。 終業間際、内線が鳴った。受付からだ。『御門本部長あてにご来客です。ロビーで九条家の方々がお待ちでございます』 九条?  どうして会社に?「かしこまりました。伝えます」 蓮司のデスクに行って、九条様がロビーでお待ちのようです、と伝えた。彼は端末を閉じて立ち上がった。「ひかり、一緒に来
last updateLast Updated : 2025-10-18
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80

 スーツの男性のひとりが封筒を軽く掲げて言った。「至急ご確認いただきたい書面がございます。できれば本日中に、九条邸で」「ここは会社です。要件は執事経由で」と蓮司が低く返す。けれど男性はひるまない。そうやって真白さんに言われたのだろう。「正式な照会です。御門家の母君にもお越しいただいております」 空気が一段冷えた気がした。私は横目で蓮司を見る。彼は私にだけ届く小さな声で、「行こう」と言って頷いた。 会社前には黒塗りが二台。真白さんがにっこり(口角だけ)。「ご夫婦でもお車は別でお願いしますね。道中で打合せをされると困りますもの」 彼女はいったいなにをするつもりなのだろう。怖い…。  もうこうなったら私がなにか口を挟んだりしない方がいいだろう。正直であることを心がけ、説明は蓮司に任せよう。本家を巻き込んでなにかとんでもないことが起ころうとしている。 身に着けている手首の小さなチャームを押さえた。大丈夫。蓮司と離れたりなんかしない。 車は夕暮れの街を縫う。信号待ちで、窓に自分の顔が映る。もっと不安げかと思っていたけれど、案外強そうに見える。よし、それでいい。雰囲気にのまれたりしたらダメ。なにがあっても、ちゃんとしよう。  雨上がりのアスファルトが黒く光り、タイヤが水を切る音が規則的に続く。 やがて九条家に到着した。高い門が音を立てて開く様は、まるで隔離された別世界へ迷い込む入口のような気がしてならない。砂利の感触が足裏に移る。通されたのは広間ではなく、逃げ道の少ない小客間。低い卓、向かい合わせの座。香炉から柑橘のような香りがごく薄く漂っていた。  お母さまはすでに到着されていた。無表情でこちらを見ている。あんなお顔は初めて見た。  あまりの物々しさに、先ほどの自信はどこかへ消えてしまった。  どうしよう。いったい、なにを言われるの?  「単刀直入にうかがいます」 彼女が顎をしゃくった。先ほど会社で私たちに封筒を見せてきた男性が一礼してそれを真白さんの前に置いた。封が切られ、黒塗りの卓に白い用紙が鋭く映える。「どうぞ、御覧になって」 視線が書類に吸い寄せられる。それを見た瞬間、胸の内側で何かがきしんだ。【結婚契約書案(ドラフト)】 本契約は中原ひかり(以下、甲)と御門
last updateLast Updated : 2025-10-18
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